その先
遺跡の、奥へと、進むほど、外の、戦闘の、喧騒が、遠ざかっていった。
代わりに、静かな、しかし、確かな、圧を、帯びた、空気が、ティナを、包み込んでいく。
「……待って、ウール」
追いかけながら、ティナは、必死に、声を、かけた。
だが、ウールは、止まらない。
淡い、光を、纏いながら、遺跡の、通路を、真っ直ぐに、進んでいく。
やがて、開けた、広間に、辿り着いた。
石造りの、円形の、部屋。
中央に、大きな、魔法陣が、刻まれていた。
そして、その、中心に。
淡く、脈打つような、光を、放つ、何かが、存在していた。
「……これが」
ティナは、思わず、息を、呑んだ。
小さな、球体のような、それは、微かに、鼓動するように、明滅していた。
竜の、鱗のような、質感の、表面。
「……眠れる者」
ティナは、震える、声で、呟いた。
「本当に、実在、してたんだ」
ウールが、その、球体の、前で、静かに、止まった。
そして、ゆっくりと、地面に、降り立つ。
まるで、対話するように、球体を、じっと、見つめている。
「……ウール」
ティナが、慎重に、近づく。
「これは、何……?」
その、時。
球体から、微かな、光の、粒子が、立ち上り始めた。
ティナの、目の前に、ぼんやりとした、映像のような、ものが、浮かび上がる。
はるか、昔――
巨大な、竜が、この地を、暴れ回る、光景。
炎が、大地を、焼き尽くし。
人々が、逃げ惑う。
そして、エルフの、祖先たちが、共に、力を、合わせ。
その、竜の、力を、封じる、儀式を、行う、光景。
「……これが」
ティナは、震える、声で、呟いた。
「五年前、ダリオスさんが、恐れていたもの」
映像は、やがて、静かに、消えていった。
球体だけが、静かに、脈打ち続けている。
「……ウール、あなたは」
ティナが、静かに、問いかける。
「この、封印に、関係が、あるの?」
ウールは、答える、代わりに、優しく、瞬いた。
その、光が、ティナの、心に、直接、語りかけてくるような、感覚があった。
『――守り手』
そんな、言葉が、頭の中に、浮かんだ。
「守り手……?」
『竜の、意志の、一部』
『封印が、正しく、保たれるよう』
『見守る、存在』
その、感覚に、ティナは、目を、見開いた。
「……あなたが、ユノの、元に、生まれたのは」
『偶然、ではない』
その、答えに、ティナは、しばらく、言葉を、失っていた。
ユノの、愛獣として、生まれた、ラグナル。
そして、同時に、現れた、ウール。
それは、ただの、偶然ではなかった。
「……ラグナルとの、関係は」
『同じ、血の、力』
『いつか、繋がる、運命』
その、言葉に、ティナの、背筋に、緊張が、走った。
その、時。
広間の、入り口から、複数の、足音が、聞こえてきた。
「――ここか」
低い、声。
マルコスだった。
護衛の、姿は、なかった。
一人で、駆けつけて、来たようだった。
「……とうとう、辿り着いたか」
マルコスの、目が、中央の、球体に、釘付けになる。
「これが、竜の、封印の、核」
「これさえ、あれば」
「たとえ、鍵が、揃わなくとも」
「不完全ながら、力を、引き出せる」
その、言葉に、ティナは、咄嗟に、球体の、前に、立ちはだかった。
「……渡さない」
「退け」
マルコスの、声は、冷たかった。
腰の、剣に、手を、かける。
「渡すわけには、いかない」
ティナは、震えながらも、決して、退かなかった。
ウールが、静かに、ティナの、隣に、浮かび、淡い、光を、強めていく。
「……その、生き物が」
マルコスの、目が、鋭く、細まる。
「精霊、なのか」
「もし、そうなら」
「排除するしか、ない」
剣を、抜き放つ。
月明かりが、刃に、反射し、鈍く、光った。
「――待って!」
ティナが、叫ぶ。
だが、マルコスは、止まらなかった。
一直線に、踏み込んでくる。
その、瞬間。
「――そこまでだ!」
背後から、鋭い、声が、響いた。
駆け込んできたのは、ユノだった。
剣を、構え、マルコスの、刃を、正面から、受け止める。
「ユノ……!」
ティナが、安堵と、驚きの、混じった、声を、上げる。
「一人にさせて、悪かったな」
ユノが、剣を、押し返しながら、言う。
「ここから、先は」
「二人で、守る」
その、宣言に、マルコスの、目が、僅かに、揺れた。
「……お前たちが」
「私の、邪魔をするのか」
「あなたの、望みが」
ユノが、剣を、構え直しながら、言う。
「多くの人を、危険に、晒すことなら」
「邪魔させて、もらう」
広間に、緊迫した、空気が、満ちていく。
球体の、放つ、淡い、光だけが、静かに、その場を、照らしていた。




