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約束

私の気持ちは焦る一方だけど、おじ様は外での様子には無関心で、

私を口説く事ばかりに一生懸命のようです。

おじ様、外がひどく慌しいのですよ。

こんな事をしていないで、早く帰りましょう。


「分りました。その指輪は有難くいただきます。

でもそれだけですよ。私はそれを付けるつもりは有りません。」


あなたが国王陛下である以上、それを私が左手の薬指に付けると言う事は、

私は陛下の婚約者になってしまう。

それでは私は、ゆくゆくは王妃………。

絶対に有り得ない話です。

でも私がそれを告げると、おじ様は酷くがっかりしていました。


「ダメなのかい……?」


その顔があまりにも哀れで、私の心にチクチクと刺さってくる。

だけどあなたと私では、身分違いも甚だしいのです。

一介のパン屋の娘が王妃などには成れる立場では有りません。

そう思うのだけど、とにかくおじさまの悲しそうな顔が、

私の罪悪感を痛めつけ、ついつい情け心が出てしまう。


「わ、分かりました。

では右手、右手に付けさせていただきますから。

そんな顔をなさらないで?」


「付けるだけ…なのかい?

それでは、私の君を愛する気持ちが…、指輪を贈る意味がないのか。

やはり私のエゴだよね。

ごめんね、私の気持ちばかり押し付けてしまって………。」


「そんな、おじ様の気持ちは十分わかりました。

でも、お互いの気持ちが通じていても、

おじ様と私では身分が違いすぎるのです。

私達だけで決めても、絶対に皆さんに反対される筈です。

どうか分かって下さい。」


「………えっ?

お互いに気持ちが通じているって、

その…、もしかして君も私の事を好いてくれている……?

そう思ってもいいのかい?」


しまった…、

つい言ってしまった。

でも、私の気持ちはおじ様に傾いていることは確かなんだ。

仕方がない。


「…ええ、確かに私はおじ様の事が好きです。

でも、それとこの話は別物です。

何と言ってもおじ様は身分の有る方。

それを考えれば私達は絶対に結ばれません。

回りの方が、賛成するとは思えません。」


おじ様のご家族の方が、周りの貴族や側近の方。

全ての方が絶対に反対なさる筈です。


「で、では、皆を説得出来たら、

周りの人から祝福される状況になったら、私と結婚してもらえないか?」


「そんな、そんな事になる筈は有りません。」


「だけど、もし説得できたなら、この指輪を左手にしてもらえるだろうか。」


そんな事になる筈は有りません。

でも私は、おじさまの、その必死な気持ちに負けてしまいました。


「分りました。

もし周りの方々に私達の結婚を認めていただけて、祝福されるのでしたら、

この指輪を喜んで左の薬指にさせていただきます。」


「本当だね。

その気持ちに偽りはないね。

嬉しい!

愛している、マリー。」


そう言っておじ様は私を抱きしめた。

少し苦しいけど、私も幸せだと思ってしまう。

私は今、絶対に有り得ない夢を見ている。

でも今ぐらい、そんな夢を見てもいいでしょ?

愛する人の胸の中にいる時ぐらいは…。


「私は絶対に皆を説得してみせる。

だからそれまで待っていてくれ。

もしかしたら時間が掛かるかも知れない。

でも必ず説得するから。」


「嬉しいです。

あなたが私を愛してくれたことが。

そして私があなたを愛しているこの事が

とても素敵で幸せです。」


「マリー、マリー。」


私たちは今、誰にも邪魔されず、

幸せな夢の中にいた。




「あの~~、この度はおめでとうございます。

で、指輪へのメッセージはいかがされますか?」


何ですかこのお邪魔虫は。

おじ様、この空気を読めない人を蹴り倒してもいいですか?


「そうだな、それには時間が掛かるのかい?」


おじ様はいかにも当然と言うような顔で私を抱きしめたまま、

その問いに答えていた。


「そうですね、5日ほど預けていただくことになります。」


「そうか、それならそれは今回は遠慮しておこう。

この指輪はたった今から片時も離さずマリーに付けていてほしいから。

ね、お願いできるかい?」


もう!仕方ありません。

私は既に、おじ様に完敗なのですから。

私はそっとおじ様に右手を差し出しました。

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