お姉ちゃんが怒ると……
私はお姉ちゃんが怒ったところを見たことがない。普段、ニヤニヤしてたり床水泳ばっかりで感情が動かないというか真顔を見てない気がする。
最近、一緒にお風呂に入ってないし、一緒に寝てないし。
えー……怒ったらどうなるんだろう。
拓くんは、敬語で穏やかに威圧するけど。
お姉ちゃんもそれなのかな。いやー、ありえないかー……
「てなわけで、お姉ちゃんを怒らせてみよう。結成!お姉ちゃん怒らせ隊!」
「僕を巻き込まないでよ」
「まぁまぁ。ドッキリの仕返しだと思って……」
段々思い出す、あの時の記憶。
「……と言っても、拓くん、まんざらでもなさそうだったよね。このスケベ」
「まだ言ってんの?まぁ、まんざらでもなかったけど……」
「バカ」
「一応反省します」
*
そんなわけで、拓くんを私の部屋に入れてお姉ちゃんを怒らせる会議をすることになった。
「そもそも、若葉さんって何に怒るんだろう」
拓くんは首をかしげる。
「確かに……んー。お菓子を食べたり?」
「久保さんじゃないんだから」
「じゃあ、なんなの」
「主催者が丸投げしないでよ」
すると、部屋がコンコンとノックされる。
私が開けると、そこにはお姉ちゃんがいた。
「お菓子を持ってきた。食え」
間に入ったお菓子を、お姉ちゃんが押し付けるように渡した。
「スィーユーネクスタイム。アハハハハ」
そう言って部屋から出て行ったお姉ちゃん。
「んー……若葉さんを怒らせるか……」
拓くんは腕を組む。
「なんか、怒らせるような言葉無いの?」
「えー……おっぱいお化けしか。これ言えば、口喧嘩に持ってけるけど……でも、だいたいヒラヒラかわされるんだよね」
「なにか、良いのは無いのかなー」
拓くんは苦悩している。
「あ、じゃあ、色々試してみようよ」
もう、これは天啓としか言いようがない。
テイク1
そんなわけで私はニヤニヤ笑って、リビングのソファで転がってるお姉ちゃんに近づいてみた。
「あ?なんだ歩果。そんなにニヤニヤして」
すると、お姉ちゃんは私のほっぺを片手で掴む。
「変な顔だな。いじりたくなる」
私はお姉ちゃんの手を無理矢理離してリビングに出る。
テイク2
私は再び、ソファに転がるお姉ちゃんに近づく。
「なんだ歩果」
「べー」
あっかんべーを繰り出した。
「おうおう。反抗期か。姉は嬉しいんだかイラつくんだか」
テイク3
「なんで僕も……」
「いいからいいから」
今度は拓くんを引っ張り出した。
少しだけ窓を開けて、スパイみたいに見る。
「歩果の次は拓か。私に何をする気だー?別に私は男もいけるぞー」
「…………」
拓くんは何も言わずにリビングを出た。
「できないんだけど」
「なんでもいいの。『バカ』とか『アホ』とか」
「若葉さん頭良いからそう言うのは聞かないよ」
「んー……」
お姉ちゃんを怒らせる方法はまだ分からないな。
「おい、お前ら気をつけろよ」
いつの間にか、目の前にお姉ちゃんがいた。
「歩果の声はよく通るんだから、ヒソヒソ声には気をつけろよ」
「…………」
「で、なにが出来ないって?あぁ、拓。お前、歩果ほどじゃないけど、声が通るぞ」
そうして、私たちは正直にお姉ちゃんに白状した。
「ハハハハそうか。私を怒らせるかぁ。確かに、私は歩果に対して怒ったことはなかったな。まぁ、裏を返せば歩果がいい子ってことだな」
もちろんだけど、お姉ちゃんは怒らなかった。
「まぁ、私が本気で怒ることはないからな。警告って意味で低い声は出すがな」
「えー、じゃあやってみてよ」
「そうだなー……じゃあ拓。悪い男風で歩果をナンパしてみてくれ」
「え、なんで僕なんですか?」
拓くんは慌てた様子で言う。
「いいからいいから」
「……分かりました。では……そこのお姉さん。僕と遊ばない?」
地味に演技が上手いんだよなー拓くん。
「いや……お姉ちゃんがいるんで……」
「へー。じゃあ、お姉さんとも遊ぶよ。僕、女の子を誰1人として悲しませないから」
んー。まぁまぁ私と喧嘩してるけど?
すると、拓くんの肩にお姉ちゃんの手がかかる。
「お、君がそのお姉さん?ひゃー。スタイルいいねー。良ければさ、妹さんもオッケーしてくれたから僕と遊ばない?」
「ほぉー。遊んでくれるのか」
「うんうん」
お姉ちゃんの声が5段くらい低くなる。
「ざけんなよ」
そう言って拓くんを床に倒した。
「……とまぁ、こんな感じだな」
「なんか、思ったより数段怖かったです」
転がったままの拓くんが言った。
「そうだろう。怒ると怖い人というのは、自分の武器を使ってるんだ。優しい人が怒ると怖いって言うだろ。あれは、優しさを武器に自分の怖さを隠している。本人たちからしたら無自覚だろうけどな」
「ちょっとなに言ってるか分かりません」
「そうだな……優しい人って怖さを感じないだろ?それが武器。それが真反対になると激しい恐怖に変わると言うことだ。そう言えば、漫画で読んだなぁ。一流の教育者ほど、恐怖を巧みに使うって」
「それ、暗○教室ですよね」
「お、さすが拓。特撮以外のものも見るのか」
「テレビっ子でしたから」
「やはり、私とお前は話が合うな」




