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幸せになりたい 3

デーヴィットはお腹が空いたのか、たどたどしくも可愛い声で私に訴える。


「かーちゃ、ごはん。」


「まあ、お腹が空いたの?ちょっと待ってね。」


そう言って私は、デーヴィットの為に焼いたパンをカバンから取り出した。

デーヴィットは嬉しそうに、そのパンを受け取り頬張っている。


「マリーベルのパンか、懐かしいね。」


「デーヴィット用のパンですから、お口に合わないかもしれませんが、

よろしかったらどうぞ。」


そう言って一つ差し出した。

するとデーヴィットはおじさまに興味を持ったのか、盛んにおじさまを気にしているようだ。


「だーれ、だーれ?」


「あぁ、デーヴィット。

この方はあなたのお父様よ。

そう教えても…いいでしょうか…おじさま。」


「当たり前だ。デーヴィッドは紛れも無い私の息子だ。

あの…、

もしよければ、私にもデーヴィットを抱かせてもらえないだろうか。」


私はその言葉が嬉しく、笑いながら息子をそっと抱き上げ、おじさまに渡した。

デーヴィットは最初は驚いていたけれど、

持ち前の人懐っこさで、すぐにおじさまに好意を持ったようだ。


「だーれ、だーれ?」


盛んにおじさまに尋ねる。


「私は君の父だよ。」


「だーれ、ちー?」


「そうだよ、父さんだよ。」


「とーちゃ?とーちゃ。」


デーヴィットは盛んにそう口にしながら、おじさまの顔を悪戯している。


「久しぶりの再会だろうから仕方ないか。

この部屋は暫く明け渡すから、用事が有ったら呼んでくれ。」


そう言いながら、陛下は部屋を後にした。


「可愛い…、本当に可愛いな。

だが、私はこの子のもっと小さい時も、

君のおなかの中にいる時もこの子を知る事が出来なかった…。

自分のせいだと分かっているが、なんて馬鹿な事をしてしまったんだろう。」


「いいえ、悪いのは私です。

ちゃんとおじさまに話し相談すれば、何かしらの方法が有ったかもしれません。

ごめんなさい、おじさま。」


「私の方こそ………。

いや、こんな話を繰り返しても、過去は取り戻せないか。

マリーベル、これからの事を話そうか。」


「はい。」


私達は、お互いの手を握りあい、見つめ合った。


「私は陛下の提案に甘えてみようかと思う。

本当は自分の力で何とかしなくてはいけないと思うが、

君やデーヴィットの事を考えると、

今はそれしか方法が無いような気がするのだ。」


「でも、おじさまには、ご家族やおじさまを頼りにしている人達が沢山います。

私にはあちらの国に肉親と呼べる人はおりませんが、

やはり私達二人の為に、おじ様がその方たちを置き去りにして、

この国に移り住むのは間違っているような気がします。」


「マリーベル。

私は、もう後悔はしたくはない。

だから君の本当の気持ちを聞かせてくれないか?

人に遠慮もせず、自分に正直な気持ちを聞かせてほしい。

そうで無ければ、私はまた

取り返しのつかない間違いをしてしまいそうで怖いんだ。」


「おじさま……。」


人に遠慮をしている……。

そうなの?

私は、おじさまの立場を理由に、人々の非難から逃げていたのかもしれない。

それならその行いは、自分可愛さからだったのでしょう。

本当はおじ様の気持ちを無視していた、私の我儘。


それでは私の、おじさまに対する本当の気持ちは…。

現実から逃げずに、おじ様の心を受け止めて、

ちゃんとした私の本当の気持ちをおじ様に伝えなくては……。



「おじ様と一緒に居たい。

おじ様と、この子と3人で、

静かに、穏やかに、幸せに暮らしたいです。」


「マリーベル!」


デーヴィットを抱えている反対側の腕で、私をしっかり抱き寄せる。


「かーちゃ、だっこ。みんないっちょねぇ。」


幼い我が子と一緒に、暖かいおじ様の胸の中。


「そうよデーヴィット、これからはいつも一緒よ。

お父様と、母様と一緒。」


「いっちょ、とーちゃ、かーちゃ。

いっちょ、いっちょ。」


やっと自分の気持ちに正直になれた。

その解放感と幸せを胸に、私はおじ様の暖かさに包まれていた。


それから私達は陛下の協力の下、

領地では無く、この町の一角で暮らす事になった。

趣味の良い、こじんまりとした店を開き、

相変わらず私がパンを焼いている。

おじさまは、窓際に並んだ一番端のテーブルを自分の席とし、

いつもそこから私を見つめていた。

勿論、私が忙しい時にはエプロンを着け手伝ってくれた。


「あなたが、元、隣の国の国王陛下だったなんて、誰も信じませんね。」


私の作った夕食を食べながら、3人で大笑いをした。

私は今、とても幸せだ。

この幸せが、永遠に続くよう、神様に祈ろう。





そうして私はページを閉じる。


『お前はおばあさまによく似ているよ。

外見だけでなく、その運命もよく似ている。』


お父様は私を見つめてそうよくそう言った。

私は、今はいないおばあさまの部屋からそっと持ち出した古い日記を読み、深くため息をつく。


「そうでしたか。

おばあさまも大変でしたのね……。

私はどうやら、おばあさまと同じ轍を踏んでいるようです。」


そう呟いた。





おじい様は、私が生まれる前に亡くなってしまったけれど、

おばあ様は相変わらず、とても元気に裏通りでパン屋をしている。


「母様の生き甲斐だからね。」


お父様は笑いながらそう言う。


おじい様の余命を知った時、おばあさまはおじい様を説得し、

この国に戻って来たそうだ。

その時、小さい頃からただのパン屋の息子として育ったお父様は、

今まで冗談だと思っていた王族の事を聞かされ、

いきなり王位継承権だ貴族だ何だと押し付けられ、大そう困惑したらしい。

それから、おじい様やお父様は頑張って、王室近辺から勧められた爵位を、

何とか伯爵止まりにしてもらい、落ち着いたと聞いている。

おじい様はおばあ様の為に、ずっとあの店を大事に管理してもらっていたようで、

おばあ様は暫くして、同じ場所でまたパン屋を始めたと聞いた。

そしておじい様は亡くなる直前まで、

そのパン屋の片隅で、おばあ様と共に過ごしたらしい。


「そうだわ、明日は久しぶりにおばあ様を訪ねてみましょう。」


おばあ様は、きっといつもの様に、お手製のパンで歓迎をしてくれる筈。

そう思い、私ジュリエッタはおばあさまの日記を部屋に返すべく、

自室を後にした。

マリーベル編 完結です。

ありがとうございました。

次話からまたジュリエッタ編に戻ります。

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[気になる点] 誤字報告 あとがき 次話からまたジュリエッタ辺に戻ります 辺=編ではないでしょうか?
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