氷点火山 13
瞬時に、氷室の長髪が毛先から肩のあたりまで真白に染まる。そのプレッシャーは宮前たちの元まで届いてきた。シールドが防いでいるのだろうが、彼の周りにはまるでこちらに届いてきそうな白い冷気が漂い始め、それらは十数カ所に分割して集まり、気がつく間もなくは氷の長棒となってノックに狙いを定めた。シンプルな形で脅威も感じにくい彼の能力は、きっと彼なりの"反則防止"なのだろう。彼であれば……いや、彼でなくともイメージさえしっかりとしていれば剣のように創造することだって可能だ、以前巡が氷柱の形にしたこともあったが、あれも単純な形故に形成しやすく、それでいて鋭利な部分を持った便利な武器となる。
その点で言うなれば、この大会において殺傷能力の必要性は皆無である。故に食す者が最も形成しやすい、最もシンプルな形こそが最前の、最速の一手となるのだ。
撃ちだされた彼の能力は、どれくらいの人間の目に追えただろうか。
(駄目だ、ぜんっぜん見えない)
そう巡がため息をつくのは当たり前として。
1本目2本目とほぼ同時に撃ちだされ、ノックはすかさず横に飛ぶように走りだした。彼の髪はまだ毛先の方しか赤く染まっておらず、能力を発動する気配もなかった。ただ走る、ひたすらに氷室の追撃から身を逃す。フェイントを入れて3本目と4本目をかわす。
「ノックさん、防御を試みる余裕もないといった感じですね……」
宮前の目には戦況がハッキリと見えていた。浩仁も同様に氷室の射撃1つ1つを全て目で捉えている様子だ。
「下手な盾で防ごうものなら破壊されて相手にポイントあげるだけだからね~、守備側の完全なリスク回避なら、相手の攻撃を全部避けることかもしれないよ」
ノックは依然と氷室の攻撃をかわし続けている。数本程度では彼は避けると理解した氷室は即座に射出本数を追加、4本同時射出、5本同時射出と攻撃の手を休めない。これらは全て直線軌道であるから単純に命中範囲が拡大されたといっていいだろう。それならばと、ノックは一際大胆に動きを取るように避け始める、が……虚をつくように氷室は長棒を8本同時射出する。そして撃ちだされた直後にそこには新たに長棒が存在している。
「……なァ、本当に避ける事が低リスクなのか? あの速度で射出されるあいつの攻撃を1分間も能力無しで避けるっつーのは、オレにはハイリスクにしか思えねーンだが」
会場が徐々にざわつきだし熱を帯びていく。フィールドで乱舞しているのは氷結の武器で、追い詰められる炎の使い手には少しの熱も感じないのに。
「…………?」
10本の同時攻撃をノックが避けた時だった。
――ようやく、宮前が違和感を憶える。
〈一分経過。Turn1-1を終了します。お互いに能力を解除してください〉
フィールドの2人が動きを止め、髪色を黒く戻しながら定位置へと戻っていく。そのうちの一人、氷室の表情を見て、宮目は確信した。
「違う、違うよみんな……あんなの、普通避けられない――」
〈能力の解除を確認しました。それでは攻守を交代します。Turn1-2、開始〉
そして起こった。それは氷室の"信じられないものを見た表情"を目にした宮前が次の言葉を紡ぐよりも早く、氷室が守備に備えるよりも早く。
「まずは二点」
ノックは、既に氷室の背後に身をおいていた。
ボン。と、とても控えめな爆発音が響く。誰もが何が起きたかを理解できずに硬直した静かな空間に、なんの抵抗もできなかった氷室の体が前に押し出され、うつ伏せに倒れこむ音までもが響き渡る。
〈――大打撃。榎田2ポイント〉




