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追放された仲間を庇ったら、いつの間にか結婚してた  作者: 豚肉の加工品
運命覚醒 Ⅱ
9/39

透明な指輪  3

誤字の報告ありがたいです。

自分でも意識なく書いている瞬間が多々あるので、助かってます。


王都に存在する王城がそのまま船になったと思えるほどの超巨大船が停止する港。

潮風が積み上げられた積み荷の間を縫って駆けぬけ、髪を左右に振る。

周りには力のある獣人たちが荷物を選別し、その獣人たちを統率しているのはエルフたち。様々な種族がいるなかで最も力のある獣人たちと賢く丁寧なエルフたちが協力しているためか、仕事に淀みが無く流れるように作業が終わっている。

まさに適材適所、種族の優劣を比べるよりも良い所だけを活用する仕事場は仕事が早い。


「…………ン?」


「どうしたんだ? ハバン」


黒狼族の男ハバンが周囲の匂いを嗅覚に集めるような行動をしていることに、エルフ族のユーリシスという少年のような見た目をした男が反応した。


「いや……何か、嗅いだことのあるような、ないような……」


一つの積み荷だけでも一般的人族の身長の二倍ほどの大きさ、それをハバンは三つも同時に運んでいた。

貿易国と言っても人族のみに卸す品物で国と町と村に分かれている人族への品は分配する物が多く、黒狼族のような早く力がある者たちは移動しながら積み荷を運んでいる。

その中でもハバンは貿易国の開閉門の前にまで積み荷を運んでいたのだが……


「嗅いだことのある? それはどういうことだ?」


「……いや、気のせいかもしれない。あの人は今頃――――」


勇者パーティの一員として、戦いの日々にいる。


「……まぁ、もう物資は商人に渡してお終いだ。亜人国家ファランクスへの出港まで少し時間もあるし、気になっているなら周囲を確認してきたらどうだ? 週一でしかここには来れないしな」


「いいのか? まだ運んでない物だってあるだろ」


「大丈夫だろう、皆も後は帰るだけってなって元気が溢れている様子だしすぐに終わるさ。それよりも黒狼族のお前が覚えのある匂いに反応しているんだ、そっちの方が気になるよ。もしかしたらあの男に出会えるかもしれないしな」


普段なら商人の匂いにも盗賊にも反応は示さないハバンが、周囲の一つ一つを確認するように目と鼻を利かせているのだ。

船の上で常に一緒に過ごしている仲間としてユーリシスはハバンの行動に無反応ではいられない。

それに、


「それにハバンが反応する人物、しかも平和大陸でだ。期待をしたくなる」


「……分かった。少しだけ外に出てくる」


「あぁ、どうせもう帰るだけだしゆっくり探して来い」


潮風で舞うように霧散する匂い。

それを嗅ぎ分けるだけでも相当な反応、更に言えばその微かな匂いを予測して追いかけるなど獣人の中でも鼻の利く者にしか出来ない。

そして鼻を利かせながらの単独行動を出来る者も限られている。


「……静かだな」


貿易国の外側を囲むような高い壁。

積み荷を卸している最中は外敵からの侵入を防ぐようにエルフの数人で魔力障壁まで使って守っているもので、壁の表面は一切の段差もない滑らかなものになっている。

普通の者ならば確実に侵入できないように設計されているのだが、黒狼族は尋常なまでの脚力を使って百メートルはある壁を一気に駆け上ることが出来る。

今、ハバンはその壁の上で広範囲を眺めていた。


「――――馬車の音、空からは飛竜便か……」


そろそろ商人らが積み荷を運ぶために貿易国にやってくる。

だが、今のハバンにはそんなことはどうでも良かった。


「あれは絶対にバルの匂いだった……一瞬だけでもオレが間違う訳ない」


魔力の全く感じない濃密なまでの強さの香り。

かの〝王〟たちにすら認めらた者の匂いを、獣人である者が間違うはずもない。


「……ッ! 二人?」


高い壁に跳ね返って鼻孔をくすぐった匂いが二つ(・・)

一つは見覚えのない温かい匂い。

二つめは……――――――


「やっぱりだ」


興奮を抑えきれず遠吠えをしそうになるのを唇を噛み締めて耐える。

確証はある、自分を信じている、それでも本当にそこにいるのか確かめるためにハバンは壁の上から身を投げるように飛び降りる。


「(久し振りに会えるのかな……)」





「うわぁ~、離れていても高さが分かりますね」


超巨大船を見つけてから五分程経過しただろうか……

近づいて行けば行くほどに、貿易国の厳重さを改めて思い知っているアレフィティナが視線を上へ流しながらそう言った。


「凄い厳重なんだけどな、あれには欠点が色々あるんだぞ?」


亜人としての証明をしているバルファは貿易国に入ったことがある。だからこそ貿易国の弱点と欠陥をよく理解しいてた。


「欠点? そんなものがあるんですか?」


「そうだなぁ、あの壁の頂上を見てみ?」


「頂上……ですか?」


言われるがままにアレフィティナが下から上と視線を動かして確認している。

秒数にして一秒もかからないくらいで眺め終わると、首を傾げながらバルファの方へ向き直った。


「ここからもう一キロを切ったくらいの距離にある壁を一瞬で全体を把握できない程に高いってことは、どういうことか分かるか? ほとんど日は通さないし、崩落したら甚大な被害が出るし、何よりも音が反響して耳が壊れそうになる。全く……どっちが守られてるか分からなくなるぜ」


本来ならば内側を守るために造られた壁。

内容的には盗みの防止として、人間では越えられないほどの壁を造るのが目的だったのだ。

だが、更に内容を強化するべく人族たちは欲張ってしまったために外側よりも内側が危険な状態になってしまっているのだ。


「改めて考えるとそれは分かる気がしますね。飛竜便による事故、馬車を守護する魔力相殺壁、考えれば考えるほどに盲点だったものが浮き上がってきますね」


「そうなんだよ。それに今はもっと危ないかもしれない」


音が反響する貿易国の内部から全く音が聞こえない。

つまり積み荷を卸すための作業を終えて、後は商人たちに渡すだけの状態になっているということだ。


「仕事が終わってるということは……ここに王都関係の人族が積み荷を受け取りに来るということですか。今の私たちは指名手配をされていてもおかしくはないことを考えると、危険ですね」


「結構な人数が来るな、まずは飛竜便を操る竜騎士、馬車を守る魔導士。それだけでもキツイけど兵士も何人か護衛と手伝いで編成されてるはずなんだ。流石に貿易国で戦闘を始める訳にはいかない」


「バルの立場からしてもそうなりますよね……。それなら急ぎましょう、見えてからでは――――」


アレフィティナの言葉を遮るように突然ふわりと後ろ髪が舞った。


「今のは……風?」


潮風は肌で感じ取れるくらい、髪が舞うほど押し上げるような風は吹いていない。至って穏やかで平和と言える気候だ。


「――――ん?」


バルファが眉を(ひそ)め、何かを眺めた。

昔に言っていた〝気配〟と呼んでいた技だろうか……?

バルファと同じ方向を見つめているアレフィティナには何を見ているのかは分からなかった。


「この感じ……ッ」


次の瞬間――――髪全体が舞い上がる強烈な風と共に漆黒の狼が目の前に現れた。

太陽の光に当てられて煌びやかに光る体毛、岩石すらも豆腐のように切り裂いてしまいそうな凶爪、こちらを見つめる瞳はまるで宝石のように輝きを放つ。


「バル」


無機質にも聞こえる抑揚のない男性の声が目の前から聞こえた。

その問い、アレフィティナの前に立つバルファが手を挙げて応えた。


「久しぶりだなぁ! ハバン!」


その漆黒な体毛が潮風ゆらゆらと波立つと、狼が笑った(・・・)


「会いたかったぞ」


ちなみに自分は誤字報告貰った時は合掌を、感想貰った時はザ・ワールドします(デ○オ派)。

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