移動中のお仕事
「まぁ。ぶっちぇけちゃうと、倉庫車両Eは、移動中の仕事は…ない。いや、まったく無いわけじゃないよ? だけど、私とウキドックスだけで、十分なんだよ」
そんなセリフを私の目を見て言ったジルさん。ノームのノラさんも、犬亜人のワンダ先輩も、コクコクと首を縦に振っていた。
小さな赤い宝石が埋め込まれている指輪でしか開かないドア。その指輪は指定された本人のみが反応する。そして、そのどちらも高度な魔法と錬金術でセキュリティが保証されている。その上、ゴーレムのウキドックスが要塞のように、倉庫内にいるのだ…移動中の防犯は完璧なのだろう。またデスクワークは、ジルさんこと、総責任者の仕事…。危なかっしくて、任せられないのが本音らしい。
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「…って言われたの。移動中のお手伝い…じゃないや。お勉強に来た…グラビィです」
ここは魔導車両の一階。魔道士たちの研究施設だ。魔導列車でも最後尾から数えた方が早い位置にあるのは、仮に実験が失敗した時、直ぐに魔導列車から切り離せるようにするためだ。兎に角、危ない車両なのだ。
三本の尻尾がある狐亜人の…いや、デフォルメされた狐のぬいぐるみのような、魔導車両・総責任者のエリリタさんが補足する。
「定員に空きがあれば、グラビィさんも、この魔導車両の配属でした。そんな訳で、移動中のみですが、みなさんと一緒に、学んでもらうことになりました。そうね…年齢も近いし、しばらくは、ヘリトリスに頼もうかしら?」
「え、わ、わたしですか?」
ヘリトリスと呼ばれた少女は、人間なのだが、左目が犬目で右目が猫目だ。
「よろしく〜」
「あっ、はい。よろしくです。えっと、グラビィさんは、どんな魔法を使うのですか?」
「【引力】の魔法。倉庫で荷物を持ち上げるんだよ」
「【引力】ですか…。それは…なんとも珍しいですね。そうですね。最初は、魔法の科学…つまり、どうして魔法が使えるか? ということを勉強していきましょう」
ヘリトリスの作業机の隣に椅子を置き、グラビィは…とても眠たくなるように本を渡された。ヘリトリスは自分の作業に入る。つまり…この本を読めということなのだな? とグラビィは理解する。
「良い子の魔法の入門書!? 嬉しいな…魔法の本って、初めて見る」
『魔法とは、魔道士の血を受け継ぐ者が、発現できる奇跡である。使える魔法は、受け継がれた血、育った環境、本人の願望から…適切な魔法が選ばれる。魔法に優劣はない。与えられた小さな卵をどのように育てるか、その育てる道こそか魔導の心理である。』
「ふんふん。当たり前なことを…。私は【引力】の魔法で、大魔導師になるからね〜」
『奇跡はイメージであり、発現の成功率は信じる心である。』
「だから、私が考える魔法は、全部出来るに決まってるの!!」
『幾度と繰り返される魔法には、神々から恩寵として設計図を賜ることがある。』
「ふぇっ!? 何それ!? 貰ったこと無いよ? ねぇねぇ、ヘリトリスはある?」
「あ、ありませんよ! それこそ、同じ魔法を何億回と繰り返して…も、頂けるかどうか…」




