氷点火山 20
8ポイント。一回の攻撃フェーズで4ポイントということになる。Turn3と合わせて7ポイント、この2ターンの追い上げ方は、誰がどう見ても"おかしい"ものであった。静かだった会場もこの追い上げで再び沸騰することはなく、むしろより静寂に包まれていった。フィールド内にいる体の自由が戻ったノックの荒い息遣いが聞こえてくる。短時間とはいえあれだけ飛び回った彼の体力はそうとう消耗しているはずだ。もちろん、属素も……。これでノックと氷室の点差は3ポイント。しかも氷室は7ポイントを超過しているため、ノックは次の攻撃で7ポイント目を獲得しても負けが確定する。最低でも3ポイントを得て延長戦に持ち込むか、さきほど氷室がやり得た4ポイント獲得、これと同じことをするしかない。
〈能力の解除を確認しました。それでは攻守を交代します。Turn4-2、開始〉
疲労はしている。残り属素はあとどれくらいか……考えれば不安なことはいくらでもある。だが、それでも彼の身体は動いた。少しも乱れることなく、まずは氷室の懐に潜り込む。そして一撃。
〈大打撃、榎田2ポイント。合計で7ポイントになりました〉
本来なら勝利条件はこれで満たされる。これ以上攻撃する必要はない、あとは立ち尽くし、時間切れを待つだけでよかった。だがこの試合は、あの氷室というランクAの化け物のせいであと1ポイントも余分にとらなくてはいけない。ノックは加速する。即座に氷室の視界から姿を消し、死角から迫る。
「はぁ……!」
拳に爆発力を載せた一撃を見舞う。
〈防御氷室選手1ポイント。合計で9ポイントになりました〉
「ッ……!!」
やはり二撃目には防御が間に合ってしまう。だが、このフェーズだけはここで手を止めるわけにはいかない。ポイントを取りに行くしかない、攻撃し続けるしか無い。いまの防御で点差はまた2ポイントになってしまった。
だがそれでもいい、破壊さえできれば。
氷室の盾は身体の周囲に張り巡らせる球体のバリアのようなものだ。ノックの姿を目で追えないが為の全体防御なのだろうが……
最後の最後でノックはそれを逆手に取った。同じ場所を、氷の盾の同じ場所だけを、ひたすら拳で殴る。何度も殴る、間髪入れずに殴り続ける。同じ攻撃を繰り返す以上、同じ盾で防がれる以上氷室に追加ポイントは発生しない。ノックがこの試合で勝つためにはこの盾を壊すしか無い。いったいランクAの盾はどれくらい強いのか? 気にするな、殴れ。残り時間はあとどれくらいか? 気にするな、殴れ。とにかく殴れ。壊せ。壊せ。壊せ……!
それでもヒビすらはいらない、わずかに削れているかもしれない、でも盾の破壊にはつながらない。ノックの拳はもう血で赤く染まっていた。これ以上殴り続けたら骨折するかもしれない、構わない。試合に勝てるのなら、構わない。
だがこれ以上殴り続けたら、流石に防御判定が入るかもしれない。
それはダメだろう。ダメダメだろう。
(だったら、頃合いだ)
氷室の白い光に圧倒されて完全に言葉を失っていた会場が、ふと赤い光に包まれる。
それは全体攻撃などではない、拳だ。彼の身体のほんの一部、拳だけが強すぎるほどの光を帯びていた。
〈多角大量変換〉
攻撃フェーズが始まってからずっと裏で作っていたものだ。たとえランクAの盾だとしても、広範囲の盾のうち、一点だけを攻撃し続けて、なおそこに強烈な一撃を叩きこんだらどうなるか。
(なぁ巡。お前にだって耐えられないだろうよ)
全身の重みをのせた爆炎の拳を、思い切り叩き込む。
――ドスンと、重い衝撃が広がった後、粉々になった盾もろとも、氷室は吹き飛んだ。
〈破壊&大打撃、榎田3ポイント、合計で――〉
これで計10ポイント。一分までもうそんな時間もないだろう。あとは立ち尽くし、タイムオーバーを待つだけだ。意識が遠のきかける、疲弊か、あと少しだけ耐えろ、ターン終了まで、倒れるな。
俺は、勝ったんだ。
†




