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迷い

「スカーレット様、

私はスティール様を次期王に据えた事を後悔などしていません。

しかし、自分が仕出かした事を最後まで責任を持ち、

スティール様に寄り添うべきだったのでしょうか。

私はただ、自分の我儘であの場から逃げ出しただけなのでしょうか。」


話している間も、私の気持ちは揺れ動く。

差し迫った事実に抗えず、逃げ出す事しかできなかった自分に、

自信など持てる訳が無い。


「そうですね……。

私がジュリエッタ様の立場だったら、やはり同じ行動を取ったかもしれません。

貴方を溺愛するスティール様は、

今はあなたを愛する気持ちだけで動いているのでしょう?盲目状態で。

あなたを手に入れるこのチャンスを、みすみす振る筈が無いでしょうし、

ただでさえ頭が良く、回転が速い。

ましてや立場は王太子殿下。

普通だったら逃げれませんね。」


やはりそうなんだ…。

スカーレット様も私と同意見。

逃げられる筈が無いのなら、

これ以上事態が悪化する前に戻った方がいいかもしれない。


「スカーレット様、私の為に大変なご迷惑をおかけしてしまいました。

私は明日、ここから引き返して……。」


「ジュリエッタ様、何か勘違いしていらっしゃいませんか?

私はあくまでも一般論を言ったまでです。

普通の方でしたら、周囲のやスティール様相手では、

多分逃げられなかったでしょう。

でもあなたは逃げ出した。逃げ切ってここまでたどり着いた。

そうでしょう?」


それはそうだけど……。


「もしあなたが自分の行為が間違っていたと納得したのなら、

スティール様の下に帰る事に、私は反対はしません。

しかし、もし少しでも疑問が有るのなら、せめてもう少し時間をかけ、

考えるべきでは無いでしょうか。」


確かに、あと少しで執り行われるスティール様の成人の儀。

それと同時に私達の婚約発表が公布されてしまえば、

私は一生、王家と言う呪縛から逃げることが出来ない。

私は王子妃としての責任を無視する訳にはいかなくなる。

そうなった時、私に定められた道は、

スティール様を支え、国を第一に考え生きて行かねばならない。その一択。

つまりそれは今の私にとって、愛の無い結婚生活を強いられると言う事だ。


絶望が覆いかぶさってくる。

情けなさで涙が溢れそうになる。

自分の置かれた状況、自分の取った行動。

それらを考えれば考えるほど、混乱する。


「アンドレア様との婚約は、私の意志などお構いなしの、

幼い頃に取り決められた契約でした。

一度は何とか受け入れようとはしたのです。

しかしアンドレア様の仕打ちや態度はどうしても受け入れられなかったのです。

だから私は婚約破棄をしたくて、丁度いい策を考え、

ようやくその立場から自由になった筈でした。」


そう、私はそのまま穏やかな日々を送るつもりだった。

過去の出来事を思い出した途端、腹立たしさが加わった。

罪悪感や、情けなさや、絶望感、立腹。

私の心の中は、もうメチャクチャ。

でもその中には喜びや、楽しさなどの正の感情は欠片も無い。


「私は自分の幸せの為、スティール様を利用した事で罰が当たったのでしょうか。

今の私は、スティール様にいい様に転がされていたような気がしてなりません。

頭の切れるスティール様の事です。

結婚した後も、私の気持ちなどお構いなしに、口先で丸め込み、

まるでマリオネットのように私は操つりそうな気がします。

それで一生を過ごすのかもと思うと、嫌で仕方が無いのです。」


そこまで一気に話した途端、とうとう私の目は決壊し、

涙が一気に溢れ出しました。

スカーレット様は、泣き伏せる私をそっと抱きしめて、

優しく慰めるように、背中を撫でてくれた。



「お可愛そうなジュリエッタ様。

あなたの気持ちは良く分かりました。

及ばずながらこのスカーレット、

あなたのお気持ちに沿い、力の限りお助けしましょう。

道程もあと半分、気を抜かずに頑張りましょうね。」


私を真直ぐ見つめ、そう言ってくれた彼女の心強い事。


「私の為にお手数をかけてしまい、申し訳ありません。」


「いえいえ、私もあなたの事はとても不憫だと思いますが、

意外と楽しんでやっていますから、そんなに気に病まないで宜しいのですよ。」


うん、それは何となく感じていました。

兎にも角にも、今の私にはスカーレット様しか頼る方がいません。

此処は彼女に甘えるしか有りませんでした。


ただ私は、その時隣の部屋に潜んでいる人の事は全然気が付かず、

そのまま明日も続くであろう逃亡の為に、ベッドに入る事にしたのです。

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