氷点火山 9
「――は? え? なんで…?」
ロビーに入って間もなく、聞き覚えのある声が3人にかかる。
「あーメグルだ~、アヤの言うとおり本当に来てたねぇ」
「いや、いやいや。本当に来てたねぇじゃなくて。は? なんでいるの?」
その態度はいかにも信じられないといったもので、ひょっとしたら怒っている、気がしなくもなかった。
「いや、とくにこれといった理由はないんですが……」
(我が娘よ……それは分かりやすすぎる嘘ってやつだぜ)
「綾、さ」
ずいっと、巡が宮前の方につめよる。
「は、はい」
「チケット、あげるって言ったよね」
ずいずい。
「え、えと……そうですね」
「俺、行きたくないから、代わりに行ってくれてもって、さぁ」
ずいずい。
「は、はいぃぃ」
(巡さん、お顔が近い、です……)
巡は宮前に対しての疑問のあまり気づいてないのか、2人の顔は十数センチのところまで接近していた。
「チケットもらってくれても良かったのに、おかしいよね? 確かにチケットもらったのは俺だから仕方なく、仕方なーーーく見に行ってやろうとは思ってたよ? だから別に一人でここに来たのはいいんだ、もう許した、と言うか受け入れた。でも、さ? おかしくない? おかしいだろ、なんで綾がいんのさ、綾だけじゃないわ、薗もいた。絶対おかしい。うわっデカブツまでいる」
「てんめぇやりたい放題言いたい放題だな!!」
真っ赤になった宮前を引っ張りながら浩仁が筋肉声をあげる。
「やられたのはこっちの方だわ! なんで来やがった!」
しかし巡も引き下がらない。こうなるとますます気になるのが心理というものだ。
「いや~来てよかったかな~? こんな取り乱してるメグル見れただけでもう超はぴはぴだよ~、あとさっきアヤにやったの、あたしもメグルに嫌がらせすればやってもらえる?」
「やかましい! 今からでも帰れよ! マジで!」
「んな勿体ないことできるわけねーだろ! わざわざ委員会の力かりてお前の隣の席譲ってもらったってのに!!」
その一言で、巡の中の世界が凍結する。
「――――はぁー!?!?!? 今なんて言った!? 今なんて言った!? 俺の隣!? 馬鹿なの!? なんで! よりにもよって! 隣なんか! 取りやがったこのクソ教師!! はやくプリン買ってこいよ!」
「なんでや! プリン関係ないやろ!!」
「うるせー! 帰れー!!」
「あはははは! メグルが、メグルが壊れた!! あっはははは!!」
「ちょ、水瀬さん……巡さんは本気で怒ってるんですから、笑っちゃ失礼ですよ……ふふ、あはは」
「お前も面白がってんじゃねぇか!!!」
「いやまあ落ち着けよお前ら……いや今の巡クンはクッソ見ものだけどな、グフ……流石に周りに迷惑かかってっから……ハハ」
「注意すんなら笑い堪えろよ! 馬鹿にしてんのか!」
「じゃあ我慢しねー!! おもしれー!!!!」
「よっしゃー! 表でろやー!!!」
そうして当たり前のように係員に叱られた4人は自重し、(もう一人は未だに荒れているが)十分に注意を受けてから観客席に案内されたのであった。
「うっわ……最前列じゃねェか」
「だから言ったじゃねーか、なんで隣とったんだって」
「え? 普通にラッキーじゃないの? こういうので最前列座ったのなんて初めてだよ~」
「そうですよ巡さん、一体なにがそんなに気になるんですか?」
「……見ればわかる」
まだ機嫌の治っていない巡はそれだけ言うと黙りこんでしまう。
『会場の皆様、長らくおまたせいたしました。ただいまより東京全高等学校能力部大会、決勝戦を開始いたします』
会場に設置された幾つものスピーカーから声が響き、あれだけ声が行き交っていた会場が静まり返った。思わず後ろを振り向いた宮前は思わず息をのんだ。能力によって勝負が行われる中央の円形フィールドを囲むように設置された階段状の観客席は、ほぼすべて人で埋まっていた。
(これだけの人が……ノックさんを見に……)
『選手が入場いたします。甘秋高校2年氷室 秦。氷の使い手、捕食者階級:A』
その瞬間、会場が沸いた。




