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ユエの呟きが届いたがやはり視線が合わず再び黙り込んでしまった。なす術が無く雄真もどうしたものかと眉を寄せている。
『声だ!声が聞こえる!』
今度はしっかりと目に光を宿してユエが言った。
「声?声って、あなたの世界の命達の声!?」
『そうだ。確かに聞こえる!ああ、耐えておってくれたか』
「良かったわね!」
「おい、ユエ!それならまだ間に合うんだな!回復具合はどうなんだ?このまま進んで良いのか?!」
『もうすぐ済む。このままで良い。頼む、山頂へ行ってくれ。最も気が強い』
ユエの言葉に私たちは強く頷くと残りの山道を駆け上がった。日頃の運動不足が祟って、もうすでに脚が痛かったし靴擦れした踵が辛かったがユエの言葉がそんなもの吹き飛ばした。
山頂に到着するとそこには小さな祠が建っていた。木々に囲まれており山頂からの景観はあまり楽しめなかったが、静かな空間に佇む祠は神秘的な雰囲気があった。登山家に聞かれたら鼻で笑われてしまいそうだが、これだけの距離と高さでも日頃山歩きなどしない私にとっては十分な達成感を味わせる場所だった。
雄真の腕から降ろされたユエは再び目を閉じて気を取り込むのに集中し始めた。やや傾き出した日の光に照らされてユエの髪は今までで一番光輝いた。光を反射しているようだったそれはさらに光量を増しユエ自身から放たれる光だと認識させた。次第に強くなる光に耐えられず思わず目を瞑る。
『千歳、雄真』
聞き慣れた、だがいつもよりも低めの声が頭に響き目を開けるとそこには黄金の鳥が佇んでいた。鳥と呼ぶのは失礼かと思うほどの神々しさを纏うその姿は、鳳凰という神獣を思わせる。大きさも私の背丈ほどあり、しっかりと視線が交わされていた。
「ユエなの?」
『どうだ我の真の姿は』
まん丸の大きなモフモフという想像と違ったが、少し低くも聞き馴染みのある声は確かにユエのものだ。
「とても素敵。可愛かった姿とは違いすぎて驚いたけど、回復が済んだのね。良かった」
『ああ、ここの金の守護が力になってくれた』
金の守護、やはりここには金の鶏が居たと言うことだろうか。
「居たの?金の鶏」
『…さてな。まあ、おると思えばおるのだろうて』
そう言って目を細めるユエに私もそうねと笑う。
「もたもたしてる場合じゃないんだろ」
『何だ雄真、やきもちか?』
「あ?」
『クックっ、雄真は本に揶揄い甲斐がある』
雄真の声は不機嫌そうだったが、その顔は笑っていてこのやりとりを楽しんでいるのが分かる。この光景も見納めかと思うと寂しいが、時間がないのも確かだ。
「ほらユエ、雄真の言う通り急がないと」
『ああ、そうだな。これまで世話になった。二人のおかげで再び我は我の命と共にあれるよ。心から感謝している』
ユエの別れの言葉を聞きながら私はその首に手を伸ばした。神獣の様な者相手に失礼かもしれないが、嫌がらなかったから撫で納めをさせて貰った。雄真も同じ様にユエの首元を撫でそこに光る金のネックレスに視線を向けていた。
「ユエに会えて良かったわ。神社巡りも楽しかった、ありがとう」
「俺も充実した休日を過ごさせて貰った。感謝してるよ」
私達の言葉を目を細めて聞いていたユエが翼を大きく広げた。後方の木々が揺らめき空間が歪むように見えたがそこに突如光のトンネルが出現した。
『千歳、雄真。互いを尊重し時に我儘に手を伸ばし、この先も末長く仲良うあってくれよ。さあ、巻き込んではいけない。離れておくれ』
ユエの言葉は少しよく分からなかったが問い返す時間もなさそうで、言われた通りユエから離れて距離を取った。
私たちが安全な場所まで離れたと判断したのかユエはその翼を羽ばたかせ空高く飛び上がった。上空を旋回し私達の頭上スレスレを滑空するようにトンネルへと飛び込むとそこから放たれる光が強まり再び私達は目を瞑った。
眩しさが落ち着いたのを察して目を開けるとそこには何事もなかったように森が広がっている。だが空から黄金の羽が二つ、ひらひらと舞って来てそこに確かにユエがいた事を語っていた。まるで私たちへのユエからの贈り物のようにも思えたが二枚の羽をキャッチすると雄真にも断って二枚とも祠の近くに埋めて帰った。ユエの力になってくれた礼に、二体の金の鶏に見立てて。




