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黄昏の兄妹  作者: 雪野湯
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青年と全裸の少女

 ディランは剣の柄に手を置いて、警戒の根を広げた。



 しかし、どこにも人の気配など感じない。

(おいおい、マジかよ? この俺に気配を感じさせねぇなんて。こいつはとんでもねぇ使い手だっ)

「どこに居やがるっ、出てこい!」


<落ち着いてください。私は部屋のどこにもいません>

 

 再び聞こえた声は、部屋の天井から降り注いでいるように聞こえる。

 彼は天井を見上げながら、問いを返した。



「じゃあ、どこにいる?」

<私はガクテンソク。現在、システムの管理を任されているAIです>

「えーあい?」

<人の手によって作られた、自動に適切な解を求める存在です>

「ん? 屋敷の魔術士たちが作った道具ってことか?」


<乗員の呼称に誤解がありますが、概ねその通りです。失礼ですが、お名前をよろしいでしょうか?>

「え、ああ、ディランだ」


<では、ディラン様。お願いしたいことがあります>

「いきなりだな、おい。とりあえず顔を見せろ。話はそれからだ」

<それは不可能です。投影システムは全て機能不全で使用不可ですので、このような形で声を伝えることだけで精一杯なのです>


「つまり、あんたは動けない状態で、どっかから声を出すのがやっとと?」

<はい>

「もしかして、ケガをしてるのか?」

<故障しているという言葉が適切かと>

「故障? あ、なるほど。あんたは外のゴーレムと同じような存在ってことか。あいつよりも頭は良さそうだけど。それで、頼みとは?」


<ラボの中心にある戦闘人形を起動させてもらいたいのです>

「戦闘人形?」



 ディランは青い液体に満たされたガラス管の中で眠っている少女を瞳に入れる。

 とても愛らしく幼い少女。戦闘という物騒な言葉は結び付かない。


「よくわからんが、この女の子を目覚めさせればいいのか?」

<はい>

「どうして?」

<現在、システムのほとんどがダウンし、私からでは直接アクセスはできません。ですので、戦闘人形を使いシステムの復旧に努めたいのです>


「さっきから何言ってるかほとんどわかんねぇが、要はここを直したいから、この……なんだ、戦闘人形とやらを起こしたいわけだな」

<その通りです。お願いできますか?>

「う~ん」



 ディランは再びガラス管に目を向けた。

 そこには寒々とした液体の中に浮かぶ少女。

 少女は何も発することなく、ただ眠っている。


「この子はどのくらいこうしてるんだ?」

<途中に記録の空白があるため正確な時間ではありませんが、こちらの公転周期で二百五十年以上は経過している思われます>


「に、二百っ? 二百年間もずっとここに閉じ込められてんのか?」

<閉じ込められているという表現は不適当ですが、乗員がラボを使用中であった時も、去ってからも起動することなくここにいるのは事実です>

「そんな、一人でずっと……」


 物言わぬ少女はずっと一人、ここで孤独に過ごしていた。

 その事実がディランの心に痛みを産む。


「……わかった。起こそう。ずっと一人でこんなところに置いておけねぇ」

<感謝いたします。では、入口右にある制御パネルに向かってください>

「了解だ、入口右ね」


 入口のすぐ右隣には、チカチカと何かが点滅する光沢のある壁と、その壁と繋がり、同じく光沢のある机があった。



 ディランはその前に立ち、ガクテンソクに尋ねる。

「前まで来たが、ここからどうする?」

<私の指示通りの操作をお願いします。パネルに表示される文字はバールバラの標準言語に設定していますので。まずは……>



 ガクテンソクの指示でディランは制御パネルを操っていく。

 その指示に当初は彼も戸惑っていたが、時間が経つにつれて操作に慣れていった。

 


 ディランはパネルに浮かんだ表示を指で押さえながら、横へずらしていく。

「え~っと、この緑色の四角っぽいマークを台形の表示に重ねると。そして、こっちの数値を指示通りに設定。次はこの配線を繋げ直して~っと」

 彼の操作ぶりに、ガクテンソクが感嘆の声を漏らす。



<驚きました。これほど早く操作を覚えてしまうとは>

「物覚えは良い方だからな~。で、と。こんなもんか? どうだ、ガクテンソク?」

<はい、問題ありません。では、最後に壁のパネルの赤く点滅するマークを押してください。そうすると戦闘人形は起動し、私は休止状態に入ります>

「休止? 寝るのか?」


<現在、船のあちらこちらが故障しており、機能不全に陥っています。また、エネルギーも不足しております。ですので、権限を戦闘人形に集め、私は休止状態へ移行します>

「船? なるほど、確かに故障しているみたいだな」


 屋敷を船と呼ぶガクテンソクをディランは故障と受け取ったようだ。



「それじゃ、スイッチを押すけど、準備はいいか?」

<はい。休止後は戦闘人形に任務を委譲します。また、最優先任務に抵触しなければ、ディラン様に従うように設定を行いました。ご自由にお使いください。これはせめてもの礼です>

「いや、ご自由にお使いくださいって言われてもなぁ」


 視線をガラス管に移す。

 そこにいるのは年端もいかぬ少女。


「ガキにやらせることなんざ、家事手伝い程度だろ。まぁいっか。じゃ、スイッチ押すぞ。んじゃ、おやすみ」

<はい、お休みなさい>



 ディランはパネルの赤いマークを押す。

 すると、ガラス管と台座を繋げていた蛇腹のパイプが唸りを上げて動き始める。

 パイプは管に満たされた液体を吸い込んでいるようで、少女の全身を飲み込んでいた液体は徐々に水位を下げていった。

 少女は目を閉じた状態のままで台に立っている。

 パイプは自動にガラス管から離れ、そのガラス管も自動的に天井へと吸い込まれていった。



 一連の動作を見ていたディランは腕を組みながら、関心しきりに声を出す。

「はぁ~、すごいねぇ。こりゃ、皇都の研究者に見せたら喜ぶだろうなぁ。で、もう、起きるのかな?」

 彼が一歩、少女が立つ台に近づくと、台の周りにオレンジ色の薄い壁が現れた。

 それは周りからの侵入を拒むもの。

「え、なに?」


 驚くディランを置いて、機械は淡々とプロセスをこなしていく。

 天井からはガクテンソクとは違う、無機質な声が響き、赤や青や黄色といった光が少女に当たる。


「基本プログラム、ダウンロード。戦闘人形規定プログラム、ダウンロード。最優先任務ダウンロード、連邦憲章ダウンロード、情報消失による重大なエラー発生。その他重要なプログラムダウンロード、一部エラー……任務遂行最優先により、続行。インストール開始。十秒後、起動開始」


 これらの作業を黙って見ていたディランは眉を顰めた。

「なんか、後半エラーエラー言ってたけど、大丈夫かよ?」

 

 彼の不安をよそに、必要と思われる情報が全て少女に降りた。

 最後に温かな風が少女を包み、青色の液体に濡れていた肌や髪を乾かしていく。

 水を含んでいた銀髪が渇きサラリと揺れると、少女はゆっくりと目を開いた。

 そして、台の下に立つディランを見つめる。



「初めまして、マスター。私は戦闘人形セメットプラン型ラー001。連邦憲章及び優先任務に反しない限り、あなたの如何なる命令にも従います」



 表情なく、淡々とした言葉を紡ぐ銀髪の少女。

 ディランは少女の顔をじっと観察し、そこから全身を見渡していく。

 

 腰丈にまで届く艶やかな銀の髪。

 黒の瞳を覆う、新緑の虹彩。

 とろりと眠そうな瞳は、感情を一切伴わない冷たい目をしている。

 顔は幼くとても愛らしいが、目鼻立ちは整っており、数年もすれば美しい大人の女性となるだろう。

 しかし、今は子ども。

 手足はとても華奢であり、胸は僅かに膨らむ程度で、その先に在る色はまだ色気づくことはない。

 くびれも薄く、尻も小さい。

 

 身長もまた小さく、140cmあるかないか程度

 


 ディランは一糸纏わぬ少女の肢体に、視線を上へ下へと飛ばす。

「なんだかよくわからんが……とりあえず、服を着よっか」

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