孤児院
学園での授業、寮生活にも、慣れてきました。
授業は基礎をほぼ終えたので、これからは少しずつ、個人個人で選択して必要だと思われる授業を受ける事となります。
まぁそれはとりあえず置いておきましょう。
「お待たせしました、カイン」
「シシィ。いえ僕も来たところです。さぁ、早速参りましょう」
今日は休日です。課題も特には無く、都合が合ったので、シシィと一緒に教会へ向かいます。
勿論、シシィの護衛としてカルロさんも一緒です。サブリナさんはお留守番なのだそうです。
王都には三ヶ所に教会があります。
一つは、王城のすぐ近くにある、中央教会です。
ここはこの国の教会の本部としての役割を担っているそうです。
二つ目は、王都東にあり、ここは研究所のような役割を担っているそうです。
聖魔法や調薬の研究施設があるそうです。
三つ目は、王都南西にあります。
ここは孤児院が併設されている、一般的な教会です。
それぞれに分りやすいように呼び名 ‐ 俗称が付けられており、中央教会はセントール教会、東側はツヴァン教会、南西側はサンネール教会です。
僕達が訪ねるのは、南西側のサンネール教会です。
学園があるのは王都の中心部なので、教会までは馬車を使おうと思います。
あ、貴族が使うような、個人所有の馬車ではありませんよ? そんなので行ったら教会にも孤児院にも迷惑ですので。
「シシィ様、カイン様、乗り合い馬車の停留所はあちらになります」
「あら、門から近いのですね」
「学園には平民の方々も在籍しておりますので、休日は割合と使用されるようですね」
「カルロさん、詳しいのですね」
カルロさんに促されて停留所へ行くと、確かに生徒と思われる同年代の方達が馬車を待っていました。
朝食を終えた頃なので、結構な人数が並んでいます。一回では乗れそうにはありません。
「……あら?」
「どうかしましたか、シシィ?」
「いえ、クラスの方が並んでいますわ。……お話ししたことは、ない方なのですが……」
シシィのクラスメイトさんが居たようですね。
ですが、タイミングが良いのか悪いのか、僕達が停留所へ着く前に馬車が着き、先頭の方に並んでいたその方は乗っていってしまったようです。
僕達は、乗れなかった数人の後ろに並び次の馬車を待ちます。
約十分ほど待てば次の馬車が来て、僕達も乗ることが出来ました。
この馬車は王都の南正門 ‐ 南に町と王都を繋ぐ大きな街道があるのです ‐ から中心部を通り、学園前で折り返して再び中心部、南正門までのルートを通っているそうです。
馬車の中で、シシィに見かけた方のことを聞いてみました。
どうやら、その方は『ゲーム』のヒロインさんのような気がします。
「お名前は、リリーナ・アドリアーノ様。庶民の方なのだけれど、アドリアーノ男爵家が後見人として、リリーナ様を養女にされたと伺っていますわ。今までは一般市民の方達と同等の魔力量だったのですけれど、ある日突然膨大な魔力が噴き出してしまわれたとか……」
リリーナ様はそれまで、生活魔法くらいしか使用出来ない、所謂『一般人』だったようです。
魔力が突然膨大な量になるなんて……確か、数十年前にも同じ様な症例 ‐ 病気ではありませんが ‐ の方が見えられたのです。
なので、男爵様がすぐに動かれたのでしょうか?
なぜアドリアーノ男爵様が後見人かと言えば、リリーナ様の住まわれていたのが、アドリアーノ男爵領なのだそうです。
確か、アドリアーノ男爵様は壮年の美丈夫? と噂の優しい紳士だそうです。
マーラ姉様がパーティーでお会いして、うっとりしていたとルーベンス兄様が呆れていましたね。
「リリーナ様、ずっと両腕に坑魔の腕輪を付けられておいでなの……早く制御を覚えられると良いのですけれど……」
「坑魔の……それは、心配ですね」
『坑魔の腕輪』とは、その名の示す通り、魔力に抗う ‐ 強制的に魔力を抑える魔具のことです。
動力は使用している者の魔力。
魔力を吸い上げ、それを基に使用者の体を覆うように魔術を練り上げ流れ出る魔力に蓋をするのです。
この腕輪は一日中発動します。
使用者の魔力の五分の二ほどを常時使用して発動しますので、使用者は常に軽い倦怠感や頭痛などの症状が出ているのだそうです。
他にも、筋肉痛になってしまうだとか、貧血、悪酔いのような症状もあるのだそうです。
僕達貴族が七歳の時に行った魔力検査には、魔力制御の基本を本能に刻む儀式でもあったのだそうです。魔力制御のことをお勉強した時に、初めて家庭教師の先生に教えていただきました。
なので、僕達は魔力制御を自然にできていますが、リリーナ様は儀式を受けていなかったので制御が出来ないのだとか。
魔力検査は十歳未満ならば受けることが出来ますし、その際に制御の仕方を刻む儀式も行えるようですが、十歳を越えてしまうと精神が完全に出来上がってしまうため、本能に刻むような儀式は本能に拒絶されてしまうようです。
「私のクラスでは、魔力制御については座学のほんの一ページで終えてしまったので、リリーナ様は放課後に訓練をなさっていると、クラスの方にお聞きしましたわ」
「魔力制御の訓練ですか…確か、魔道具作製の二年生が詳しかった筈です。今度一度お訊きしておきます」
リリーナ様のことを詳しく聞いていたら、あっという間に馬車は王都中心部の広場へ着きました。
カルロさんに促されるまで、馬車が止まったことに気付いていませんでした。
「いつ見ても、この広場はお祭りのようですわ」
「色々な屋台がありますもんね」
「御二人とも、屋台で召し上がられるのを止めは致しませんが、教会へ赴いた後に致しましょう」
シシィと二人で屋台に視線を向けていたら、カルロさんに注意されてしまいました。
そうです、孤児院へ向かうのに、僕達だけ食べたらいけません。お土産には向きませんしね。
「そうですわね。ごめんなさいカルロ、行きましょう」
「はい。それに…私達三人だけで食べたら、サブリナに怒られてしまいます」
「……帰りに、サブリナさんの分も買って帰りましょう!」
「そうね、それがいいですわね!」
ボソリと呟かれたカルロさんに、僕とシシィはブンブン首を振って話し合いました。
サブリナさんは、怒らせたらいけません。特に食べ物に関してはとても勘が鋭いのです。
教会の名前とか、めちゃくちゃテキトーです。




