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ひきこもりの天才プログラマーは異世界で魔術言語をハックする  作者: 光命
Class.002 { lostWord = adventure.Explore(kai,cyril); }

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14/14

function.014(“旅の始まりは入出力エラー”);

「今日もいい天気だね、カイ」


シリルはぐーっと腕を伸ばし背伸びをする。

ここはカイたちが住んでいた街ルプトゥラを出て最初の街。

次の街に向かうために馬車の乗り継ぎのために、滞在していた。


「うん、そうだね」


気のない返事をするカイ。

馬車の乗り継ぎ場までの道中を歩いているのにも関わらず、古代魔術言語の本を読んでいる。


「……」


ここまでの道中もずっとカイは本を読み続けている。

馬車の中、食堂、街の中……

カイは知らない人が多いところでは、とにかく恥ずかしくて、人の目を避けるように本を読み続けている。


ドンッ――


「痛っ……」


カイの前を歩いていた男が、ジロッとカイを睨みつける。


「……」


心の中では理路整然と


『ごめんなさい。

 本に夢中になっていました』


謝罪の言葉が思い浮かぶものの声にはならない。

カイはペコッと頭を下げるのが精一杯だった。

しかし男はそのまま睨みつけている。

そこに、シリルが割って入ってきた。


「ごめんなさい」


大きなお辞儀をしたシリルはカイの手を引っ張ってその場から逃げるように離れていく。

カイもシリルに引っ張られるままついていく。

しばらく進んで路地裏に入ったシリルは


「カイ!

 その本を読みながら歩くの止めてくれない?

 これで何回……何十回目?」


「ごめん……

 でも、これだけいっぱい人がいると……」


「これからどんどん人の多いところいくんだよ。

 カイも慣れていかないと」


「……うん、頑張る……」


シリルはカイが人見知りなのは分かっていたが、ここまでとは思っていなかった。

家族はもちろん、シリルやシリルの父母にはそんなところは感じさせないぐらいなのだが、

まったく知らない人とは話がほとんど出来ていない。

この旅の中でだんだん慣れていくのではと考えていたのだが、そんな様子も見えない。

気長に待つしかないのかもしれないとは思っても、時々こういうことがあるので、気が気でない。


「次から気をつけてよね!」


シリルは顔を膨らませながらも、再度カイの手を引き、元の道へ戻っていく。

カイもそのまま成すがままに引っ張られていく。

シリルに言われた手前、しばらくは本を読まずに付き従っていったが……

しばらくすると、やはりすれ違う人々の視線が気になり、フードを深くかぶっていた。


馬車の乗り継ぎ場にはいくつかの馬車が止まっていた。

他の街へと行こうとする者、他の街から来たばかりの者、多くの人が行きかい、ごった返していた。

シリルは人ごみの中を、次の街へ向かう馬車がどこにあるのかを探していた。

カイもついて回っているが、人の多さにますますフードを被っていた。

そこに、小柄な中年の男が近づいてきた。


「よぉ、にいちゃんたち。

 どこに行くんだい?」


肩に手をかけたその男に、カイはビクッとする。


「あっ……、えっと……」


見知らぬ人に急に声をかけられ、しどろもどろになっていた。


「ん?

 なんか言ったか?

 聞こえないんだが……」


訝しげに覗く中年に、カイは身体を縮こませる。

なんてことない態度でも、恐怖を感じてしまう。

人の心をなかなか感じ取れないカイにとっては、身近な人以外は何を考えているか全く分からない。

これは前世から変わっていない。

だから、自分が発した言葉で相手がどう感じるかが怖くて話せなかった。

今話しかけてきた中年にも、怒っているようにしか感じられなかったのだ。


「……あの……その……」


ますます蚊が鳴くような声になったカイは、フードで顔を隠してしまう。

それでも仕草や魔力の流れが気になり、下向きのまま見える範囲で相手の動きを追っていた。

他の馬車に話しを聞きに行っていたシリルが、カイの様子に気づき、走って戻ってきた。


「あっ、えっと、なんですか?

 私たち、メタキリタスへ向かいたいの。

 どの馬車が向かうか分からなくて……」


「それなら、ワシらの馬車だな」


それを聞いたシリルの顔が綻ぶ。


「よかったー。

 これだけ馬車があるとどれがどれだけ分からなくて」


その顔を見た中年もにかっと笑った。


「ちょうど、あと2人分なら席あるぞ」


「そうなの?

 ラッキー!

 カイ、よかったね

 ありがとう、おじさん」


素直に喜ぶシリルは中年の御者に何度も頭を下げていた。

あまりにも頭をさげるので、御者も戸惑っていた。


「そういうのはいいからさ。

 さぁ、さぁ、乗っていけよ。

 これで満員だし、すぐにでも出発するぞ」


御者は運転席に乗り込むと、出立の準備を始めた。

シリルはカイの手を引き、馬車の後ろの空いている席に並んで座った。

満杯の馬車の中は最後に乗ってきた二人に視線が集まっていた。

その視線に耐えられなくなり、カイは本を広げて顔を隠していた。


ガタガタガタガタ――


馬車は舗装しきれていない道を進んでいく。

カイの前世のように発展していないこの世界にはサスペンションのようなものはなく、

小石を踏むたびにガタゴトと馬車が揺れる。

決して居心地のいい乗り物ではないが、これ以外の移動手段はない。

いつしかロストワードで移動が楽になるものを開発できないかとは思うが、

今の資料だけでは難しさも感じている。


『でもこれから向かう遺跡にそういった書物もあるのかな』


そんなことを考えながら馬車に揺られていた。

シリルはというと、同じ馬車に乗っていた女性たちと話に花を咲かせていた。


「若い二人で旅なんて、なんかわけありなのかい?」


「そんなことないですよ。

 力をつけるための修行の旅みたいな感じです」


「あら、こんなに若いのに冒険者の真似事のようなことをするの?

 ご両親も心配じゃないの?」


「無理しない程度にとは釘は刺されています」


「そうよね。

 でもしっかりした娘さんで、うらやましいわ。

 うちの息子なんて、まだまだ甘えん坊で……」


初対面の人たちにもいつもと変わらない態度のシリル。

その姿を横目で見ながらも、自分は関係ないそぶりをして、カイは本を読み続けていた。

ただ周りの人たちの様子や魔力の有無が気になりちらちらと観察をしていた。

その時にふと目が合った真正面にいた男が話しかけてきた。


「ずいぶん古い本を読まれていますね」


「……」


『この人は商人かなにかかな。

 こんな古い本に興味を持つなんて……』


また言葉を発せないカイではあったが、相手の様子を観察し始めた。

ただそれだけだと怪しまれるので、ジェスチャーだけは大きくしようと大きく首を縦に振った。


「どこかの遺跡の出土品ですかな」


「……」


『遺跡のことが知りたいのかな……

 それともこの本自体に興味があるのか……

 もしかしてロストワードのことかな……』


急に相手の男が怪しく見えてきた。

この本に目をつけられたのか気が気でなくなってきた。

押し黙って何も返答しないのは怪しまれると思い、首を傾げた。


「わからないのですかね?

 かなり古い本のようでしたので……

 その本が出た遺跡にも他に宝石があったのかなと思いましてね」


「……」


『どうやら、この本と共にあった宝石がどうなったか気になったのかもしれない。

 商人やコレクターだったとして、乗合馬車で移動は気になる。

 それ以外だと一攫千金を夢見る遺跡ハンターかな……』


そんなことを考えていた。

ただこの本は遺跡の宝の一部としておまけでついてきたようなものだった。

それ以外の宝石とかはどうなったかを知らないカイは首を大きく横に振った。


その後はその男から話しかけられることはなかった。

しばらく緊張していたカイは、ホッとため息をついた。

それでも、もう話しかけられまいと、懸命にまた本を読み始めるのだった。

第14話「旅の始まりは入出力エラー」をお読みいただきありがとうございます!


異世界に転生し、最強の魔術言語を操るカイですが、対人関係のプロトコルだけはどうしても「エラー」を吐いてしまうようです。 内心はあんなに饒舌なのに、声にならない……このもどかしいギャップが彼の魅力(?)でもあります。


一方のシリルは、卓越したコミュニケーション能力でパーティーの「フロントエンド(交渉担当)」として大活躍。 二人の凸凹バディ感が、旅の始まりを賑やかに彩っています。


さて、物語はこれからメタキリタスの遺跡へと向かっていきます。

そこにはどんな「古い仕様書ロストワード」が眠っているのか。 そして、馬車で出会った謎の男の影……。


【次回の更新予定】

次話、第15話は 5月16日(土) に更新予定です!

(※5月9日の第14話に続く、定期更新となります)


この旅の先に待つ「魔術言語革命」を、引き続き見守っていただけると嬉しいです。

「カイの人見知り、わかる……」「シリルが頼もしすぎる!」と思った方は、ぜひブックマークや評価、いいね等で応援をお願いします。 開発(執筆)の大きな励みになります!

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