奉仕活動の2日目で真っ白に燃え尽きたとか、マジ?
ついに…。
ついに100ポイント!
みなさんに感謝しかありません。
修道院に戻ったら、さっそくシスター・ライザに報告だ。
「奉仕活動、行ってきました」
「…どうやら、真面目にやってきたようですね」
言って、シスター・ライザはハンカチを取り出すと、私の髪を払ってくれた。
「埃がついてます」
「ああ、それで帰り道で人の視線を感じたんですね」
てっきり、私が悪辣令嬢だと身バレされたのかと思ったよ。
「でしょうね。それよりも、夕食まで時間がありますから、部屋で体を拭いてきなさい。少し汗臭いですよ」
指摘されて、私は真っ赤になって井戸端に駆けた。
置いてあったタライに水を汲んで、それを部屋に持ち込んでタオルを濡らして体を拭く。
これだけでもスッキリして、生き返った気がする。
さっぱりしたところで夕食だ。
……ぼっち飯の時間だ。
献立はシチューである。
「うえー、またシチューなの…」
なんて声が聞こえるということは、しょっちゅう供されるのだろう。
赤・緑・桃色の、なんかよくわからない具が入っている。赤はニンジンだろうけど、緑はともかく、桃色は…。あと、お肉はない。少なくとも、私のお皿にははいってない。
いただきます。と心のなかで唱えて、口に運ぶ。
う~ん。味に深みがない。
ブイヨンみたいな出汁を取ってないみたいだね。
それでも食べられないことはない。
汗をかいて働いたおかげだろう、塩ッ気もそれほど苦じゃない。
お腹もすいているし、パクパクモグモグと完食してしまう。
ただ、他の見習いの皆さんは例によってお残ししてる。別に残すのは悪くないけど…。あとで、お腹が減らないのかな?
食事を終えて、でもこれで修道院の1日は終わりじゃない。
これから最後のお勤めがあるのだ。
晩の礼拝である。
もっとも晩の礼拝で私たち見習いの出番はないらしい。
というのも、晩の礼拝では男子禁制を解いてお客さん…じゃない、信徒さんを礼拝堂に入れるからだ。
あんな下手ッピな音楽、聴かせられないもんね。
そういうことなので、見習いは入り口近くのベンチに陣取って聴き役に徹するんだけど。
待てども、待てども、信徒さんが遣って来ない。
いやいや、居るには居るんだよ。けど、片手の指で足りるほどの人数しかいないんですけど。
しかも、みーーーーんなお義理で来てる感が満々なんですけれども。
街の鐘が6回鳴る。
演奏が始まった。
さすがはシスター、洗練されている。
音が流れる川みたいにサラサラ耳を通っていく。
でも。でもさ。
な~~んか物足りない。
譜面を丁寧になぞっているだけっていうのかな。義務的っていうのかな。
全体的に平坦だ。
歌っていうのはさ、もっと…こう、ドバー! ときて、 ワーー! と返ってくるもんじゃないの?
だから、お客さ…信徒さんも礼拝に来てくれないんじゃないかな?
なんてことをウジウジ思っているうちに、礼拝は終わってしまった。
それほどまでに耳に残らない演奏だったんだ。
シスターたちも、なんか気の抜けた顔をしてるし。
違うでしょ! って言ってやりたい。
やり遂げた、て顔にならないとダメでしょ!
これは、何とかしないとイケナイわね。
私は1人、フンフンと鼻息を荒くしていたのだった。
修道院に来て2日目です。
まー、基本は1日目と同じ。
シスター・ライザに起こされて、洗顔と歯磨きをして、朝の礼拝。
因みに、夜中に採取したブルーベリーをシスター・ライザに渡すと、こわごわ口に入れて、ニンマリしてた。
おいしいよね。
とはいえ、何もかも1日目と同じじゃない。
初っ端から大恥をかいた。
原因はフルート。私が吹けると言ってしまった、この楽器だった。
実は、ほとんど吹けないんですわ~。
リリンシャールが幼児の頃にちょびっと母様…ミューゼ夫人から手解きを受けただけだったんだよね。
だもんだから、朝の礼拝でめっちゃみんなに失笑された。
失笑されたというか、最終的にはフルートを担当するシスターに「いい加減になさい!」と小声で怒られて礼拝堂を追い出された。
ひどくない?
…ひどくないか。
神聖な礼拝だもんね。
私は仕方なくトイレ掃除をしてたんだけどさ、これがまた…へこまされた。
だってさ~。わざと汚されてるんだもん。
土とかゴミがぶち撒かれてるんだよ。
ありえなくね?
しかも掃除道具が隠されてるしさ…。
おかげで掃除が終わるまで、凄い時間がかかった。
間に合わなくて、お昼が抜きになりそうだったわ。
で。奉仕活動の時間なんですが。
ケンプさんのお店に行くまで、私は「こんにちは!」と通りがかる人に挨拶をした。
挨拶を返してくれる人もいるにはいるけど、ほとんどの人には戸惑った顔で無視された。
でも、こんなことでへこたれたりはしない。
初日なんだもん!
これこそが! 私の考えた『千里の道も挨拶から。そのうち礼拝に来てもらおう!』作戦だ。
地味だって?
ちがいますね、堅実なんです。
前世でも、バンドを始めたころはお客さんがいなくて、駅前でビラを配ったもんだったけど。
それと同じことだよ。
この挨拶のコツはね、恥ずかしさを捨てること。
蚊の鳴くような声で「こんにちは」と言われても、相手だって返せないでしょ。だから、とにかく明るく声を張ることが大切。思わず相手が顔を向けてくれたら、それで成功、挨拶を返してくれたら大成功なのだ。
「こんにちは!」
と勢いのままにケンプさん家の勝手口を開ける。
待っていると、ケンプさんが遣って来た。
今日はシエスタがまだだったみたいだ。待っててくれたのかもしれない。
「本当に来たんだな」
「来ないとでも思ってたんですか?」
「まぁ…なぁ。今までの見習いは、初日で逃げてそれっきりだったからな」
あの惨状を目の当たりにしたら、元がお嬢様は堪えられないよね。
にしても…。
「初日でって。あとの6日間はどうしてたんだろ?」
私の呟きに、ケンプさんが答えてくれた。
「飲食店で飲み食いしながらお喋りしてるよ。見習いで奉仕活動を真面目にしてるのなんていないだろうな。というか、リリンはそんなことも知らないのか?」
ああ、それでみんなご飯を残しても平気なんだ。思わぬところで疑問が解けた。
「私は修道院に来たばかりですから」
まさか、ボッチで誰も教えてくれない。とは言えない。
しかし年の功というべきか。
「そういえば…リリンは1人なんだな」
とケンプさんは指摘して、ハッとしたように顔をそむけた。
グズリと鼻をすすってたりしますけど…。
いったい、何を妄想してるのですか?
「くじけるなよ」
ケンプさんの目が赤い。
「が、頑張ります」
「応! がんばれ!」
健気だな~、なんて言いながらケンプさんは奥へ引っ込んでしまった。
盛大に勘違いされたような…。いいや、勘違いでもないのかな?
まぁ、いいや。
深く考えると、泣いてしまいそうだ。
私は掃除を再開することにした。
「おっしゃ! やったるで!」
昨日、洗い残したシンクの汚れ物に取り掛かる。
今回の脳内ミュージックは『なんということでしょう』でお馴染みの、劇的にビフォーアフターされてしまうあの曲だ。
これは私の決意でもある。今日のうちに、掃除を終わらせて劇的に綺麗にするのだ!
ちゃきちゃきと洗い物をすませて、水切りラックにGO。ケンプさんに渡された綺麗な布巾で棚を拭きなおして、2枚目の布巾で水切りラックの洗い物の水を拭きとって、棚に置いてゆく。
「ここからが、正念場だぜ!」
いっそ気合を入れて臨むのは、洗濯物だ。
この世界に洗濯機はない。ので、私はタライに洗濯物を山積みにして「うんせこらせ」と表通りにある井戸に移動した。
ゴシゴシと洗濯板にシャツやらズボンやら、ときには…下着やらをこすりつけて洗う。
「恋人すらいたことがないのに、異性の下着を洗うとか…」
愚痴が出たって許してほしい。だって、私。14歳なんだもん。
え? 本当は34だろうって? それは言わない約束だぜ、ブラザー。
それでも、通りがかる職人さんには笑顔で「こんにちは」と挨拶を忘れない。
洗って、絞って、ケンプさんの店の裏庭に紐を張り巡らせて、そこに洗濯物を干して。乾いたら取り込んで、畳んで。
繰り返すこと7回。
7回だよ!
最終的には気力だけでこなして、私は遂にやり遂げた。
手なんか水でしわくちゃだし。
「真っ白に…燃え尽きたぜ」
こうして奉仕活動の2日目は終わった。




