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白翼のハルピュイア  作者: 依空 まつり
十章 詐欺師の大仕事
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【14】有言実行お姫様


「つまり、アタシ達、全員捕まっちゃったわけじゃない!? ちょっと、どうすんのよこれ!?」


 怒鳴ったロスヴィータは、涙目でエラを睨む。


「エラぁ……あんたがついていながらぁ……!」


「あっ、あっ、ごめんなさい、ロスヴィータちゃん。でも、一応、理由はあるんですよ」


 エラの言葉を引き継ぐように、レンが口を開いた。


「この部屋の見張りをしてるの、財務室のお兄さんだったんだ。ほら、ヘルさんっていう、柄シャツの上にローブ着てる……偉い人の腰巾着で、『こいつはマジだぜ』が口癖の」


 ユリウスは〈楔の塔〉を嗅ぎ回っていたので、ある程度魔術師達の顔は覚えている。

 財務室のヘル。フレデリク・ランゲ達と同期の若者で、魔術の才能にはあまり恵まれなかったため、財務室の所属になったと聞いたことがある。

 その時、ゲラルトがボソボソと言った。


「あの、おかしくないですか? 何故、財務室の方が見張りを?」


 ゲラルトの疑問に、ローズが「あ、そっかー」とのんびり呟く。


「普通、こういう時の見張りって、守護室がやるもんだよな〜」


「それってつまり……超人手不足ってことぉ?」


 ローズとゾフィーの言葉に、レンが頷く。


「半分正解。もう半分だけど……多分〈楔の塔〉の上層部でも、オレ達の扱いについて、意見が割れてるんだ」


 そういうことか、とユリウスはすぐに理解した。

 メビウス首座塔主と、ミリアム首座塔主補佐が倒れている今、指揮をとっているのはエーベル、ローヴァイン、アルトの三塔主。

 少なくとも第二の塔〈金の針〉のローヴァイン塔主は、見習いを閉じ込めることに否定的なのだ。故に、人手不足を理由に見張りを出していない。

 第一の塔〈白煙〉のエーベル塔主は、見習い達を拘束したいから、自分の傘下にある財務室の人間を見張りにつけたのだろう。

 指導室は〈百眼の魔女〉アンネリーゼ・レームの裏切りがあるから、見習いの見張りを任せられない。故に、総務室か財務室で手の空いている者を見張りにするしかなかったのだ。


「つまり、わたくし達の処遇を、上層部は決めきれずにいるというわけだ」


 なるほど確かに、これは簡単に決められる問題ではないだろう。

〈楔の塔〉にとって、ユリウスは反逆者だが、それを擁護するのが皇妹殿下のセビルを筆頭に、実は隣国の重鎮であるらしいローズ、帝国西方辺境伯の実弟であるゲラルト、貴重な呪術師で〈愚者の鎖デスピナ〉の適性があるゾフィー、古典魔術の名家の人間であるロスヴィータ……扱いに困る顔ぶればかりだ。一般人は、ティアとレンぐらいである。

 話をまとめるセビルの横で、レンがボソリと言った。


「……セビルに関しちゃ、『頼むから大人しくしててくれ』ってのが大人達の総意だと思うぜ」


 レンの指摘は実に正しい。だからこそ、見張りのヘルもセビルをこの部屋に入れたのだ。

 だが、レンの指摘もなんのその。大人しくしている気など微塵もない皇妹殿下は不敵に笑う。


「上層部が混乱状態にある今こそ、動くチャンスであろう?」


 そこにゾフィーが小さく挙手をして発言した。


「ねぇ、セビルぅ……こういう時ってさぁ、大人しくして、上層部の心象を良くするのがセオリーなんじゃ……」


「それも一理あるが、今は時間が足りぬのだ。三日後に壁が消滅する以上、上層部は明日か明後日には〈楔の塔〉への攻撃を開始するだろう」


 全員の顔色が変わる。

 ユリウスは己の背筋が凍るのを感じた。

〈楔の塔〉への攻撃を開始するということは──フィンも、その戦いに巻き込まれるのだ。


「わたくし達は効率良く、迅速に動かねばならぬ。故にまずはこうする……見張りの者よ! 聞こえるか!」


 セビルが声を張り上げると、扉の向こう側から気弱そうな声がした。


「あ、はい、聞こえてます。はい」


 財務室のヘルは、年下相手には「こいつはマジだぜ」と強気な態度に出る青年だが、流石に皇妹殿下を前にすると、へりくだらざるを得ないらしい。

 最近はユリウス達もすっかりセビルに慣れていたが、本来はこれが皇妹殿下を前にした正しい反応なのだ。


「わたくしが囚人になるからには、待遇の改善を命じる!」


 レンが小声で突っ込む。


「普通、囚人は見張りに命令しねーんだよ」


 当然に耳を貸すセビルではない。

 扉の向こう側からは、明らかに困っている空気を感じた。

 セビルが扉に向かって言い放つ。


「まずは、自由に外出する許可を貰おうか!」


「それもう囚人じゃねーだろ……っ」


 レンの呟きは正しい。

 だが、道理と常識を覇気で捻じ曲げるのが蛮剣姫なのだ。


「あ、あのー……流石に、全員自由に出入りさせちゃうと、俺が怒られるんで……本当にマジで」


「ならば、数人ずつで良い。外出する者には見張りをつければ良かろう」


「いや、マジで今、人手不足なんでぇ……」


「ならば、ヒュッター先生を呼べ。わたくしはヒュッター先生の指示になら従おう」


 レンがボソッと「都合が悪い時は従わねーけどな」と言った。

 見習い達は皆、無言で頷く。


「それと待遇の改善を要求する。風呂などと贅沢は言わぬ。まずは男女別に清拭の時間、それと暖かな食事もだ。切迫した状況なれど、既に避難した者に食事が行き渡っていることは知っているぞ」


「そ、そりゃあ……こういう時は、囚人が最後になるのが普通ですし……」


「そうか、さぞ人手不足で困っているのだな。なれば、わたくしの料理人を貸し出そう。ゲラルトと言う。連れて行くが良い」


 ゲラルトが「えっ」と声をあげ、驚いたように肩を震わす。

 そこにローズが便乗した。


「あ、厨房の仕事なら、オレも手伝うぜ〜。野菜スープなら任せろ!」


「いや、あの、そんな勝手に色々決められても……マジで困るんで、マジのマジでぇ……」


 矢継ぎ早に繰り出されるセビルの要求に、扉の向こう側で、ヘルが困り果てているのは容易に想像できた。

 セビルはスタスタと扉に近づき、よく響く声で命じる。


「扉を開けよ」


「えっ」


「わたくしに、二度同じことを言わせる気か?」


「ヒィッ……」


 いかにも恐る恐るといった様子で、扉がほんの少しだけ開く。

 その隙間から、柄シャツの上にローブを着た青年──財務室のヘルが、中の様子をのぞいていた。

 セビルはその隙間に手を伸ばし、ヘルの顎を指先ですくった。レンがヒュゥと口笛を吹く。


「財務室のヘルと申したな? 貴様の顔と名前は覚えたぞ」


「ひ、ひぇぇ……」


「わたくしはいずれ、お前達の上に立つ人間だ。ここで便宜を図っておいた方が良いのではないか? ん?」


「あ、はひっ、はいぃぃ!」


 ヘルはバタバタと後ろに跳びすさり、扉の鍵をかけることも忘れてバタバタと廊下を走り出す。セビルに言われたものを手配しに行ったのだろう。


「この通り。わたくしにかかれば、行動の自由を勝ち取るなど造作もない」


 エラが両手で顔を覆い、申し訳なさそうに言った。


「私、いざという時はセビルさんの威光に頼ろうなんて、考えてましたけど……考えてましたけど……」


「威光っつーか、覇気だよな、あれ。扉越しの時点で気圧されてたじゃん」


 エラとレン、見習い代表と代表補佐の真っ当な指摘に、ティアがピロロと喉を鳴らす。


「セビルの覇気? って、扉を貫通するんだねぇ」


「するする。お前の歌声みたいなもんだよ」


「ピヨップ! セビルの声には力があるもんね!」


 こんな時でも、ヒュッター教室はいつも通りだ。

 セビルが皆の顔を見回し、ティアの言う「力のある声」で告げる。


「良いか? 壁が保つのは三日。なれば、明日か明後日には〈楔の塔〉の魔術師達が、〈楔の塔〉を占領した魔物達に攻撃を仕掛けるであろう。目的は魔物の殲滅。その対象にフィンも含まれる」


 そう、人と魔物の戦いが始まったら、人側は魔物を殲滅するしかないのだ。生かしておく理由がない。


「知りたい真実があるのなら、掴みたい名誉があるのなら、晴らしたい因縁があるのなら、フィンともう一度会いたいなら……わたくしに力を貸すが良い」


 セビルはゆったりとした動きで、豊かな黒髪をかき上げる。

 それは、自分の魅せ方を分かっている人間の仕草だ。


「わたくしはこの戦いで功績を上げて、〈楔の塔〉の実権を握るつもりだ。わたくしが実権を握れば、生き残った魔物達の処遇は、わたくしの采配でどうとでもできる」


「ピヨップ! セビル強ーい!」


 ティアの言葉に、セビルは気を良くしたように微笑んだ。


「いかにも、わたくしは強いのだ! さぁ、皆のもの。わたくしの供をせよ!」


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