共存部 13
「えっ、センセーとバトルするの?」
「オレじゃねぇよ、んなことしたら問題だろうが」
生徒同士でもダメだろ。などと制する間もなく。
「わが娘VS水瀬園、手に入れる者と食す者の触れ合いバトルを校庭でおっぱじめてみろ、きっと一躍有名になってみんな仲良くなるに違いねェ!」
もう何処から突っ込んでいいのかもわからない。今度こそ間をおかずに反論を挟む。
「待ってください、そもそもバトルだなんて学校側が許すわけ無いですし、戦ってるのをみて仲良くしようって思う理屈がどこに……」
「拳で語った先に芽生える友情ってのがあるだろう」
「いや……そんなの」
特例という特例じゃないですか。そこまで言いたかったのだがガタッという物音に巡の声は上書きされる。何故先ほどまで溶けそうなほどうなだれていた部長が、いきなり闘志を燃やした戦士のように椅子を後ろに弾き飛ばすほど勢い良く立ち上がったのか。
「いいでしょう、水瀬さんに一泡吹かせるチャンスってことですね」
その時巡はニヤリと浩仁が微笑するのを見逃さなかった。
この筋肉、図ったな。
「チビ……水瀬は異論ねェか」
「え? あぁなんか面白そうだしいいんじゃない?」
そして彼女ならそう返しそうなのは巡にも予想できた。浩仁は一体なにを企んでいるのか、共存意識向上が目的であることは間違いないのだが、巡にはどういった経緯でそこまで考えが至るのかまるで検討もつかず、しかしこの勢いは今更とどまりそうにない。本当に学校の校庭で教師公認の、いってしまえば喧嘩などさせるつもりなのだろうか。この人はこんな冗談をいう男でもないし、巡はやまない目眩に立ち上がる気力を完全に失いつつ先ほどの部長と同じように机に額を押し付けて黙りこくった。ひんやりとした机の冷たさを感じながら、ふと一つの考えが浮かんでくる。
(もしかして、浩仁さん……薗の能力を確かめるために……)
それは巡もずいぶんと不審、というよりも信じがたいと思った一件であり、同時に放っておくわけにもいかない問題だった。そもそも水瀬薗の捕食者階級はBなどではない……いやA判定を貰ったのこそ最近ではあるがその実力はずっと過去から培われていたのではないか? その理由は明解だった。
属素の異常増加、能力を使用すればするほど属素は増加し続けることはおおよそ食す者であれば誰もが知っている事実であるが、その逆もまた多く知られているはずだ。使わなければ属素は減衰する……つまり水瀬薗は以前に相当な水の使い手であった可能性があり、だが能力を長期間放棄していた。
(この考えが間違いないなら、手合わせを俺が見る必要性もあまりないのかもしれないけど。けどやはり不可解なのは、どうして園は今まで力を隠していながら、今になってまた能力を使い始めたのか……いや)
考えるには不確定要素がまだ多すぎる。巡は自分の体温と一緒になったテーブルから額を離しとりあえず浩仁に任せようと手合わせに賛成するつもりで口を開きかけた。が……どうやら巡は考え事による周囲の状況不注意が激しいらしい。部室には未だに座ったままの浩仁以外の姿が見当たらなかった。
「思った以上にノリノリだったなアイツら」
「えっそうならさっさと追いかけなくていいんですか」
「オイオイ、そんなケンカするわけじゃあるめェしよ」浩仁は鼻で笑って立ち上がると表情を一変させて巡に向き直った。
「少し調べたんだ、片山隼人の背後について」
「……なるほど、薗を外に出すためでもあったんですね」
「我が娘はいてもよかったんだがな。……で、その結果なんだが、オレは既に知ってた通りだ。手に入れる者虐殺に関しては、一番最初に出てくる名前は片山隼人ひとりだった」
薄暗い倉庫で話したことを浩仁は共存委員会にある情報からいろいろあたってくれていたのだ、巡曰く片山隼人が行なった手に入れる者虐殺には彼の意志とは別のものが裏にあったに違いないと。その言葉を浩仁も信じたからにはハッキリさせなくてはいけない。しかしデータには当然というべきか虐殺した本人が一番大きく取り上げられてたという。
「だが――」しかし浩仁の言葉はそこで終わらなかった。
「確かに片山隼人の名前が一番多く語られていた。しかしその文中には食す者開発部である片山隼人多くの手に入れる者を殺害したと書いてあった」
そうか――
「なんで、気が付かなかったんだ」
巡は自身のうとさに愕然とした、これは教科書にも綴られていた内容だというのに。だが浩仁もまた同じ様子で「全くだ、どうもオレ自身殺戮の規模に片山隼人しか目が行かなかった」とため息混じりに言った。
(隼人さんの背後にいたモノの正体、そんなのとっくにわかっていたじゃないか…)
「そんでもって食す者の開発者のアタマ、こいつは共存委員会の中では有名人だ」
「名前は」切迫した表情で巡は浩仁をみた、今にも席を立って向かいに乗り出しそうだ。
「そうこェー顔すんじゃねェよ。復讐心でアツくなるのは大いに男らしいことだが、頭はクールでいねェとな、ってテメーの氷に気付かされたんだよクソッタレが。――そいつの名前は阿木李だ。阿木李護甲」
浩仁は似合わないワイシャツの胸ポケットから紙とペンを取り出し机で阿木李護甲の字を書いてみせる。それを巡が手に取りじっと見つめた。
「覚えました、ありがとうございます」
「まだコイツが全ての元凶とは限らねェ……だから何かわかったら随時報告するが、とりあえず今は水瀬薗の事が優先だ」
彼女の名前を言われてハッとした。
「やっぱり、浩仁さんも気になるんですね」
「当たり前だ、短期間でここまで成長する前例なんかねェし、有り得ねェ。だからこの目でアイツの能力を見て、どう捉えようとも素人の動きじゃないって確信ができたならコレも調べざるを得ねぇ事柄になるな」
「俺はもう、半分確信したようなもんですが」
「バーカ、それは確信とは言わねェ、いいからさっさと行くぞ」
部室を出て行く浩仁についていこうと席を立ち、手に握った一枚の紙をそっとしまった巡は思い出したかのように顔を上げた。




