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日常の一コマ、です

入学して、二ヶ月が経ちました。

授業にも慣れ、クラスメイトさん達とも軽い雑談くらいは出来るほどになりました。

Cクラスにはあまり貴族だ平民だと選民意識のある方がいないので、皆さん平和です。

というか、貴族の三男四男辺りは卒業後に市井に下る方も普通にいるので、皆さんわちゃわちゃと仲良く遊んでいます。


「クリスー! カイーン! 次の薬草学、教室変更だってさ~」

「ありがとうございます、プリシラさん。一緒に行きましょう」

「調薬室から変更ですか? どこになるんです?」

「おうっ。何か、珍しい薬草が芽を出したとかで、第二温室っつってたぜ」

「第二ですか、少し遠いですね」


教科書とノート (三年ほど前から、紙の量産が可能になったとかで、わら半紙のような紙が使われています)を持って教室を出た僕達に声が掛けられました。

明るい髪色の、元気な彼女は同じCクラスのプリシラさんです。

彼女は兄弟が全員男の子だったせいか、幼馴染みが男の子ばかりだったせいか、口調が男らしく、性格も男前です。

可愛い顔をしているのですが…、あまりのギャップに、まだ少し慣れません。


教室にいた方達も今きいたばかりらしく、少し遠い温室まで早めに移動しようと、動き出しました。

結果、クラスの皆さんと一緒に温室まで向かう形になりました。


「そういやぁカインは、卒業したらどうすんだ? 確か子爵家の次男だったよなぁ?」

「そうですね。まだ明確には決まっていませんが、薬学と聖魔法を学んでいきたいので、そちらの方面へ」


人の役にたてるお仕事をしたいです。

と言えば、プリシラさんは、はぁ~。と大きなため息を吐きました。


「カインと接してると、貴族ってのがよく解らなくなるぜ」


ボソリと呟かれました。何かあったのでしょうか?

訊ねようとしましたが、温室に着いてしまいましたので、タイミングを逃してしまいました。


温室には様々な薬草や、薬効のある花、樹木が植えられています。

温室なんです。温室なんです、が……


「…ここ、何時来ても…」

「果ての森みたいだよね…」

「鬱蒼ってコレのこと言うんだよな…」


高さ二十メートル強の木が普通に聳え立ってても天井まで余裕があるって、どういうことでしょうね?

温室なのに、陽当たりの悪い場所も多々あります。

まぁ、日陰や湿気のある場所にしか生えないような植物もあるんですけどね。


ちなみにクリス君の言う「果ての森」というのは、この大陸の北に広がる広大な森林地帯のことです。

この国を含め、三国に跨がり広がっています。

いままで沢山の冒険者達や優秀な魔術師、騎士団達が調査をしてきていますが、未だに森の向こう側‐端が見えないそうです。


「お、揃ったかな~? ささっ! 皆さんこっちですよ~! 早く早くっ早速見てみてくださいなっ!」


温室には僕達一年Cクラスの他にも、二・三年生の薬学を学んでいる方達も集まっていました。

そして、温室の奥から現れた薬学専攻のショーン先生が待ちきれない、といった感じでテンション高く僕達を促します。

よほど嬉しいのでしょう。普段はほとんど笑わない先生がニコニコしています。


ショーン先生に付いていくと、樹木が立ち並ぶ、あまり陽の当たらない一画に出ました。

鬱蒼とまではいかないですが、木漏れ日も殆んど無く、ジメジメとしていて、ひんやりした感じがあります。

ショーン先生がサッと掌で指し示した場所は、木の根元です。


「ほら、見てごらん。この木の根元、少しだけ泥濘のようになっているのだが、これ、この赤みがかった双葉が判るかい?」


先生の言う場所には、小さな小さな赤緑…茎の部分が赤く、葉が濃い緑の小さな草がありました。

これは気を付けなければ雑草…いえ、気付かずに踏んでしまうでしょう。


ザギリセキ草。

赤黒い茎に、濃い緑のギザギザな葉、確か背丈が十センチほどになると花をつける薬草です。

生育条件は未だに謎な部分もあり、判っているのは、魔素の濃い樹木、湿地、日が一日に五分ほどしか当たらないこと。でしたか?

生育速度も遅く、根を残して置いても、再生には一年から三年程掛かってしまうと薬草図鑑にありました。


「ザギリセキ草。これの発芽は見逃しがちで、種から育てるのは困難なのだが、ついに、ついに! 踏み潰す事無く! うっかり雑草として引っこ抜く事無く! 種が腐る事無く! 芽がでたんだよ~!」

「……こんなショーン先生初めて見ます」

「僕も」

「私もだ」


ショーン先生は嬉しそうに言いながら、クルクル回ったりクネクネしたりしています。

集まった生徒達が一歩引いてしまったのは、仕方ないです。


暫く一人語りしていましたが、それが落ち着くと、先生は僕達に近くできちんと観察するように言いました。

ザギリセキ草の人工栽培の成功例はほぼゼロなので、今日の午後には国の研究機関の方々が見えられて、この温室の状態を事細かく調査するのだそうです。


「……なぁ、ところでさ? ザギリセキ草って、どういう薬草なんだ?」


ザギリセキ草の観察を終えた僕達。

ふと、プリシラさんがスケッチしたザギリセキ草に色をつけながら呟きました。

クリス君も首を傾げています。


「二人は薬学を専攻しませんから知らないですよね」


ザギリセキ草。

薬草とありますが、薬として使用するのは花の部分、詳しく言えば、花弁のみです。

開花したあと、七枚ある花弁の一番濃い色の花弁以外の、六枚だけを摘み取り、蒸留水に三日ほど浸けます。

それから花弁を乾燥させて砕き、魔素が溶け込んだ水に数種類の薬草や果実と一緒に入れて煮込むのです。

煮出したら冷まして、濾したら完成です。


「ザギリセキ草の薬は、魔力傷害と呼ばれる傷に効くのです」

「「へぇ~」」


薬の精製方法を詳しく教えたのですが、プリシラさんもクリス君も、あまり理解されてないようです?

まぁ、魔力傷害の薬は、滅多に作られませんし、魔力傷害自体、あまり患う方もいませんしね。

ぽかんとした二人と、クラスメイトの元に合流して、そのまま教室へ帰ることになりました。

授業は、ショーン先生がテンション高すぎてそれどころではないそうで、自習だと言われてしまいました。

薬草の名前とか薬効とか、考えるのが面倒くさすぎる……

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