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ジュリエッタのおばあ様

「まーまーまー、ジュリエッタ、あなたったら。」


おばあ様は、いかにもおかしそうにケラケラと笑っている。


「あのね、これは笑い事じゃないの。

せっかく私がアンドレア様から解放されたと思ったのに、

どういう訳か、いつの間にかスティール様の婚約者に納まっていたのよ。

それも、弟であるスティール様が次期国王ですって。

これじゃあせっかく抜け出た罠に、また掛かってしまったような物よ。

まったくもう、どうしてこんな事になってしまったのかしら。」


私はおばあ様相手に、ぶつぶつと愚痴をこぼした。

だけど今更この決定事項を覆す事なんて出来無いのだ。


「まあ落着きなさいな。

大体の事はデーヴィットから聞いていたけれど、

まー可笑しい事、まるで昔の自分を思い出してしまうわね。」


そう言って、微笑みながら遠い目をするおばあ様。

ラブラブだったおじい様の事でも思い出しているのだろう。


「でも、私はおじい様の事は好きだったから、ジュリエッタとは少し違うわね。

ジュリエッタは、アンドレア様の事は好きでは無かったんでしょう?」


「当然だわ。あんなツンデレ、意地悪をして気を引こうなんて見え見えです。

ガキじゃあるまいし、好意が有るなら誠意を見せなきゃダメって、

いつ気が付くのか我慢して見てたけど、

一向に悟らないんだから、結局最後まで子供だったわ。」


「ねえジュリエッタ、ここだからいいけど、一応あなたは伯爵令嬢なんだから、もう少し言葉遣いを何とかしたら?」


そう言いながらも、おばあ様は焼きたてのおいしそうなパンを籠に盛り、

お茶と共に私の前に並べてくれる。

私はその中の一つを手に取り、頬張りながらも話を続けた。


「おばあ様の所に来た時ぐらい、気を抜きたいの。

それにしても、おばあさまの若い頃って、凄くドラマチックだったのね。」


おばあ様の日記読んじゃった、てへっ。て感じ。


「そうねぇ、

でも後から考えれば、私はかなり周囲に恵まれていましたからね。

それに、終わり良ければ総て良し。

この国に帰って来てからも、私はずいぶんと自由にさせてもらったわ。

まあ、おじい様とデーヴィットは、最初はかなり大変だったみたいだけれど。」


「そうでしょうねー、おじい様が元国王だなんて。

でも、考えてみたら、私も王家の血が流れているのよね。」


「そうよー、おまけにグレゴリー帝国の、

伯爵でもあるおじい様の血も流れている。

つまり生粋の、高貴な貴族の令嬢って訳。

たった一つの汚点は、平民の私の血が流れているって事ね。」


「おばあ様、私がどれほどその血が羨ましと思った事か…。」


あははは、と陽気に笑うおばあ様。


「でも、ジュリエッタはスティール様の事をどう思っているの?」


え、スティール様の事?

ん~~と暫く考えてみる。


「あ~、だって彼は私より年下なのよ。

そりゃあ今までずっと一緒にいた近い存在では有るけれど、

それは婚約者の弟と思って来たし、つまりは私の弟ポジションなの。

なぜ今更、スティール様が婚約者になるのよ。

勘弁してほしいわ。

なぜ伯爵令嬢の私が、やたらと王家の婚約者に指名されるってのかは

ようやく理解したけど、

だからって、アンドレア様がだめなら、スティール様にって、

私は物じゃ無いのよ!

まったく自分達の都合を押し付けないでほしいわ!」


私は思っている事を一気にまくしたてた。


「いえ、だからね。

あなたの気持ちは分かるけど、

実際あなたがスティール様を好きか嫌いかを聞きたいの。」


「だーかーらー、スティール様の事は好きだけど、

年下だし、恋愛対象にならないの。

実際に結婚するなら、例えばおじい様のような年上のロマンスグレーの人で~、

お父様みたいに優しい人がいいな~。」


私の結婚相手は小さい頃から決まっていた。

つまり、物心ついてから認識している、その対象が幼過ぎたんだ。

我儘で、考えや言う事が拙くて、自分本位の奴。

そうこの際、自分の結婚相手に夢を持ったっていいじゃないか。


「あらやだ、年下って言うけれど、年を重ねればそんな事全然気にならないものよ。

私とおじい様は20歳ほど離れていたけど。

それでも、おじい様は時々子供っぽい所が有ったりしたわ~。

あなたはお子ちゃまですか、なんて思う時も有ったりして……。

んー、懐かしい。

年なんてなーんにも気にならなかったわよ。」


「はいはい、おじい様とおばあ様は大恋愛だったわね。」


とんだのろけ話だわ。

それにしても、20歳の年の差が気にならないなんて……。

おばあさまに比べたら、私とスティール様の年の差なんて、

大した事じゃ無いのよね。

何かスティール様って、小さい頃から私の事が好きだーって

やたらアピールしてた気がするし、そう悪い子じゃないし……。

って、危ない危ない。

ただでさえ、今の自分だってあまり自由にふるまえないのに、

スティール様の婚約者になってしまったら、いずれ…………。


冗談じゃ無いわ。早い所何とかしなくちゃ。


「でもまあ、話を聞く限り、スティール様は出来がいいみたいだけれど、

やっている事がまだまだ子供よね。

このまま結婚したら、ジュリエッタが苦労しそう。」


「そう、そうなのよ。」


「だったら今のうちに教え込まないといけないわね。」


「教え込む?」


「そう、今のままではアンドレア様と一緒。

子供のまま体が大きくなるだけ。

ちゃんとしつけないと、国の為にはならないわ。」


「お、おばあ様……?」


「あの人が守ってきたこの国を、子供の我儘で政をされては困ります。

いいわジュリエッタ、今回の件、このマリーベルが協力します。」




…………そう言えばおばあ様って、下手すりゃ王妃様になっていた存在だったわ。

このパン屋の隣には、結構大きな衛兵の詰め所も有るし、

これって実際は、おばあ様の警護をしているんじゃないの?

もしかして、おばあ様は影の大人物……。

かなり尊い人なんだろうか。


「おばあ様…、気持ちは嬉しいけど、そんなに気負わなくても大丈夫よ。

相手は王室だし、そんな人を相手に、表立って文句を言える立場じゃないし。」


「文句は言わないけど、口ぐらい挟めますよ。

まあ、今回はこちらの国の世話になるつもりは有りませんから。」


おばあ様ー、なぜか私とんでもない事になりそうで怖いです。

もうちょっと落ち着いて、話し合いましょう?



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