氷点火山 10
巡を除いた共存部一同は肩をビクつかせる。
「うっわすっごい人気。浩仁センセーあのひと誰なわけ?」
「わりぃ、今回はなんも調べてねェんだわ。ただ、今の歓声で相当人気ってのはわかったな。それに氷の使い手でランクAってつまり……」
浩仁が右の宮前、そして水瀬の横に座る巡を横目で見やる。
(実質、コイツよりも強えってこったろ)
「そっか、みんなこの人を見に来たんだ……」
入場口から長い黒髪を後ろで結いた男子生徒が姿をあらわすと、会場は一層騒がしくなった。中央の地面より30センチほど高い円形フィールドは最前席に座る宮前達よりもさらに15メートルは離れている。彼がそのフィールドに立ち入ると同時に、次の放送が流れた。
『対戦相手、榎田 陸。炎の使い手。捕食者階級:B』
やはり、この大勢は氷室の関係者らしかった。榎田の名前を聞いて反応した者は、先の何百分の一にも満たないほどだ。
現れたのは、少し髪の伸びた見覚えのある生徒だ。ちょうど巡と同じくらいだろうか、輪郭に触れるくらいの黒髪を揺らしながらゆっくり、ゆっくりとフィールドへと近づいていく。
「なんか……雰囲気違う気がするんだけど」
「我が娘もそう思うか? アイツはもっとこう、活発っつーか、慌ただしいっつーイメージがあったんだけどな」
今の彼はまるで違う。悠然とした態度、鋭い目つき、何もかもが学校や肉屋でみた彼とは異なって見える。そんな宮前の視線に気づいたのか、ノックは目ざとくこちらを見つけ、ニィっと笑ってみせた。
「本当にアイツなのか……?」
「私もわからなくなってきた…」
『選手が位置につきました。対属素シールドを展開します。皆様席にお付きください』
一瞬、宮前の目の前の空間に違和感を覚える。それを見たのか左から声がした。
「今のは観客席まで能力が飛んできても大丈夫なようにするバリアを展開したんだよ~、透明でほとんどあるかわからないケドね」
触っても大丈夫だけど怒られるよ~と水瀬が続ける。確かに、フィールドとの間隔が15メートルというは安心できる距離ではなかった。ましてや巡よりも長けた氷の使い手だ。宮前の記憶には30メートル以上離れた場所からレベル3の食われるモノを一撃で倒した巡の能力がある。
「……このシールドって、どれくらい丈夫なんでしょう?」
思わず水瀬に聞いてしまった。フィールドは少なくとも半径20メートルはある。能力の発動位置が中央だとしてもここまでの距離はフィールド先端と観客席との距離15メートルを含めても40メートル弱だ。繰り返しになるが、宮前の記憶には巡の能力が根付いている。
「どうなんだろうねー、コレが破られて観客が怪我をした事はいままでになかったと思うけど。あとコレ、もう1つ展開されてるから安心していいんじゃないかな~?」
そう言って水瀬がフィールドの端を指さし、ドームを描くようにもう一方までをなぞった。
「観客席の最前からドーム型に展開されてるシールドに加えて、フィールドにももうひとつ、ね? もしフィールド側のシールドを能力が通過しても、こっちのシールドがなんとかしてくれるでしょ~。――それに、この大会は能力の強力さを競うものじゃないし」
「――え?」
ふと、おかしな言葉を聞いた気がして宮前は疑問を零した。「能力の強さを競うんじゃないんですか……?」
大会、というくらいなのだからてっきりそうだと思っていた宮前だが、水瀬はそうではないと言う。
「能力部大会なんですよね? 能力の腕比べをするわけではないんですか?」
「うん、腕比べだよ?」
「え? あれ??」
宮前はますますわからなくなる。能力の強さを競うものではないのに、その内容は腕比べである。やっぱりおかしいとおもう。それとも、おかしな事を言っているのは自分なのだろうか。




