表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/77

おじい様とデート

ここに居る時間は限られている。

だから今日はおじい様とデートだ。

ジュリエッタに、この国のすばらしさを分かってもらいたいが、

一日では案内尽くせないな。

そう残念がるおじい様。


「それなら、おじい様の一番好きな場所に連れて行ってください。」


私はそうお願いした。


「好きな場所か、そうだな………。」


そして連れてきてもらった場所は、亡きおばあ様が好きだったと言う場所だった。


「この高台から見ると、ほらあの山と山の堺をよく見てごらん。」


おじい様の示した場所は、

遠くに見える山並みの、深く切り込まれたような場所。

そこだけ他と違うように見える。


「あそこに少し反射しているように見える所が有るだろう?

あれは遠くにある海なんだ。」


「海!?

でもここは、海からかなり離れた場所ですよね。」


ここから海までは、確か町を4つほど越さなければ着かない筈だ。


「そう、でもここからならほんの少しだけ見えるんだよ。

お前のおばあさんも、よく言っていた。

まるで奇跡みたいだって。」


そう、まるで奇跡だ。

だってここは内陸部。

海までの距離はかなりある。


「よくせがまれてここに一緒に来たものだ。

サンドラはここに立って、飽きずにいつまでもあれを眺めていたよ。」


おばあ様の気持ちがよく分かる。

たとえ海はほんの少しだけしか見えなくても、

ここはいつまでも見ていたい風景だ。


「この国には、もっと美しい所や、楽しい所、煌びやかな場所が沢山ある。

だが私はサンドラと一緒に来たここが一番好きなんだ。」


「おじいさまはおばあ様を愛していらっしゃったんですね。

そして今でも。」


「そうかもしれん。

ここに来てあの海を見るたびサンドラを思い出す。

あれが嬉しそうに笑いながらこの風景を見ている姿を。」


「おばあ様はきっと、

おじい様が一緒だったからこそ、この場所が好きだったのだと思います。

私にはそんな気がします。」


「そうだろうか。

そうだな、私もあれと一緒にここに来るのが好きだった。」


それから私達は暫くそこに留まり、たわいもない話をした。

ここに来る途中スティールに遭遇した話は、

何となく話す事が躊躇われたので、黙っていた。


やがて海が夕焼け色に染まる頃、私達はようやく帰る事にした。




「私はもう私我慢できなくて、思わず殴ってしまいました。」


そう、帰りの馬車の中で、私はスティールと会った事を

おじい様に報告した。


「何と、殴ったのか?」


「はい、殴りましたとも。」


おじい様は、さも愉快そうに笑っている。


「よく無事だったな。

まあブレット達や、あのルイ―ザさんが付いているから大丈夫だとは思うが。」


「今から思うと、私も少し早まったかなとは思います。

下手をすれば今頃牢の中ですものね。

ホント、会ったのがグレゴリーで、

お付きの人が少ないうえに、アルフレードさんがいてくれて助かりました。

あっ、アルフレードさんと言うのは私も小さい頃から知っている

スティールのお付きの人なんです。」


「なるほど、お前たち二人が小さい頃から知っている人なんだね。

それは運が良かったね。」


「はい、良かったです。

これでようやく逃げ回る必要もなくなりました。」


するとおじい様は少しがっかりとした表情をなさる。

ローナが言っていた、こちらに私を引き取りたいと言うのは本当だったのだろう。


「私が、ジュリエッタにこちらで一緒に暮らさないかと言っても、

多分お前はそれを断るんだろうね。」


「はい、ごめんなさいおじい様。

私が仕事をせず、ただスティールから逃げ回る毎日でしたら、

それも考えたかもしれません。

でも今の私には、自分で決めた道が有ります。

生徒が私を必要と思ってくれるなら、

それを放り出すつもりは有りません。」


「そうか、多分そう言うと思っていたよ。

お前は何となくサンドラに似ている。」


おじい様は懐かしそうな眼で、私を見て笑った。

私もおばあ様に会ってみたかった。

きっと気が合ったのではないかしら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ