バタフライ・イーター 6
宮前は咄嗟に食われるモノを見上げる。全ての触手に目を走らせてみたが囚われている様子はない。たった今まで後ろを走っていたんじゃないのか、一体どこに消えてしまったのか。校庭には見えない、校舎に逃げ込んだのなら安心はできるがとてもそんな様子はなかった。どうしよう……不安が胸を過ぎったが今の宮前にははぐれたノックを心配する余裕など少しもなかった。何度も何度も切断してはいくらでも伸長し攻撃を仕掛けてくる食われるモノが、ようやくと言うべきかついにと言うべきか旋回を始めたのだ。素早く空を羽ばたきながらあらゆる方向から触手を伸ばし攻撃してくる。浩仁を背に隠すようにして立ち回り触手をたたき落とし続けるがやはりキリがないし、浩仁ほどの体力を持ち合わせていないことも自覚しているから尋常じゃない焦りまで感じた。1分、せめてあと1分だけでも……そう自分に言い聞かせながら触手を払って叩く、叩いて落とす。食われるモノは大きく飛び回り高度までも操作し始め、低い位置から高い軌道を描く攻撃やその逆も余裕綽々といった様子で仕掛けてくる。そう感じてしまうのは宮前が肉体的に追い詰められる前に精神的に参ってしまいかけていたからだろうか、その余裕な態度、油断。足元でも救われればいいのに、と…脚など無い相手にまさに無い物ねだりをしていた時、それは起こった。
校舎に接近していた食われるモノの胴体に、赤く小さな物体が勢い良く教室から投げ出され激突した。瞬間的にノックから炎を連想した宮前だったが見た目から質感までまるで異なった物質であった。特徴的な形をしていたそれはあと1秒もあれば何であるかを理解できただろうが、不意の横槍に体勢を崩した食われるモノが触手でその赤い物体を貫いたことによって理解を超えて確信へと飛躍した。破損した赤い物質から爆発的に粉塵が四散し広範囲に渡って白い靄が発生する。それは紛れも無く消火器だった。
「ノックさんなの…?」
姿は見えないがおそらくそうであろう。突如自分の目の前で煙が爆散したことに動きの止まった食われるモノ、その隙を逃す手などありはしない。
「しゃァ……!」
まだ辛そうではあったが浩仁は躊躇せずポケットからスマホを取り出し、放り投げた。
(100%、斬撃に――)
渾身の異能が無色の刃となり食われるモノを襲う。その威力は蟷螂の食われるモノを両断した時と同等の打撃力から変換されたものだった。
しかし――
原因は、距離があったからか。殴ったのがスマートフォンだったからか。まさかとは思うがあの蝶の食われるモノは蟷螂の食われるモノを上回る甲殻を持ち合わせていたのか。
ともあれ、食われるモノには微塵の斬り込みも生まれなかった。地上にいた二人は言葉を失う他ない、それがたった今隙を露わにしていた食われるモノの様に攻撃のチャンスを与えてしまうことを分かっていたとしても……。
「――そんな、二人共」
3階の教室にいたノックは襲われない為に窓から十分に離れた位置にいた。地上は見えなくても思惑通り消火器が破裂したのは確認でき、あの二人がその隙を見逃すはずもないと信じていた。だからここでやるべきことを終えたと、1階に急ごうと思っていたところだったのに。
何故、地上にいるはず二人が、自分の目に映っているのだろうか。
【NEXT】10-24 07:00




