function.020(“この世界の理”);
「……あの……そろそろ……
えっと……メタルフントが……出てきたところを……
見たいのですが……」
話が続くライコスにカイはフードを目深にかぶり直しながら伝えた。
「ん?
何か気になるのか?」
「ええ……ちょっと……」
カイはそう言うと、崩れた壁をかき分けて奥の小部屋へ入っていった。
「確かにメタルフントが出来たのは奇妙だが、それはあの魔法陣の所為だろ?
遺跡にゃ、よくある遺物だ。
それに、崩れた衝撃で魔法陣自体壊れてるし……」
「そうなんですよね。
カイって、そういうところがあるんですよ。
あんな壊れたもの見ても、何が分かるのかよくわからなくて」
シリルとライコスは顔を見合わせた後、カイの行動を不思議そうに見ていた。
カイは二人の話し声をそれとなく聞きながらも、魔法陣に近づいてじっくりと眺めていた。
壁が崩れ落ちた振動かメタルフントが出てきた衝撃か分からないが、天井も崩れていた。
大きな瓦礫も落ちていたためか、魔法陣は一部が壊れていた。
確認をしたいカイは魔法陣の上に散らばる瓦礫を片づけはじめた。
――実際のところ、カイはロストワードの研究をして気づいたことがあった。
どうやらカイ以外のこの世界の人たちは古書がうまく読むことが出来ないようだった。
正確には文字は見えているようだが、意味不明な幾何学模様にしか見えていないのだ。
前世のプログラマーとしての記憶を持つカイには、明確に『ソースコード』が見えていた。
正しくは自動で逆コンパイルのような機能が動いて、ソースコードが浮かび上がってきている。
ただ、現在普及している魔術だけはカイでも文字と数字の羅列にしか見えなかった。
それはたぶん、暗号化や難読化がされているものと考えていた。
カイは半分ほど瓦礫を撤去し、一息ついた。
埋もれていた魔法陣も全体が姿を現し始めていた。
シリルはライコスに以前のカイの不思議な動きについていろいろと話をしているようだ。
「あの時も……」
カイは横耳でその話を聞きながら、また瓦礫を一つずつ取り除いていった。
――他にもロストワードで気づいたことと言うと……
カイが創ったロストワードの魔術はこの世界の人にも問題なく使えていた。
さっきシリルが使った『ライトニング』がいい例だ。
シリルの母であるエスメラルダやカイの母であるクレアも使うことが出来ていたので、魔力を持っていれば、誰でも使えるようだった。
ただ彼女たちが使えたのは、カイが最適化して製品化した『完成品の魔術』だけだった。
言うなれば、スマホのアプリと同じだ。
アプリをカイが創り出し、それを彼女たちに配布して使う感じに近い。
彼女たちにとって中身がどんな構造になっていて、どんなことが書かれているかは分からないし、知らない。
便利なアプリ(魔法陣)として使っているだけだ。
過去の暗号化されていない魔法陣であれば、カイの目を通せばソースコードを読み解くことができたが、他のみんなにはその外側である「ただの幾何学模様」としてしか認識できないのだ。
つまり、魔術の中身を見て、ハック出来る管理者権限を持っているのはカイただ一人だけだった。
転送の魔法陣の上に散らばった瓦礫を取り除いたカイだったが、次第に表情を曇らせる。
『Error:逆コンパイルに失敗しました。チェックサムが一致しないため、解析が続行できません』
カイの視界に赤い文字でメッセージが浮かんできた。
『魔法陣が壊れてるからかな……』
やはり、全部のソースコードが解析できなかったようだ。
『もう少し試せることがあるかな……』
再度解析を試みたが
『Error:逆コンパイルに失敗しました。チェックサムが一致しないため、解析が続行できません』
赤色のメッセージだけが目の前に浮かぶ。
『もしかして、ここはこう描かれていたのかな……』
頭の中で無理やり魔法陣を繋げてみたが、ピンとくる魔法陣は出来上がらなかった。
転送のロストワード自体も見たことがないカイが、無理やり推論してもその通りに動くとは思えない。
それにもし推論して動いたとしても、想定通りに動かなくて、どこかに飛ばされてしまっても大変だ。
仕様が分からない以上、無理に動かそうとすると、大きな問題になるリスクもある。
『これ以上の検証は難しいかな……
それでもこのままにしておくのは勿体ないし……』
腕を組んでどうするか悩んでいたカイに、シリルが近づいてきた。
「どうしたの?」
「うん……
せっかく見たこともない魔法陣を見つけたから、このままにしておくのはもったいなくて」
「……うーん、そうだねー……
魔法陣だけ持って帰れるといいんだけどね。
床は剥がせそうもないしね……」
シリルは魔法陣が描かれている床を持ち上げようとしているが、ビクともしない。
「そりゃ、無理があるだろ?」
ライコスも奥の小部屋に入ってきて、シリルの様子を見ていた。
「持ち帰る……持ち帰るか……
あっ、あれがいいかもしれない。
シリル、ちょっと手伝って」
カイは何か思いついたのか、シリルの手を引っ張って、ある魔法陣を手渡す。
「これって……」
シリルは思い出したかのようにその魔法陣を見つめている。
「そう、トランスクライブ」
「たしか前に文字を写すのに使っていたと思うけど……」
以前、母たちとルプトゥラでの依頼の時に使っていたのを思い出すシリル。
あの時は確か、たまたまダンジョン内で見つけたよくわからない古代語の石碑を紙に写して、ギルドに報告していた。
「トランスクライブは文字じゃなくても写せる」
カイはさらっと今まで教えていないであろう話をシリルに伝えた。
「えっ、そうなの?」
文字が写せる魔術と思い込んでいたシリルはビックリする。
「じゃあ、試してみようか。
ただ、これは光と土属性だから……
シリル、ちょっとやってみて」
呆気にとられるシリルを横目にカイは淡々とした表情で次の行動を促していた。
『もう、カイってば……
私の驚いた顔を見て、気づかってくれてもいいのに……!』
カイの相変わらずのマイペースぶりに、シリルは心の中で少しだけ頬を膨らませた。
ただそんなことを言っても、カイがどんな反応をするかが不安だった。
「……うん」
シリルは言い返す勇気はなく、大人しく魔術を起動し始めた。
「トランスクライブ!」
魔法陣が現れると、瞬く間に黄色と白の光が魔法陣を流れ始める。
すべての魔法陣が光で満たされると、そこから新たな薄黄色の光が現れた。
その光が床の壊れた魔法陣を的確になぞり始めた。
カイは紙を取り出し、シリルの放つ魔法陣の後ろに置いた。
すると、紙に床の魔法陣が現れ始めた。
その紙に映し出された魔法陣は、まるで写真のように全体を正確に記していた。
「すげーなー、おい」
紙に書かれた魔法陣を見てライコスは感嘆していた。
このトランスクライブは光属性で対象の情報を読み取り、その読み取った情報を土属性で紙に刻印して固定化する魔術だ。
カイは光属性の適性がないため、シリルにお願いしたのだった。
「はい、これで完成!」
「シリル、ありがとう。
助かるよ」
「うん、カイの役にたてて嬉しいよ!」
カイに褒められて嬉しいシリルは顔を少し赤らめながら、元気よくそう答えた。
そこにライコスが割り込んでくる。
「なぁなぁ、これ、どうなってんだ?
そこにある魔法陣のまんまじゃん。
あの光はなんだ?
どうやってこれを書いているんだ?」
ライコスの好奇心が溢れて、また質問攻めが始まってしまった。
カイとシリルは顔を見合わせて、苦笑いをするしかなかった。
第20話をお読みいただき、ありがとうございました!
今回は、カイの目から見た「この世界の魔術の仕様」について、少し掘り下げて描写してみました。
誰もが普通に使っている魔法は、カイから見れば「中身のコードが暗号化された既製のスマホアプリ」のようなもの。そして、ロストワードを解析して新しい魔術を創れるカイだけが、この世界のシステムを裏側から読み解ける『唯一のエンジニア(開発者)』ということになります。
壊れた魔法陣を写真のように写し取った『トランスクライブ(紙への出力機能)』。カイは手に入れたこのソースコード(データ)を、今後どうデバッグしていくのか……!
そして相変わらず質問攻めが止まらないライコスさんですが、彼は彼でこの技術の異常性に気づき始めているようです。
次回、さらにこの世界のシステムをハックしていきます!
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