008.そして世界は巡り、巡り
本日、完結までの2話+人物紹介で3話を同時に投稿しています。
こちらは【1話目】です。
エアネストとアリーシアは、懐かしい場所でまた暮らし始めた。
二人以外の誰もいない、穏やかな日々。
以前のエアネストが広範囲に魔法で張った結界は、外からはただの山にしか見えず、人間は入ってこられない。
危険な動物も同様で、周囲の森には小動物くらいしかいなかった。
街や村でしか手に入らないと思われる物も、ここには材料があるし、作れるひとがいる。
材料となるものはすべて、かつてこの場所を造ったエアネストが集めて根付かせ、自然に増えていったものだ。
エアネストが材料を採集し、アリーシアが調合する。
アリーシアはエアネストほど様々な魔法が使えるわけではなかったが、魔法で調合することが得意だった。
ここに来てすべてを思い出し、石鹸や薬を楽しんで作っている。
エアネストは以前も今も、この場所から出る気は無かったし、二人だけの時間に他の誰かを関わらせる気もなかった。
ここに来るまでの旅は、王都から出たことがなかったアリーシアのための、最初で最後の旅だった。
何も知らないアリーシアと急に二人きりになるのではなく、エアネストと過ごすことに日常の中で慣れてもらうためでもあった。
自分にはアリーシアだけが居てくれればいい。
アリーシアには自分だけが居ればいい。
それでお互いに何の憂いもなく笑っていられるのだから、それでいい。
「エアってね、音だけだと遠い国の言葉で“空気”という意味なんですって。ふふ……あなたにぴったりよね。だって私は──あなたがいないと生きていけない」
もう、この幸せを知らなかった頃には戻れない。
知ってしまったから、あなたがいないと息ができない。
この上ない愛の言葉に、エアネストは噛みつくような激しいくちづけで応えた。
「愛している……愛しているよ、シア。君が俺のすべてだ」
時を越えた再会が、再び愛し合えることが──ただ、幸せで。
何に煩わされることもなく、二人だけで完成したこの小さな箱庭の中。
二人きりで、ずっとずっと、生きていく。
* * *
今度は、生まれ変わったら何になりたい?
あら……懐かしい言葉ね。
再会できたんだから、次だってきっと、また出逢うさ。
そうね……次もきっと、出逢えるわね……。
約束するよ。
いつ、どんな時代でも、俺と君はまた出逢う。
その約束も、守ってくれたものね。
そうね……次は……王女様と騎士様でなくていいの。
どこか小さな街で、旅人のあなたと出逢えたら、素敵ね。
偶然どこかですれ違って……でも、きっとまた一目であなたに恋をするわ。
それも運命的で、素敵な出会いだね。
そうよ……。
でも、本当はなんだっていいの。
あなたとまた出逢い、愛し愛されて、幸せに生きることができれば──それが、私の幸せだから……。