フレイム&トランス 3
「薗、君が一人暮らしっていうのは」
「うん、あたしの家族はみんなね、食われるモノに食べられちゃったの。目の前で一人一人、噛み砕かれていった音まで覚えてる。なんであたしだけ生き残ったかっていうのは、よくわかっていないんだけど……目が覚めた時にはあたし自身が食われるモノを倒したってことになってて、大した怪我もないのに自分が気を失っていたのは倒した故の疲弊っていうことになってて」
「待ってくれ、小さな頃の話なんだろ、もう薗は能力を開花させていたっていうのか」
「うん、最初は親も冗談のつもりだったんだけど、能力開花の施設に入ったら開花しちゃったんだ。家族が襲われたのはその直ぐ後だったから、あたしはまだ能力について何も知らなくて……ただ助けを叫ぶ皆の声に、怯えてなにも出来なくて」
水瀬の右手が、巡の左腕を弱々しく掴んだ。そのときの光景を思い出しているのかその手は小刻みに震えていて隣り合わせの巡にも伝わってくるようだった。
「孤児になったあたしは、その専門家さんに引き取られたんだ。どんなものでも守る力が欲しいって言ったらにっこり笑って、君ならできるって言ってくれた。だからあたしはそれから長い時間をかけて色々な訓練を受けた。ただ広いだけの室内で、ひたすらに能力を使用して属素を増やした、狭くいろんな仕掛けのある部屋で、飛んでくる鋭利な射撃物を次々と撃ち落とした、指定された何十の文字を能力で同時に創りあげた、専門家さんはいつも部屋の上部からガラス越しであたしを見ていた。時にはその人とも戦った。いつもボロ負けだったけれど、そのたびに強くなったなって言ってくれたからあたしは嬉しくて何度も何度も訓練に参加した。――そうして初めて訓練の内容が変わったのは、あたしが15歳の時、目が覚めたら火の海にひとりで倒れていた」
変更された訓練の内容が、火の海にいることと即座に結びつかなかった巡に「変だって思うよね」と水瀬が空笑いする。「装着されてたイヤホンからさ、聞こえてきたんだよ。死にたくなければそこから脱出せよってね」
「それで……」
「もちろんあたしはここにいる、脱出は難しくなかったよ。……だけどね、あたしが眠りに落ちて、目を覚ます度に囲まれてるんだ……どんどん広範囲に広がっていく火の海にさ。時には燃え上がる瓦礫が幾つも襲ってくるような"つくり"になっていたり、目の前で幾つもの物体が爆発する"つくり"になっていたり、やがてあたしは毎回大怪我をして、命からがら脱出して意識を失い……」
目を覚ますと、また炎の中に。
しばらく沈黙が続いた、ぶらついていた水瀬の足は電池が切れたかのように動かなくなり、ただ巡の腕を掴む右手にだけは強く力がこもっていた。
「それで、ね……あたしってば、逃げ出しちゃったの。白衣を着た人たちが何人も襲ってきて、あたしは能力で彼らに追ってこれなくなるほどの傷を、捕まればまた目が覚めた時にって思うと制御なんてできなくて、次々に人をなぎ倒して施設を飛び出したの。不思議とね、彼らがそれ以上追ってくる事はなかったんだ、だからあたしは今こうして普通の生活を送っていられる。……だけどね、結局何もかもを守る力を手に入れようとしたあたしは、沢山の人を傷つけることしか出来なかったんだよ……っ」
水瀬の声が震えだし、その瞳から幾つもの雫がながれ落ちる。だから彼女は能力の使用を一切やめ、一年以上の時間を経て属素が激減してしまった。なるほど、巡は納得した。




