第67話「秘めた恋が咲いた夜――次の戦場を照らす」
夜のレインボーブリッジ。
赤い警告灯が、相変わらず規則正しく点滅している。
その橋の上に、遅れてもう一つの足音が響いた。
「……いた」
カイトが、息を切らしながら姿を現す。
視線の先には――
橋から海を眺めるユウヒ。
そして、橋の中央で並ぶ二つの石像。
ヤヤと、レイン。
「……どういう状況だ、これ」
一瞬、言葉を失ったカイトに、ユウヒはいつもの調子で振り向いた。
「あ、カイト君。お疲れさま~」
あまりにも“普通”な声だった。
「ちょっとね。石化能力持ちの敵と戦ってたの」
「……石化?」
カイトの目が、石像の二人に戻る。
「まぁ大丈夫。敵はもう殺したし」
さらっと言う。
「ヤヤ君たちの石化も弱まってきてるよ。
あと……2、3分もすれば戻ると思う」
その言葉に、カイトはほっと息を吐いた。
「……そうか。無事なら、それでいい」
ユウヒは軽く肩をすくめる。
「うん。全部片付いたから」
その直後だった。
――パキ。
小さな音。
ヤヤの指先に、細い亀裂が走る。
続いて、レインの肩。
石の色が、ゆっくりと肌色へ戻っていく。
「戻れた……みたいだな」
ヤヤが、勢いよく息を吸った。
「っ……!?」
レインも、反射的に後ずさる。
二人とも、完全に元に戻っていた。
しばらく、沈黙。
月明かりの下で、三人の視線が交差する。
ユウヒは、にこっと微笑んだ。
「おかえり」
――次の瞬間。
ヤヤとレインの顔が、同時に真っ赤になる。
「…………」
「………………」
異様な沈黙。
カイトが首を傾げる。
「……どうした?二人とも」
その問いに、レインが爆発した。
「あ、あ、あ、あんたねぇっー!!!」
ユウヒを指差す。
「ヤヤ君をそんな風に想ってたの!?」
「どうしたの?レインちゃん?」
ユウヒが、間の抜けた声を出す。
レインは顔を真っ赤にしたまま、叫ぶ。
「ヤヤ君と結婚するとか!!
高校卒業したら花屋とか!!子供二人とか!!!」
「…………えっ?」
その横で、ヤヤが視線を逸らしながら、小さく呟いた。
「……ユウヒ、俺のことを……」
右手の手のひらで口を抑えながら、耳まで真っ赤だ。
「な、何がヤヤ君は誰にも渡さないよ!!わ、私はユウヒとヤヤ君が結婚とか絶対、ぜーったい認めないんだからっ!!」
レインが顔を赤らめ泣きそうな表情で大声を出す。
「…………」
ユウヒが、完全に固まった。
数秒。
脳内で、何かが繋がる。
石化中。
彼らが全部、聞こえていたことに気づく。
「……へっ……?」
間抜けな声。
次の瞬間。
「――――――っ!?」
ユウヒの顔が、ありえない速度で赤くなる。
「ま、ま、ま、ま、まさか……」
視線が泳ぐ。
「……き、聞こえて……たの……?」
「もうぜーんぶ聞こえてたんだけど!
もうホラーよ!!あんた超メンヘラじゃない!!」
カイトが、藤堂アヤネの死体を一瞬みた後、口元を押さえる。
「……なるほど。そういうことか。ユウヒ、お前ヤキモチ妬いたんだろ?そいつがヤヤに惚れちまって……それで秘めた恋心が爆発ってか。」
「ちがっ!!」
ユウヒが取り乱したかのように叫ぶ。トマトのように顔を赤面させながら。
「あ、あ、アレは!!
あの場のノリっていうか!!
殺すためのメンタルブーストっていうか!!」
「ぐ、具体的すぎでしょ?!」
「……っ!!」
レインが即ツッコミを入れる。
そしてユウヒが恥ずかしさのあまり、パニックになっている中、ヤヤは少し照れながら咳払いを一つ。
「……と、とりあえず」
動揺を隠しきれない声で。
「コードXIII全員、生きてる。本当にみんな無事でよかったよ」
「そうだな。面白い話も聞けたしな」
カイトはチラッとユウヒを見る。
「う~っ!!聞かなかったことにしてっ!!」
ユウヒがそう答える一方、レインがぷいっと頬を赤らめながら顔を背ける。
「ま、まぁ……命が助かったから、今回は聞かなかったことにしてあげる」
「してあげるって何!?」
ヤヤが、ようやくユウヒを見る。
まだ赤い。
ヤヤは少しだけ――困ったように笑った。
「……その……」
「な、なに」
「……また、ちゃんと話そう」
ユウヒは一瞬だけ黙り、頷く。
「……うん」
夜のレインボーブリッジに、静寂が戻りつつあった。
遠くで波の音がする。
赤い警告灯は相変わらず点滅しているが、さっきまで張りつめていた“世界が壊れかけている気配”は、確かに薄れていた。
その時だった。
――ピリリ。
短い電子音。
「……え?」
ヤヤが、ポケットからスマートフォンを取り出す。
画面には、見慣れた名前。
《キョウ》
「……電話がつながる?」
レインが目を見開く。
カイトも、ユウヒも、同時に息を止めた。
ヤヤは一瞬だけ迷い、通話ボタンを押す。
「……もしもし」
『――ヤヤ、無事かい?』
通信越しに届いた声は、雑音のほとんどない、はっきりとしたものだった。
「ああ。コードXIII全員一緒にいる。
それより電話がつながるってことは……」
『カイト達も無事みたいだね。通信はさっき戻ったところだよ。変電所、通信中継所、水道制御センター……主要インフラはだいたい復旧してる』
「……!」
レインが思わず口元を押さえる。
ユウヒが、ほっと息を吐いた。
『エクリプスの主力は、ほぼ潰した。あとは――』
一瞬、間を置いて。
『――お台場の連中だけだ』
ヤヤは、橋の上を見回した。
砕けた石。
乾いた血痕。
そして、もう動かない“かつての仲間”。
「……そういえばこっちは、レインボーブリッジで一人倒した」
『一人?』
「ああ。行方不明になってた――藤堂アヤネだ。それと多分カリオペの心臓で生き返った1人だ。記憶がなかったしな」
電話の向こうで、空気が一瞬、止まる。
『……そうか。ウチの学校の生徒がまさかエクリプスの一員になってたとはね』
短く、それだけ。
余計な言葉はなかった。
「……お台場にはもうつく」
『ああ。了解だ。こっちは今、ケイとシルファと合流してる。こっちも、お台場へ向かってる』
「合流できそうだな」
『油断はするなよ。まだ終わっちゃいない』
「わかってる」
通話が切れる。
――ツー、ツー、ツー。
ヤヤはスマートフォンを下ろした。
カイトが、タバコを吸いながら夜空を見上げる。
「ようやく終わりが見えてきたな」
ユウヒは何も言わず、ただ前を見ていた。
さっきまでの騒がしさは消え、目には静かな炎だけが宿っている。
ヤヤは、橋の向こう――闇に沈む東京湾の方向を見据える。
レインは深く息を吸い、拳を握った。
「……みんな!行くわよ!お台場へ!!」
ヤヤ、カイト、ユウヒは頷く。
誰も、異論はなかった。
レインボーブリッジの上に残されたのは、
役目を終えた警告灯の赤い点滅と、
次の戦場へ向かう者たちの、足音だけだった。
茜坂夫婦が人気なのか、もっと登場させてほしいという声を何人かからXでメッセージをいただきました。まだまだこの作品は終わりませんので楽しみにしてて下さい。




