フレイム&トランス 5
「そうかい」
爆発。
食す者同士が直接相手に能力の効果を及ぼす事は不可能、しかしその不可能がギリギリ可能になるラインは必ず存在する。巡から2メートル弱離れた位置で、空気が突然真っ赤に染まり彼を吹き飛ばす爆撃と化した。まるで前兆などない、一瞬の出来事。それでも巡には被害がなかった。爆発が起こった時には既に巡の前方を氷の盾がカバーし熱を相殺、衝撃も半減させた結果彼は飛ばされたというより自ら後ろに跳んだという方が正しい、その背中を優しく水球がほわんと受け止める。
「バックアップは欠かさないよ~」
「サンキュ、ついでにこの水球借りるね」
「え?」
約一メートル程の水球を軽々と凍結させそれを空高くまで持ち上げる。
「素晴らしい…! 能力は自分で創り出したものしか操れないのが原則的……炎の使い手である私も火事で燃え盛る火を自分の意志で消すことは出来ない、水の使い手であるNo.11も海の水を操ることはできない……しかし氷の使い手だけは凍らせるという状態変化を経て様々なものを操る事が可能!! その特性をちゃんと理解している……君には是非No.12になっていただきたいものだ……!!」
「ふざけんな」
持ち上げられた氷塊が男めがけて突き落とされる。
「ふむ……残念だ」
落とされた氷塊が、いつの間にか水へと戻り、男に振りかかる前にまた蒸気へと変わってしまう。
「ならば今日のところは」
どこまでも暗い夜の道路に、赤い炎が巡と水瀬を囲むように燃え上がる。。
「……いや、やめて……やめて……!!!」
「薗っ、どうした――」
聞くまでもなかった。火の海に囲まれて、彼女が平気なわけがない。その場にうずくまり目をつぶって両手で耳を塞ぐ。巡の声も聞こえていない様子だ。
「くそ……っ」
このままでは視界もゼロに等しい。巡は意識をあたりの炎に集中させ、そこに重ねていくように氷塊を並べていく。だがやはり男の炎は巡の氷よりはるかに強く、氷は直ぐに水となり、気体へと変わってしまう。
「そこまで髪を染めておいてその程度の力しかださないとは。私もなめられたものだな?」
後ろから男の声が聞こえたかと思った刹那、巡は背中に激し熱と衝撃を感じどうすることも出来ずに吹き飛ばされた。炎の壁に突っ込み一瞬だけ真っ赤になった視界が次に映しだしたのは、ガードレールを超えた底の見えない闇。
「メグ、ル……?」
その始終を見ていた水瀬が震えた手でその方向へと手を伸ばした。とっくに闇にのまれた巡には決して届くことのない手が、男によって掴まれる。
「さぁ行こうNo.11、私には君が必要なんだ」
「――」
掴まれた腕には、微塵の力も入らない。
抵抗することも出来ず、水瀬は男によってその場から姿を消した。
炎が消えて、再び暗闇となった道路の脇から少年がガードレールを超えてくる。
(さて、追おうか)
自分の身体の一部と崖を氷で一体化させ転落を免れ、その崖に氷のでっぱりで階段を作り上げここまで戻ってきた巡は男の消えた方へと歩き出した。
(流石にあれだけの人と戦うとなると、薗が近くにいちゃ戦いにくいな。きっと連れて行かれたところは室内、研究施設とかだろうしそこで1対1になれれば……)
まだそう遠くには行っていない。穿きっぱなしの水瀬のジャージに忍ばせておいた小さな氷塊、ある程度の距離までならその存在を場所ごと認識できる。ただ離れすぎてしまうと能力そのものが解除され完全に見失ってしまう。男はまだこの山を下ったばかりのようだから、この距離を保ちつつ相手の研究施設とやらまでついて行ければそこで改めて水瀬略奪戦の始まりというわけだ。
(薗のあんな顔は初めてみた。……本当はここであの男を撃退できればよかったんだろうな、きっと今もひどい表情をしているに違いない)
そんな謝りたくなる気持ちの行き先はここにはない。
巡は水瀬の追跡に専念した。
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