幸せになりたい 2
「あなたに、私達の何が分かる。
何か得策が有るとでも言うのか。」
おじさまは、苦悩に顔をゆがめ、その言葉を国王陛下に投げつけた。
「まあ私は幸いにして、あなた達のような目に遭ったことは無いから、
よく分からないかもしれないが、
あなた達は色々な問題の板挟みになり、さぞや辛いのだろうな。」
「……馬鹿な事をしたと笑うなら笑え。
しかし、マリーベルとようやく会えたのだ。
もう二度と彼女を失いたくない。」
そう言って、私をデーヴィットごと抱きしめる。
「だが、そのマリーベルは、国王であるあなたの妻になる気は無いのだろう?
彼女の立場や悩みは察しが付く。
難しい問題だよな。」
そう、難しすぎて、どうすればいいのか分からないのです。
「何が1番の問題だと思う?」
問題なんて有り過ぎる。
何を指して、問題と言えばいいのだろう。
「私が思うに、あなたの国王という立場が一番の問題と思うよ。」
「しかし、私がその立場を下りたとしても、
私のこの血が私達の幸せを阻止するのだ。」
「まあ、あなたがその位を下りても、その血統は付いて回るだろうね。」
「私の血を全てこの体から絞り出せば、この問題が片付くならやってしまいたい。
だがそれは、私の子にも受け継がれているのだ。
デーヴィットの存在を後悔している訳では無い。
この子の事を知り、
もっと早く動き何らかの決断をしなかった、
私のふがいなさを後悔しているんだ。」
「そうだね、あなたのお国では、その子は問題の種となるだろう。」
「そんな!
この子をそんな疫病神みたいな言い方をしないで下さい!」
余りのいい方に、私は彼の地位も考えずに叫んだ。
「これは失礼した。
そうだな、その言い方はあんまりだ。
私にも子供がいるからね。
自分の子供の事を、そんなふうに言われたら私だって腹を立てる。
本当にすまない。
で、お詫びと言っては何だが、私の領地の一つをあなたに差し上げよう。」
国王陛下は、一体何を言っているのだろう?
「なに、大した大きさでは無いよ。
領地と言っても、屋敷と、領民が3百人ほどしかいない、田舎の領地だ。」
「一体何を考えている。
私はマリーベルを、ここに残していく気はない。」
「まあそうだろうね。」
すると国王陛下は一息ついてから、再びおじさまを見て笑う。
「確か、あなたは以前、自分の息子王位を譲ったと言っていたね。」
「そのつもりだった。
しかし、周りがそれを許してくれなかった。
だから私は彼女との結婚を認めるという条件で、継続することを了承したんだ。」
「だが、それは期限付きと聞いたぞ。」
「ああ、しかし、彼女がいなくなって、それもなし崩しになった。」
「彼女ならいるだろう。
今、此処に。」
「そう、彼女は此処に居る。
だが、それが何の問題の解決になるんだ。
国では、彼女と息子の幸せな生活が保障できないんだ。」
「多分そうだろうね……。
だったらあなたが国を出ればいい。」
「何を言っている。
今更そんな無責任な事は出来ない。」
「無責任?
あなたの子供は、あなたの後を継げないほどの無能か?」
「そんなことは無い!
一度は私が退き、コンラッドに任せた方が
国の為になるだろうと思ったほどの男だ。」
「ならば何を悩む事がある。」
それを聞いたおじさまの目が輝きだした。
そうか、私達が国に居る事で、沢山の問題があったのだ。
「私達を助けてくれるというのか。」
「助ける…というのも語弊があるかな。
私としても、君達がこの国にいる事によって、
この先いらぬ争いが起こらないだろうという利点がある。
まあその代り、君達の安全や幸せは保証できると思うよ。」
「でも、私達の為に、おじ様に国を捨てさせる訳にはいきません。」
「マリーベル、君の気持ちは嬉しい、
だが君は私の為に国を捨てた。
だったら今度は、私が君の為に何かをする番だ。」
「そんな!
おじさまは国王様です。
国王が只の女の為に、国を捨てるなど許されません。」
「捨てるのではないよ、隠居をするのだ。
コンラッドも、もう一人前の男だ。
私がいきなり引退すると騒いだ事が堪えたのだろう。
あいつもこの数年で、国王としての心構えや仕事を十分に学んだ。
私ももうそろそろ引退してもいい頃だ。
マリーベル、こんな爺で申し訳ないが、
私と一緒になって此処で暮らしてくれないか?」
おじ様……。
「しかし、隣の国の元国王に300人の領民では、規模が小さすぎるか。
もっと大きな……。」
「いや、隠居した身に領地などいらない。
私はマリーベルと、平穏に暮らしたいだけだ。
また揉め事の種になる物はいらないよ。」
「おじさま、私はまたパンを焼きます!
おじさまの一人ぐらい養えるように頑張ります。」
「それは心強いね。では私は一緒に店の店員になろうか。」
「前のように、ゆっくり店の中にいて、
私やデーヴィットを見ていて下さるだけでいいです。」
「それだけでは心苦しいよ。
そうだ、店を少し大きくして、店内にテーブルを置いて、
私がお茶を出したらどうだろう。」
「素敵!そこで私の焼いたパンを、お客様に召し上がっていただくの。」
すると、耐えかねたように、陛下が口をはさむ。
「盛り上がっているところをすまないけど、
いつまでも二人の世界に浸っている訳にはいかないだろう。
相談には乗るが、この後の問題を考えたらどうだい?
差し当っては、譲位問題…かな?」
「あ、ああ、そうだな。
早速国へ連絡を取らなければ。」
そう言いながらも、おじさまはまた私を抱きしめようとした。




