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Attri-tY  作者: ゆきながれ
Episode-0 似たもの同士
27/90

第一歩 8

「行ってらっしゃい…………さて」

走り去っていく水瀬を見送ると今度こそ帰ろうと校門へ振り返った。

「よォ」

が、今度は目の前に巨大な筋肉があった。

「浩仁、さん?」

「テメェ、我が娘を差し置いてなんだ今の女は、ロリ巨乳が好きなんかアァ?」

「ろりきょ……なんて?」

「……なんでもねェよ。見た感じ初対面だったのはわかったしな」

「はぁ。それでなんでこんなところにいるんですか」

「うむ、それだが」

浩仁は硬い巨乳を強調するとシャツの胸ポケットにしまっていた首から下げるタイプのネームプレートを引っ張りだした。そこには『赤ノ平あかのひら高校臨時教師 宮前浩仁』と印刷文字がある。

「え、なにこれ」

「見れば分かるだろう、手に入れる者スチールの教師参上だ」

「なにゆえ……」

「そりゃァお前、一人じゃ共存っつっても何したらいいかわかんねェと思ってよ。我が娘と話し合ってどうしたらいいか決めた結果、オレがココに来ればいいって事になったワケだ、共存委員会のちょっとしたコネでちょちょいのちょいよ」

「綾と話し合った結果、ですか?」

思わず聞き返してしまった。だって宮前は見舞いにも来ていないし今日も同じ場所にいながら一度も話していない。

「まァとりあえず来い、我が娘もそこにいる」

そういうと浩仁は巡のきた道を歩き出す。宮前はまだ校内に残っているということだろうか。再び靴を履き替え階段を使って4階まであがる、そこはフロアの半分以上が文化系の部室である階であり、浩仁は最近まで空き部屋だったはずのドアを開けるとのしのしと入っていった。巡も後に続くと、そこには何もない空間にただ机が置かれていて、ひとつの椅子に宮前綾が座っていた。

「あ……」

ちいさく声を漏らす宮前、巡と目が合うやいなや直ぐに俯いてしまった。

「浩仁さん、今はあんまり会わないほうがいいのかもしれません」

今の反応を浩仁も見たと判断しての発言だ。浩仁の答えを待たず巡は踵を返そうとする。

「ま、待ってください!」しかし、その背中というよりも肩に声が投げかけられた。

「私……ごめんなさい、お父さんから、巡さんと戦ったって聞いて……」

「ちょ、浩仁さ――」

とっさに浩仁を見上げる巡だが、ゆっくりと首を振る浩仁の目は異能力者アトリ・ティには触れていないことを語っていた。

「片山隼人さんの話を、聞いたんです……」

なるほど、そこだけうまく話してくれたのか。これは巡にとって嬉しいことこの上ない。ただ、それについて宮前はどう思ったのだろう。

「あの、巡さん……」

「うん」

「私、その話を聞いた上で改めて言わせてもらいます……こんな馬鹿な父親が大怪我させてしまって、本当は合わせる顔も無かったんですが……もし巡さんさえよければこの【共存部】に入部していただけませんか……?」

「ば、馬鹿な父親とは我が娘、よ……」

その言葉に、宮前が巡を避けていた理由が自分と片岡隼人でなかったことがわかり、巡は気付かれないくらいの息をついた。

「俺のこと避けてたんじゃなくて何よりだよ……。それで、いま共存部とかなんとか言ったけど」

「はい、共存部という部活を立ち上げたんです」

「正確には仮設立だけどな、顧問はオレがなったわけだが、部活の正式な活動は部員が最低でも3人は必要らしい」

「それで……巡さんさえよければ」「はいるよ」

そんなの迷うことはなかった。

「即答、男らしいじゃねェか」

「筋肉の塊に言われると嫌だな」

「あァ……?」

「お父さん、次巡さんに何かしたら許さないからね」

「今のオレが悪いの!?」

「ありがとうございます巡さん、そしたら…これに名前書いてくれますか?」

さすが娘といったところだろうか、ここまで存在感のある人物をナチュラルに無視できるとは。心のなかで面白がりつつ巡は入部届に筆を滑らせた。

「ほら、筋肉さんこれ受理よろしく」

「テメェ……調子に乗るのも大概に――」

「お父さん」

「はい」

(弱すぎでしょ)

それでいいのか浩仁さん、自分でからかっておいてなんだけれど。

「でもよかった……巡さん怒ってなくて」

着席した宮前がにっこりと微笑む。やれやれと言った調子の浩仁がその対面に座った。長方形の机にはあと4つ空き椅子があり、短辺の椅子が2つ埋まっているので巡は宮前寄りの長辺の椅子に腰をかけた。

「怒る理由なんてないよ。これからもよろしくな」

本当に、怒る理由なんてなかった。確かに巡は宮前綾の父親に全治3週間の大怪我を負わされた、しかしそれは巡自身が通るべき道だと前から覚悟していたことであるし、その為に戦いに引っ張りこんだのも彼であるから宮前一家を咎める必要なんて皆無なのだ。

「本当によかった……それじゃあ今日は仮部活だから、残念だけどこれで解散しますね、お父さんも怒られちゃうし」

「じゃあ、一緒に帰るか」

「……うんっ」

花のような笑顔だった。

「オレも一緒に帰りたい」

「いや……できるならいいけど」

「無理だよ……こっちだって仮教師なのにクソ仕事あんだよ……」

あくまでオレは共存委員会の幹部だぞ……と唸る浩仁だがそりゃやることはあるだろう。2人は浩仁を置いて下校することになったが、3人で帰れたら楽しかっただろう。特に巡は強くそう思っていた、いったい今日だけで何回この人達に感謝しただろう。きっと、数えきれない。

「そうだ綾」

「はい?」

「今日、俺の家で飯くわないか?」

「め、巡さんのおおおお家ですか!」

「おおおお家ですけど、どうした」

「い、いえ……ちょっとその、何でもないです」

「んじゃ食べるか?」

「なにを作るんですか?」

「えっ」

「え?」

「そりゃもちろん、コロッケに決まってるだろ」

再び宮前が花を咲かせる。あぁよかったと巡は空を仰いだ。隼人さんは今何をしているだろう。ちゃんとご飯は食べているだろうか、今あなたにとても言いたいことがあるんだ、隼人さんのことを知っていながらその家族を信頼してくれる人がいたんだ、あなたのことを理解してくれる人がいたんだ、これをとても伝えたい。もう少し、あともう少しだけこの子の信頼を得られたら隼人さんと会ってくれるだろうか、隼人さんが閉じ込められた暗い場所に、少しだけど光を射せるだろうか。


そのための第一歩を、俺は踏み出せた気がする。


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