フレイム&トランス 4
しかし今となりにいる水瀬は赤ノ平高校で名のしれた捕食者階級Aの食す者だ。どうして彼女は再び能力を使い始めたのだろう。それについては、直ぐに水瀬が明らかにした。
「きっと施設はあたしを利用しようとしていたんだよ。確かにあたしには力がある、だからそれを使うためにいい顔をしてあたしを引き取って、その力をなにかに利用するつもりだった。その何かには、検討がつかないけど……」
もし仮にそうだとしても、巡には腑に落ちない点があった。確かに水瀬は利用対象として強化されそれは上手く行っていた。しかし後半の訓練は一体何のためのものだ……? 水瀬を殺すためのものではもちろんないし、かと言って能力の強化には過激かつ不効率すぎる。
「そこで考えたんだ」
「ん、その利用価値についてか?」
「ううん、違うよ」
いつの間にか水瀬に涙の姿はなく、巡の腕からも手が離されていた。
(……何だ)
ガードレールから反動をつけて道路に立った彼女の表情は、今までに見たこともない鋭さを秘めていた。
「あたしがもう一度能力に手を出したのには2つ理由があるの。1つはね――あたしがまだ使い物になるかもって知れれば、必ず現れるって踏んだから」
「――その通りだよ、No.11」
「ここまで早いとは思わなかったけどね」
巡たちが歩いて行こうとしていたその先から、薄暗い電灯に照らされた男がゆっくりと歩いてくる。慎重は175センチくらいで巡よりも高く、白衣を身にまとい銀色の髪を横に流している。
「薗、あの人は」
「たった今まで話してた"専門家さん"だよっ」
声音こそ明るいものの、その表情は先ほどから少しの曇りもない戦意が感じられる。
「さぁNo.11、今一度私達に力を貸してくれたまえ」
「あははっ」
水瀬の髪が強くなびく。巡は咄嗟に彼女から距離をとった。そうしないとマズイと感じてしまう程の威圧感が彼女から放たれていたのだ。
「誰が」
直後、彼女の周囲に小さな水滴が数えきれない量生み出される。
「力を貸すって言った?」
それは攻撃的で、まさに兵器的だった。ただ何かを襲い、命を奪う為に生み出された攻撃手段。無数の水の弾丸が白衣の男めがけて一発も外れることなく狙い撃つ。弾は間違いなく命中していたし、身体は穴だらけになるはずだった。
しかし水の弾は彼に触れた途端、一つの例外となく蒸発して大気に消えた。ただ立っていただけの、無傷の"赤い髪の男"が手をたたく。拍手というやつだ。
「素晴らしい、ブランクはあれどキレのある攻撃だった」
「……薗、アイツはヤバい」
見れば判る、銀髪のほとんどが赤く変色し、炎の使い手である自身の熱量を抑えきれていない、一番彼から離れている巡でさえ熱気を感じる程だ。
「そんなの知ってる、でもあの人をおびき出す為にやったことだし。……メグルを巻き込むつもりはなかったんだけど、ごめんね」
文句なしで白衣の男はランクはA、水瀬と同じだろう。加えてAの中でも差は大きくあり、間違いなく水瀬のほうが劣っていた。男と水瀬では、まず勝ち目がない。
「俺が率先して攻撃する、薗は絶対に疲弊だけはしないようにバックアップしてくれ」
だからこそ、そう言った。
(薗を、連れて行かせはしない)
「メグルってば、男前かも」
巡の髪が白く変色する。それは今までよりも強く、激しく髪の毛を彩り彼もまた冷気を放つ。
「うそ、メグル……?」
「ほぅ……どこに隠れていたかは分からないが、こんな子どもがいるとは」
「ひとつ、あなたに言っておきます」
一歩一歩、歩く度に彼が触れる地面が凍結していく。水瀬を通り過ぎ白衣の男の前に立ったメグルは凍てついた瞳を男に向けた。
「彼女の名前は、No.11なんかじゃない」




