表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/101

紅い髪の女の子サシャの秘密とか、マジ?

奉仕活動の3日目。


本日の私は、元気100倍だ!


頭をあたらしく焼いたものに取っ換えたからじゃない。

何故なーら!

昨日はお風呂に入ったから。お湯につかることの偉大さよ!


ルンルン気分でみなさんに挨拶しつつ、例によってケンプさんの鍛冶処へ。


掃除はあらかた終わったことだし、今日はケンプさんや職人さんたちの為に、ちょっとした物を用意しよう。


ということでケンプさんにおねだりして買い物用に3000円をもらった。

ゲーム世界なのに『 円 』である。そのくせお札じゃなくて銀貨なのが、ゲーム世界の建前を守っているというべきか。


それにしても3000円である。大金である。前世では3時間分の時給である。

戸惑いながら「額が多いんですけど」そう言ったら、憐憫の表情で「お駄賃だ」だってさ。


いやいや私は奉仕活動ボランティアをしているのだ。


貰えません、受け取れ。そんな押し問答を繰り返したあげく、私の分を含めたオヤツを職人さんたちに買ってくることで落ち着いた。


下手に横道にそれると確実に迷う自信があるので、忠実に来た道をたどって店舗地区へ戻る。


そこで、私はケンプさんの言っていた通りの光景を目にした。

見たことのある見習いのたちが和気藹々とテラスでお茶をしているのだ。


マジかぁ…。あんなに堂々と。


これはシスターも見て見ぬ振りをしていると考えるべきだろう。

それとなくシスター・ライザに聞いたところでは、見習いで勘当されているのは私ぐらいらしい。普通は、噂が下火になるまで待ってから、お家の人が迎えに来るんだって。


それはそうだよね。良家の若い女子なんて、使い道に困らないもん。落ち目の貴族なら、新興の成り金に娘を嫁がせて結婚支度金の名目で大金をせしめるもよし、成り金の娘なら娘で、同じ商人に嫁がせて横の連帯を深めるための道具になる。


うーん。そう考えると私って…。

よっぽどだな。


実家から不自由がないようにお金が送られてくるんだろう、お茶をするたちを遠目に眺めていて『あれ?』と私は首を傾げた。


紅い髪の子がいないのだ。名前はサシャだったかな? 彼女は侯爵の出らしくて、他の元貴族の令嬢たちのリーダー的なポジションにおさまっていた。


だから、あの娘たちがいるなら、サシャもいるはずなんだけど。


ん? なんでそんなことを知ってるのかって?


彼女たちのお喋りを聞いていて、それとなく…ね。決して、仲間に入れてもらうチャンスを狙って聞き耳を立ててたんじゃないからね!


ま、私は私の仕事をしますかね。


お魚をくわえたドラ猫を追いかける主婦の歌を口にしながら、市場へ足を向ける。


買い求めるのは、塩に砂糖だ。それと酸っぱい果物があればいいね。

オヤツは何にしよう?


「おばちゃーん、お塩とお砂糖くださいな」


と比較的大きなテントのおばちゃんに言ったんだけど。


「あんた、もの知らずだね」と笑われてしまった。

「ココは穀物をあつかってる店だよ。塩は塩屋で、砂糖は薬屋に売ってるから、行ってみな」


とのこと。


ありがとうございます。とお礼をして、買い物の続きだ。


塩屋ってのがあるのもカルチャーショックだけど、砂糖が薬屋なのはなんでだろう?


おのぼりさんよろしく、市場を見回しながら歩く。

前世でみたことのある品物もあれば、見たことのない品物もある。特にショックだったのは、お肉屋さんでウサギや豚がそのまま吊るされている光景だった。


いや~グロいわ。

だって、血も売ってるんだよ。


ともあれ。私は塩と砂糖を手に入れることができた。

それぞれ、ビニールに似た袋に入れてもらって500グラムずつ。

しめて700円なり。砂糖のがちょっと高かったけど、700円は安いんじゃない?

前世と違うんだしさ。


「あとは果物かな」


歩き出そうとすると、


「ねーちゃん」


と服を引っ張られた。


幼い男の子だった。6歳ぐらいかな? 頭を五分刈りにしてる。

私はモフモフが好きだけど、同じくらいザリザリも好きだ。いいや、むしろザリザリのが好きかも知れない。


「果物欲しいンなら、ボクんとこで買ってよ」


「いいけど、それならお姉ちゃん、お願いがあるんだ」


「なに?」と、あどけなく尋ねる幼子に、今から私は欲望をぶつけようと思う。


「君の頭を触っていいかな? むしろ触らせてください」


幼子の顔が引きつる。ヤバイ奴に声をかけてしまったと顔に後悔の色がでている。


「だめ?」


笑顔で訊く。懐柔しようなんて思ってない。私の…リリンシャールの笑顔は威圧感があるのだ。これは…ハッキリ言おう、幼児に対する大人げない恫喝である。


「い、いいけど」


「ありがとぉ!」


私は両掌でもって幼子の頭をザリザリした。本当はほっぺたを押し付けたいところだけど、そこは流石に自重する。


「ねーちゃん、何時まで触ってるんだよ?」


「何時までも。せっかくだから、このまま君の店まで案内してよ」


幼子は何か言いたそうにしたけど、諦めて歩き出した。


ザリザリザリザリしながら歩く。身長差があるので、私は屁っぴり腰でついて行く。はたから見たら、さぞかし異様な光景だろう。


でも、私は止めない。

今まで凝っていたストレスがほぐされていくのを感じる。

これはもう、最高の癒しなのだ!


ところで五分刈りといって思い浮かぶキャラクターといえば。

そう! 有名なアイスのキャラクター、ガ〇ガリ君ですよね。


ということで、リリンシャール。歌わせていただきます。ポカスカジャンで『ガ〇ガリ君』。


実は私、このメジャーでありながら、いざ歌うとなるとマイナーになる歌をぜーーーんぶ歌えるんだよね。

それというのも、前世でガ〇ガリ君が大好きだったから。

小学生の頃は夏休みになると毎日のようにガ〇ガリ君を食べて、お腹を壊していたもんですよ。


いきなり小声で歌いだした私に、幼子はギョッとして振り向いたけど、笑顔で不服を黙らせる。


私に声をかけたのが、君の不運なのだ。諦めてくれたまへ。


そうしてザリザリを堪能しながら、五分刈り幼児と一緒にガ〇ガリ君を歌っていると


「ここだよ、ねーちゃん」


幼児が足を止めて、私を振り向き仰ぎ見た。


「もうザリザリするの止めておくれよ、禿げちゃうよ」


「私は、禿げは禿げで好きだよ。ダンディズムがあるじゃない?」


禿げが私は気にならない。むしろベタベタ髪を染めたり形を整えたりする男の人のほうが、ナルシスト気味で好きじゃないぐらいだ。


「ねーちゃんの好みじゃなくて、ボクが嫌なんだよ」


そう言われては、手を離さざるをえない。


ちぇー、と思いながら腰を伸ばした私は、そこで見知った顔を見つけた。


燃えるような紅い髪をした美形の女の子。そんな知っている顔が、顔色を失って私を見ているのだ。


ん~?


私は相手を凝視する。


サシャ…なのだろうか?


でも、修道服を着てないし。質素な服を着てるし。

そもそも、果物を売ってるテントで店番をしてるし。


そっくりさん…なのか?

でも…でも……試しに


「サシャ…さん?」


呼んでみると、相手は目に見えて狼狽した。


ああ、これは見てはならない秘密をしってしまったみたいだ。


「こんなとこで、何してんの?」


「お願い、このことは黙っていて」


パン、と両手を合わせて頼まれる。

この世界でも拝むというジャスチャーがあるのか…。


「それは構わないけど」


「サシャとねーちゃんは知り合いなの?」


幼子が訊いてくるけど、サシャの態度にちょっと不安気だ。


サシャはと見れば、答えるのに窮してる。


そりゃーね。私とは接点ほとんどないしね。


しかたない、助け舟を出してあげるか。


「だよ。サシャと私、リリンていうんだけどね、親友だから」


ちょっと盛っておくのを忘れない。


「へー。ボクの名前はジャックだよ」


「いい名前じゃん。お近づきのしるしに頭を触らせてよ」


「やだよ!」


と逃げるジャックを


「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」


とエロオヤジの如き発言をしながら追いかける。


サシャの周りを2人してキャッキャッと笑いながら駆けていると


「ずいぶんと賑やかだな」


ダンディズム溢れるオジサンが遣って来た。いいや、声と肌から察するに案外と若いのかもしれない。


「父ちゃん!」


ジャックが抱き着く。


チッ! 逃がしたか。


ていうか、父ちゃん? なら、この店の主人か。


それを確認しようとサシャに視線を向ければ…Oh!


サシャってば恋する乙女の表情をしてなさる。


マジか…。

サシャは、オヤジ好きの禿げ専だったか。


でも、禿げという部分では私も共感しますけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ