第77話「約束」
――放課後。
学校の敷地裏、職員専用の喫煙所。
夕方の風がふっと吹き抜け、校舎のガラス窓にオレンジ色の光が反射している。
ヤヤとユウヒは、授業後すぐに呼び出され、ここへ向かっていた。
すでにカイトが腰掛けていて、片手にタバコを持ち、空を見上げている。他の職員はもう帰ったそうだ。
カイトはふと二人に気づき、口元に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「よぉ。びっくりしたか?」
ユウヒは口をぱくぱくさせて叫ぶ。
「びっくりしたなんてもんじゃないよ!?
もう……なんで先生やってんのさぁ!!?」
ヤヤは眉をひそめ、じっとカイトを見る。
「……一応聞くが……カイト。お前、教員免許持ってるのか?」
カイトは、どや顔でタバコを深く吸い込み――
「ん? 持ってるわけないだろ?」
と、快晴ばりの明るい声で言い放つ。
「大学も中退してるしな! ははっ」
ユウヒは盛大にひっくり返りそうになる。
「えぇ~~~!?!?
それもう……ふつうに犯罪じゃん!?」
カイトはケラケラ笑いながら、灰を落とす。
「免許なんてただの紙切れだろ?
教える能力ありゃ問題ねぇんだよ」
「問題あるよ!!?」
ユウヒのツッコミが喫煙所の天井に突き刺さる。
ヤヤは腕を組んで、さらに問い詰める。
「だが学校も確認するだろ?どうやってなったんだ?」
カイトは煙をゆっくり吐き出し、少し真面目な声になる。
「冗談はさておき……実は国が許可出したんだよ。あの事件で沢山の人が死んだだろ?教員足りないから特例措置だとさ」
ヤヤとユウヒは思わず顔を見合わせた。
カイトはタバコを指でつまんだまま、視線を空に向ける。
ユウヒが続けて尋ねる。
「じゃあ……なんでこの学校に?」
カイトは少しだけ柔らかく笑い――
そして寂しげに目を細めた。
「……ボスとの約束でな」
二人が息を呑む。
カイトは続けた。
「言われたんだ。もし自分に何かあったら……ヤヤとユウヒを頼むって」
その言い方は淡々としているのに、どこか胸が締め付けられる重さがあった。
ユウヒがそっと視線を伏せる。
「……たしかに……あの人ならそういうこと言いそう」
ヤヤは拳を握りしめて、短くつぶやく。
「……そうだな」
カイトは自分の感傷を振り払うように立ち上がった。
「あ、そうだ。思い出した」
「え、なに?」
「お前ら今日の夜、定食屋行くよな?
ケイが言ってただろ?
“コードXIIIに話がある”ってよ」
ヤヤは少し首を傾げながら答える。
「ああ、行くよ。
……なんだろうな? 方針の話か?」
ユウヒは不安そうに頬を膨らませる。
「今後のジャスティスの再編とか……かな?
なんか緊張するんだけど」
カイトはポケットからタバコを片付け、軽く背伸びする。
「まぁ心配すんな。
俺は明日の授業準備あるから、先に店向かっとけ」
「えっ、カイト君、授業準備なんてするの?」
「当たり前だろ。
……こう見えて忙しいんだよ、先生はな」
ユウヒの質問に当然といった顔で答えるカイトに、ヤヤは呆れたため息をつく。
「……さっきまで“免許ない”って言ってたやつのセリフじゃないだろ」
カイトは肩をすくめて笑い、片手をひらひら振りながら歩き出した。
「いいから行け行け。
あと今日の宿題ちゃんとやっとけよー」
去っていく後ろ姿は、相変わらずホストみたいだったが――
どこか教師らしさも、少しだけ漂っていた。
ヤヤとユウヒは顔を見合わせ、深いため息を共有する。
「……ま、行くか」
「うん……なんか今日、濃かったね……」
二人は並んで歩き出す。
夕方の空に、ゆっくりと靴音が響いていった。




