side.シシィ・フォン・サルグリッド
本日はとても晴れて、お茶会に相応しい爽やかな気候となりました。
私はシシィ・フォン・サルグリッド。
サルグリッド公爵の娘にございます。
「シシィ様、やっぱり私……」
「リリーナ様、きちんと背筋を伸ばして、前をおむきなさいな。私が見立てたのですもの、とても可愛らしいわ」
学園長様のお言葉で始まったお茶会は、しかし軽めのガーデンパーティーと言ったところでしょうか。
庭園の見事な花と樹木にうっとりしていましたら、屋内から連れ出したリリーナ様が俯いています。
あちらこちらでクスクスと、小さな声で囁かれる嘲りなど、耳に留めなくても良いものですのに。リリーナ様は繊細ですわ。
リリーナ様のドレスは、言い方が悪いですが、私のお古を仕立て直した物になります。
お古と言っても、一度、それも二時間に満たない間袖を通しただけのドレスですし、着たのは家で開いた身内だけの晩餐だったので、学園の生徒の皆様には見られていないものです。
リリーナ様の桃色の御髪に合う、オフホワイトのドレスは、ぼやけた印象にならないように濃いめの緑色や青色で刺繍が施されていて、とても素敵に仕上がりましたわ。
私のドレスは逆に、群青の生地にオフホワイトと緑、桃色の刺繍を施してあって、まるでリリーナ様と対になったよう。
「うふふ。私、リリーナ様と御一緒出来て、とても嬉しいわ」
「シシィ様。私も、シシィ様と御一緒出来て、すごく嬉しいし、楽しいです」
笑顔になったリリーナ様と、どこかに落ち着いてお話をしましょう、と庭園を見回そうとしましたら、ジルベルト王子殿下と目があってしまいました。
にこりと笑顔を向けられ、此方に歩いてこられましたわ。
「やぁ、サルグリッド公爵令嬢と、リリーナ嬢」
「ごきげんよう、ジルベルト王子殿下」
「ご、ごきげんよう」
「ああ、楽にしてくれ。今日は僕も一生徒として参加しているからね」
礼を取った私達に、王子殿下は直ぐに許可を出されました。
ゆっくりと姿勢を戻せば、リリーナ様も頭を上げているのがわかりました。
リリーナ様には、休暇中に貴族に対する簡単な礼儀作法をお教えしたのですが、きちんとできているようです。
良かったわ。
内心でほっとしていると、王子殿下の後ろに居た方が少しずれて、私達に挨拶を述べました。
「失礼。シシィ・フォン・サルグリッド公爵令嬢、リリーナ・ア嬢、こうして改めてご挨拶するのは初めてですね。サイナス・カンツァーと申します」
ハキハキとした口調で名乗られたのは、カンツァー伯爵様の嫡子であるサイナス様。
キリッとした目元が力強くて、真っ直ぐ見詰められると、少しドキリとしてしまいますわ。
「ごきげんよう、カンツァー様」
「ごきげんよう」
「サイナスと。御無礼を承知で御聞きしたいのですが、リリーナ嬢が魔力制御を成功させた、と言うのは本当ですか? 」
「サイナス、それは今この場で聞くことではあるまい」
挨拶を返すと、カンツァー様から不躾な質問が飛んできました。
酷いからかいだと思いましたが、王子殿下がすぐに窘められ、カンツァー様の肩を引いて後ろに下がらせました。
「カンツァー様。それを御聞きになって、どうなさるおつもりですの? 」
カンツァー様の御父上である宰相様は思慮深く何方にも分け隔て無く接する方だと言われていますのに、その御子息であるこの方は、周囲の方々の様にリリーナ様を侮辱されたいのかしら。
つい、言葉や声音が刺々しくなってしまいます。
王子殿下の御前でこのような態度は淑女としては駄目ですわね。
ですけれど、私、友人を侮辱されて何も感じないほど御馬鹿ではございませんの。
「あ、いや、すまない。彼女を貶めたいのではなく、その……」
「……彼方で話そうか」
私の苛立ちに気付かれたのか、カンツァー様が視線を泳がせ言い淀まれました。
その態度に何か感じられたのか、王子殿下が場所を変えようと提案され、私とリリーナ様はお二人の後に着いていく事になりました。
誰に邪魔されることの無いように。しかし疚しい事はありません。と他の方々に見せるため、庭園の一番端にあるテーブルへまいりました。
他のテーブルやベンチ等とは距離があり会話は聞き取れない、ですが私達の姿は庭園から見ることが出来る場所です。
着席をエスコートされて私とリリーナ様が座ると、王子殿下付きの侍従や侍女がテキパキとテーブルセッティングしていかれました。
「さ、シシィ嬢、リリーナ嬢。先ずは学園が用意してくれた美味を味わおう」
王子殿下が率先して御茶に口を付け、カナッペに手を伸ばされました。
私とリリーナ様も、一度目を合わせてから、仕方なく御茶に口を付けます。
カンツァー様も軽食に手を伸ばし、僅かな食器の音と、葉擦れや遠くの生徒達の話し声だけが聴こえます。
暫くその様に会話もなく過ごしていたのですが、カンツァー様がふと、息を大きく吐かれました。
「本当に、すまない。リリーナ嬢を侮辱するつもりも、庶民だなんだと蔑む気もないのだ。ただ、父上に聞いたのだが………」
カンツァー様は、リリーナ様に頭を下げました。
そして、宰相様に聞いた話だが。と口を開かれました。
父上が、ある日王宮図書室に行った時だ。
滅多に図書室等には足を運ばない御仁が、真剣な表情で何冊もの本を読んでいたらしい。
ちらりと本を見れば、国の歴史の本や、病気の本、魔術書もあれば、物語や誰かの手記といった、纏まりのないラインナップで、顔見知りだったのもあり、思わず声を掛けたのだそうだ。
『どうかしたのか? 随分なとっちらかりようだ』
『あぁ、君か。いやなに、少し気になることがあってね』
その御仁が言うには、後天的な魔力の増加について調べたいと言う。
己の今までの人生ではその様な話は夢物語でさえなかった。だが本当に無いものなのか?
今、己の息子の同輩に後天的な魔力の増加によって悩み、苦しんでいる子がいる。
その子のために、息子も、義姉の娘も心を砕いている。
『家に、増加とは逆に、魔力が無くなってしまったという女性の手記が、多分祖父の代に誰かから託されたのだろう物が見つかってね』
『……なるほど。だから何彼構わず読んでいるのだな』
父上も、魔力が増加した子の事は知っていたから、すぐに納得したのだそうだ。
そして、ならばとその御仁が立ち入れぬ禁書保管庫を探す事にしたらしい。
そして、つい先日見付けたのだ。
大分古い、書物とも言えない様な、紐でぐるぐると縛ってあるだけの紙片の束を。
「……そこには、突然の魔力増加に体が着いて行かずに、魔力爆発を起こした者がいた。と書かれていたらしい」
「「「…………」」」
カンツァー様の話に、私達も、王子殿下も言葉を失いました。
「…だから、魔力を制御するための腕輪が、すぐに付けられたのですね」
「…魔力爆発を、…防ぐため……」
「そうだと思います。だから、リリーナ嬢が魔力制御を成功させたのならば、その手記に記された最悪が回避できたのかと」
あまりに不躾なもの言いだった。と再び頭を下げられたカンツァー様に、ですが何も言葉を返せませんでした。
きっと、宰相様が合われた『御仁』は、トルク伯父様ですわ。
カインに相談されたのでしょう。
近日中に、伯父様に会えるか聞いてみましょう。何か、もう少し詳しい話を聞けるかしら?
暫く四人で取り留めのないお話をして、王子殿下達とはお別れいたしました。




