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Attri-tY  作者: ゆきながれ
Episode-0 似たもの同士
17/90

殺められるべき 8

「……誰も居ないよな」

月曜日の放課後、学校の裏門からそそくさと下校する巡の姿があった。宮前は火曜日まで入院しているので彼は今一人だ。未だに昇降口から正門までの道は先週ほどではないものの部活動の勧誘活動がやかましく、加えて週をまたいで一部の運動部は通常活動を再開し、校舎周りの通路を走りこむ生徒もいるため巡は慎重に学校を後にした。本来歩いている道に合流し、自分の家まで何事も無くたどり着く。帰宅直後に制服のままベッドに倒れ込むという日課を今日は行わず、巡は私服に着替えると直ぐに家を出た。商店街を突っ切り駅へ、都心行きの電車に乗って数十分を経て、2日連続でこの都心にきた。

(ここからは……この複雑な地図を解読しないといけないのか)

太い線と小さな線がごちゃごちゃと入り組んだ紙を何度も回転させながら日が傾きかけた都心を歩いた。どこのビルの窓にもオレンジ色の光が反射してときどき目を細める。途中自然喫茶のある公園を横切ったが店を囲むように柵が建てられていた、しかし遠目からでもずいぶん綺麗に整えられていることがわかる、今月中には営業再開できそうかもしれない。

一回細い道に入って、もう一つ奥の太い道にでる。そしたら信号を渡ってまた細い道に入ると大きな門が見えた。門をくぐると上り坂になっており、一番上まで来た時彼の門前には巨大な病院がそびえ立っていた。幾つもの棟が存在し、目的のある建物を探し当てるのにかなりの汗をかいてしまった。

「え、全部連絡通路でつながってるのにわざわざ外を歩いてきたんですか」

起こしたベッドにより掛かる宮前の最初の言葉は最高にキツかった。


「今日はただ安静にする日ですし……わざわざお見舞いに来なくてもよかったんですよ?」

浩仁が持ってきたのか宮前は海老のキャラクターがプリントされたパジャマを着ていた。好きなのだろうか、海老。

「わかってるけど、俺の代わりに怪我したようなもんだしな、見舞いくらい来てもいいだろ」

「それは、嬉しいですが……」

「んで、これ差し入れ」

どん、とベッドの足元あたりに設置されているテーブルに巡が紙袋を置く。宮前がそれを手に取り中から緑色のプリンを取り出した。

「きゅうりプリン……」

自然喫茶で速達注文した。

「食っていいぞ」

「あ、ありがとうございます……」

「プリン、嫌いだったか」

「えっ、そんなこと無いです、プリンは大好きです、プリンは」

「やたらプリンを強調する言い方だな」

「いやそのっ、きゅうりも大好きですよ? きゅうりも大好きですし、プリンも、大好きです……」

「そうか、それはよかった」

不調の様子はうかがえず、いつもどおりの宮前に安堵する。

きゅうりドーナツの事例などまるでなかった様子の宮前がそっとプリンを紙袋に戻した時は少し笑ってしまったが。

「紙袋の中に今日もらったプリントとかも入ってるから読んでおいてくれ。あとはなんだ、特にやることはないな?」

「来ていただけただけで充分ですよ、ありがとうございます」

「んか、でもモノだけ渡して帰るのもつまらないから、ちょっと話さないか」

巡がベッドの横にある椅子に腰をかけると、宮前がベッドの背もたれをさらに起こして「話、ですか?」と首をかしげた。

「正直な所さ、昨日の事件は俺と綾、互いが戦えることを知っていたらもっとマシな結果になったと思うんだ」

「あ……そうです、今ので思い出しました。私もずっと気になってたんです、巡さんを襲った食われるモノ(ミート)の鎌が、何で一つも動かなかった巡さんを捉えられなかったのか、氷の使い手アイスイーターなんですよね? どうやってやったのか私も聞きたいです」

「利害一致だな、お互いの力についてわかっておこうか」

「はい、ぜひぜひぜひ」

ベッドから体を乗り出して頷く宮前、入院患者らしからぬ行動だ。怪我はもう大丈夫だとはいえ巡は宮前を制しつつ口を開いた。

「俺を狙わず地面に突き刺さった鎌についてだよな、あれは別に特殊なことはしてないんだ。ただヤツが鎌を振りかざす前に氷の柱を幾つか創った、勢いのつく前の鎌と隣接する形でね。さすがに目で負えなくなった鎌を防げるほど丈夫な氷の柱を何本も作ることはできないから、少し傾けた氷の柱を利用して鎌の進路を誘導したんだ、方向が強制されてから鎌に力が加われば柱に沿って力が流れてくれる、だから地から生やした氷と同じように鎌もそこに刺さったのさ。地に刺さるほどの威力だとは思っていなかったから流石に怖かったけど。……そう考えると綾を襲った鎌にまとわせた氷、強度高めておかなかったら死んでたのか」

「……」

「あれ、どうしたんだ今度は身体を引っ込めたりして」

「い、いえ……途中まではすごいの一言だったのに最後の最後でおそろしすぎて……」

「いやまあ、結果はオーケーだったわけだし」

「そそそうですよね」

「ん。だから浩仁さんがぶつかったのは氷の柱だよ、って言わなくてもわかるか。俺の能力ティは半透明だからちょっとトリッキーに見えることもあるけど、実際はシンプルだよ。この能力ティはただの氷を扱う能力、俺は普通の氷の使い手アイスイーターだ。だから今度は異能アトリについて聞かせてよ、能力ティとは違うただひとつの、ユニークな力、いったいどんな異能アトリなんだ?」

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