僕と久保さん
「だからぁ。ドーナツだと思うんだよ」
「いやいや|。ケーキじゃないの?」
僕はそう言って、眉をひそめる。
僕と久保さんは一緒に帰りながら、“甘いものでどっちが美味しいか”を争っていた。久保さんはドーナツ派。僕はケーキ派だ。
ちなみに、いろいろな点で争っている。もはや、戦争だ。
まずは、味。
久保さんいわく、「ドーナツはチョコやイチゴと色々な種類があるから、ドーナツが美味しい」と。
僕も反逆心で、「ケーキは甘くて、クリームとかイチゴとかのフルーツがあるよ」と言った。なんだか、違う気がする。
次に、食べやすさ。
久保さんは、誇らしげに「ドーナツは片手で食べられるから、本を読みながらとか、スマホで動画を見ながらで、手軽に食べられる。ケーキは食器を出したりめんどくさい」と、“そう言えば”なもっともなものだった。
結局僕は何も言えなくなって、今に至る。
僕は試行錯誤している。
なんだろうか。味は……言ったな。うーーん。
「あ!」
僕は大きな声をあげて思いついた。
「お、卓たくくん。何かあった?ドーナツに勝てるものはあるかな?」
ニヤニヤしながら、言う。
「えー、言っていいのー?久保さーん」
僕も彼女を見てニヤニヤする。
「どうぞどうぞ」
僕は間を空けて言った。
「特別感は?」
久保さんは口を開ける。言わなくてもわかる。
「なるほど!」
そう、それだ。まさに、今久保さんが言った言葉そのままだ。ケーキは誕生日やお祝い事限定の食べ物だ。ドーナツはショッピングモールにあるドーナツ屋さんで「ドーナツ食べる?」「うん」の軽いノリで食べられるが、ケーキはどうだ。そんな軽いノリでは食べれないはずだ。なにせ、みんなの頭にはケーキ=特別な日に食べるものという認識があるからだ。
さあさあ、久保さん。これでどうかな。負けちゃうかな。手をゆらゆらさせていると、久保さんは喋り出した。
「食べれる量は?」
「あ……」
ケーキは甘くて、胃が大きなダメージを負うが、ドーナツは片手で持てるくらいの大きさで手軽に食べられる。一度に、一個や二個。もっと食べれるなら三個は食べれて、たくさんの味を楽しめる。つまり、食べている時の次の食べ物のワクワク感が出るのだ。
「あれれ。出ないのかなー?」
久保さんは笑みを浮かべながら僕を見る。
「いやー、うーん」
「ほれほれ。出してみなさいよ」
「いやー、ちょっと……」
「あ、じゃあねー」
久保さんは、曲がり角を曲がる。その曲がり角を曲がってまっすぐ進めば、彼女の自宅があるのだ。
「あ、ちょっと」
久保さんはその声を無視し、家まで小走りで向かっていった。これは一本取られたかな。




