共存部 14
「おいどうしたんだ、立ち止まって」
階段にさしかかるところまで行った浩仁に声をかけられて巡は「いや…あの二人」とグラウンドに向かった水瀬と宮前について口にした。
「制服でしたよね」
「それがどォした」
「いや、スカートじゃないですか、あの格好でバト――」
ヒュン。刹那半身に強烈な風圧を感じると思ったら背後の教室、すなわち共存部の部室から窓を開ける音が聞こえて巡は慌てて振り返った。そこには開け放った窓の淵に飛び乗った浩仁の姿が。
「なにしてるんですか!」
「なにって、あいつらにコレを届けねェとまずいだろ!!」
その手に、宮前綾と書かれたジャージが一着。
どこから出した。
「ていうか水瀬もいるじゃないですか、一着じゃ」
「あァそうか。じゃあもう一着だすわ」
その声とともに、もう一着取り出す浩仁。
「……行きましょう」
深く考えるのはやめよう。
「っしゃああああああああああああああ」
呆れさえ感じる巡を他所に浩仁はグラウンドにも聞こえそうな声を上げ、窓から飛び出した。なんの躊躇いもなく、全力で。
このままでは浩仁は普通に落下し地面に叩きつけられるだろう。いくら彼の肉体であっても4階から飛び降りて無事に着地することはできるはずがない。つまるところ、巡頼りというわけだ。浩仁は巡の能力についてもう痛いほど知っている。巡は窓の縁に飛び乗るとちょうど跳躍から落下に切り替わりそうな浩仁の足元に正方形の氷塊を出現させた。着地する一面だけ凸凹にして転倒防止も心掛ける。視界に入る毛先が白く染まっていき徐々にゆらゆらとなびいていった。浩仁が氷塊に着地すると同時に今度は巡がリードして氷塊をグラウンドにいる二人まで導くようにいくつも創り上げていく。氷の使い手である彼もあとに続きさながら階段のように並んだそれらに飛び乗りつつ降りていく。半分まで来たところで浩仁が最後の氷塊に飛び乗って、盛大に転倒して地面に頭を強打したのが見えた。巡が最後の氷の表面を"凸凹にしなおして"グラウンドに降り立つと頭を抑えうずくまっていた浩仁がガバっと体を起こした。
「なんで最後だけクッソ滑りやすくなってんだよ!」
「いやあ、ちょっとは頭打ったほうが良くなるかなって思いまして」
「何が!?」
「色々と」
ジャージの件とか親バカとか本当に色々と。
「浩仁センセー、その手に持ってるものを早くプリーズだよ~」
「あ? あぁ……」
宮前綾のジャージが二人に手渡され水瀬がそれに足を通して、宮前はそのジャージの名札をみて背筋をひとしきり震わしてからゆっくりと穿いた。
「お父さん、次私の衣服を持ちだしたら許しませんから……」
「ん~? なんか言ったかわが娘よ~、礼はいらないぞぉ」
「もういや……」
(あれ、この親子仲いいんだよな)
さておき、今グラウンドの真ん中には巡と浩仁、そして主役の宮前と水瀬が立っているわけだが、なんとこの四人を囲むようにして既に100人以上の人だかりができていた。それも本来のこのグラウンドの使用者たちではない、ちゃんとした野次馬というやつだ。どうして事が起きる前にこんなに人が集まっているのか、それは今さっきどこかの筋肉が咆哮しながら上空を闊歩していたからに他ならなかった。計算された行動なのか、ただの筋肉なのか巡にはよくわからない。だがその人だかりに気づいてたからこそ言えるのだが、この状況に浩仁だけが驚きをみせなかった。むしろ子供のような笑顔を浮かべ「しゃああテメェら!!今から楽しい楽しいギャンブルの時間だぜ……!!」と再び声をはりあげた。
「今から始まるのは奪う者VS食す者の交流手合わせだ!!ちなみに奪う者は愛しの我が娘、宮前綾だ、お前らよろしく頼むぜ! そしてその相手をする食す者は近日とんでもねェニュースを作ってくれた水瀬薗本人だ……!捕食者階級Aの実力はハンパねェんだってなァ……だが我が娘もちょっとやそっとじゃ負けたりはしねェ。――さァ、賭けるのはどちらか一人にだけだ。見事正解をは弾きだした奴にゃ明日の昼飯に俺が赤ノ平高校限定超高級プリンを奢ってやる……!!!」
最初にギャンブルといった時にはどうしようかと思ったが、なるほど面白い。巡まで素直に乗ってしまいそうな話だ。赤ノ平高校限定超高級プリン、一日15個しか売られない幻のプリン……それを教師が奢ってくれると言った、生徒としては教師権限とやらで大量入手でもしてくれるのかと、それはもう夢が広がってしかたがないお言葉だった。浩仁の言葉をつなぐように歓声が巻き起こる、この場はお祭り状態と化した。
「よォしテメーら!! この紙に自分の名前と予想を書いてオレに渡せ! 渡したやつからこの中心から30メートル離れた場所でまた円を作ってくれ、そしたら手合わせスタートだ……!!」
歓喜の叫び、相談の声、プリン欲しさによだれを垂らすもの……この高校ではそもそも奪う者に対して悪い印象を持つものがそこまで多くなかった、とはいえこの空気は間違いなくこの大男が作り上げたものだ。バトルで共存意識、もっとちゃんと説明してくれればいいのにと巡は思いつつも、宮前綾と書かれた紙を浩仁に手渡してフィールドとなりうるその場から離れていった。
10分ほど経過して、今フィールドには二人だけが対峙している。100人超の生徒が彼女らに注目しているなか、ついに宮前が口を開いた。
「もう二度と、胸が小さいだなんて言わせませんから」
対する水瀬も決闘前の言葉を交わす。
「えっ、そんなこと言った覚えないんだけど」
互いの思いを伝え合ったところで、手合わせは幕を開けた。




