毎季のお約束・続き
「クーちゃん。おはよ……あれ、森川くんは?」
早々に和泉ちゃんは首をかしげた。そんなに私たちはセットの扱いなの?
まぁ、無理もないか。
「今日は熱で休んでるの」
「あぁ。季節の変わり目は風邪を引くんだっけ?」
「うん。でも、熱だったみたい」
拓くんが風邪を引くのは大体3分の2くらいって言ってた。
「熱かー。お大事にって伝えといて」
「うん。後でメールしとく」
席について早々、隣の席の拓くんがいないことにがっっかりしてため息をついた。
なんで拓くん休んじゃうんだろう。
「ね、久保さん」
顔をあげると、少しだけ話したような気のする男子がいた。
「今日森川休んでるけど、大丈夫?」
「あぁうん、だいじょぶだいじょぶ」
適当に言葉を縫う。こう言えば大体かわせる。
周りからはよくそっけないって思われるけど、愛想のいい人なんてそうそういない。だから、私は素を出してる。
あーあ。拓くんがいないんじゃ、何も始まらない気がする。
あ、今日のノートを取らないと。ダラダラしてられないかなー。
*
今日は一段と眠くなかった。拓くんのノートを写させるために丁寧に書くのが必死だから。
『久保さんってノートは綺麗に書くよね』
なんか思い出みたいになってるけど、拓くんは死んでないからね。ただ今は熱を出してるだけ。
授業が終わると1人なのかー……和泉ちゃんに話しかけに行こうかな。
それだと、嫌に思わないかな。ここは加藤さんかな?
授業が終わると、加藤さんが近づいてくるのが分かる。
「歩果」
「ん……」
「森川、いなくて寂しそうだけど」
いつの間にか苗字呼び。お姉ちゃん以外に名前で呼んでるのはいないかも。
「うん……でも、ノートは取らないといけないから。拓くんの成績は私に関わってるかも」
「アイツならすぐ勉強して身についちゃうよ。歩果はあまり関係なくない?」
加藤さんの言うことは至極正論な気がする。確かに、拓くんなら1時間程度の差はどうってことはないか。
あーあ拓くん。明日にでも来ないかなー。
「クーちゃん寂しそう」
「ゔぁ。和泉ちゃん」
いつの間にか、私の後ろに和泉ちゃんがいた。さすがに水乃も拓くんがいないと話しかけにくいらしい。
*
飲み物を買いに行くと、今朝の男子が近づいてきた。
「久保」
「なに?」
「なんで俺らにはあんな態度なのに、森川にはニコニコしてるんだよ」
「んー?拓くん以外とは馴れ合いたくないの」
それが本心。恋愛にはいまいち興味がない。だって、拓くんと一緒にゲームして笑える時間が私は大好きだから。
「久保。俺は」
「あ。自販機当たった。じゃあ、ココア」
缶のココアが落ちてくる。
「久保!」
思わず舌打ちしちゃった。こう言う癖は直した方がいいいのかな。
「……俺は久保のことが」
口より先に、私は手が出るタイプなのは重々承知している。喧嘩っ早いんだよね。
昔はこんなふうじゃなかったのになぁ。もう、拓くんになすりつけちゃおっかな。
ペットボトルで、彼の頬を寸止めした。
「…………」
「…………」
お互い無言になった。
「……わかった。それ以上聞きたくない」
私はそれだけ言って、教室に戻る。加藤さんも和泉ちゃんも待たせてるんだ。
***
「ってなことがあってさ」
私はお見舞いついでに、拓くんにそのことを愚痴る。
「へぇ。久保さんの初告白は久保さんが無理矢理壊しちゃったね」
「壊した方がいいのかも。物は直すより、買い直した方が頭を使わずに済むよ」
「ちょっと何を言ってるのかわかんない」
拓くんは熱があるだけで、健康だった。感染症とかじゃないから、普通に話せるし。
「まぁ、そんなわけで手土産ね」
昼に当たったココアを山なりに投げる。拓くんも両手でキャッチしてくれた。
「ねぇ、病人に缶キャッチはいかがなものかな」
「ちょっと何を言ってるのかわかんない」
「僕は病人なの!労わって」
「これ飲んでハイテンション」
「お酒の酩酊期みたい。これは糖分たっぷりのココアだよ。労わってよ」
「ベニヤ板がいい!」
「そっちじゃないよ。酔狂でもこんなのしないよ」
「労るって……どうするの?」
「例えばー……僕をヨシヨシするとか、膝枕するとか」
「拓くんって病気になると甘えん坊になるタイプ?引かれるからやめな」
「僕の目の前にいる人は少なからず引いてるようには見えないけど?」
「ちょっと引いてるよ。拓くんのこう言う姿は初めて見るから」
私は一つため息をつく。
「しょうがないなー。全部叶えてあげるよ」
私は拓くんの隣に座って膝を叩く。
「わーい。半日会えなかった分だー」
拓くんは速攻で私の膝に頭を乗せる。いつもは少しためらうのに、嫌に欲望に従順。
「それはこっちのセリフでもあるよ」
わしわしと拓くんの頭を乱暴に撫で回す。
「うえー。病人に優しくない」
「私は看護師ではございません。白衣の天使ではなく制服の悪魔でーす」
これで、1日のエネルギーは補充できたかな?




