キラリンっ☆私はだぁ~れだっ!(1)
◆◆◆
私たちがデートから帰ってきたあと、ここ談話室では呪いを解くために話し合いをしている。メンバーはいつもの人たちと、プラスワンでフローラルーンの元待女のディダ・エンストロームがいる。
私たちがデートをしている合間も時間をみては話し合いをしていたという。
でも、結果としては
「進展はなし、か」
エルを筆頭に時間ギリギリまで話し込んではいたが、結局は解決にたどりつく糸口は見つからなかったみたいだ。
「すまねぇな。あれからもいろんな文献をみたり、思いつくだけ話し合いをしてみたんだが、なかなか…」
「いや、エルが謝ることはない。もともと無理難題な問題だからな」
「あぁ。…っていうか、お二人は少しは楽しめたか?ここ数日はずっと頭を働かせ続けたからなぁ。で、どうだったよ?」
エルがすっごいニヤニヤしながら聞いてくるんだが。
……一発、殴ってもいいだろうか?
「すっごく楽しかったですよ!私たちを誘って下さって本当にありがとうございました。いい思い出ができました! ね?陛下」
「あぁ。そうだな」
リリーが途中で入ってきてくれたおかげで、地味にイライラしていた心は消え失せた。
─妻の存在というものは偉大だな。
お昼寝に続いて、新たなる偉大なものを発見したのだった。
◇◇◇
私たちが帰って来てからも話し合いは続いたけれど、進展はなかった。フローラ様の元待女であるディダがなかなかの切れ者だったので、ちょくちょく良いアイディアは幾つかは出たのだが全ては仮定の上での話し。仮定でのことを実際に試すことができたらどれ程いいことか…。
現実はそれほど甘くない。
あれから時が過ぎて夜になり、今私たちはソルマージュの近くに設置された来賓席に座っている。空はすっかりと暗くなっており、私たちを照らす光は、月の明かりとばらばらに置かれた灯籠の光、そしてキラキラと輝く星々のみ。灯籠のぼうっと暖かみのある光が私たちを優しく包み込む。
そして儀式の中心となる、黒い水晶玉はソルマージュの大木の中心に置かれていた。先ほどの暖かみのある光とは対照的に、忌々しい光どす黒いオーラが溢れだす。
無意識にぞわりと鳥肌が立ってしまい、思わず両腕で自分自身を抱き締めてしまう。
「リリー、大丈夫かい?」
「っあ…はい。陛下のおかげで今、大丈夫になりました。ありがとうございます」
彼の手が私の肩に優しくふれる。私の着ている服の布ごしからも分かる暖かさにとてもほっとした。
「あぁ。………あ、ほら。リリー見てごらん。そろそろ始まるみたいだよ」
今回の精霊祭の進行者であるエリクシル様が、材木で作られたステージへと上がった。お昼のときみたく歓声がものすごいのかと思いきや、領民全体に盛り上がりはなく静かに彼が口を開くのを待っている。
「さぁ、いよいよこのときが来た。前回の開催はちょうど100年前。前々回のときも同じく100年前だ。どれほどの強い祈りを捧げても、エピナント国の魔女。ディリング様は我々の祖先が犯した罪を許してはくださらなかった。本当だったら、私たちがこのことを解決せねばならない。いくら昔のことだと言っても、皆には私たちを責める権利が大いにある。……だが、より良い未来のために、今回もみんなの力を貸してほしい。頼む。そして、今回でこの悪夢は終わりにしよう」
エリクシル様がそう言った後は、水晶の方に向かって床に膝をつき、手を組んでお祈りのポーズをとる。
そこでフローラ様が壇上へと上がり、エリクシル様の隣に立った。
「さぁ、私たちの心を一つにして祈りを捧げましょう」
フローラ様もそう言った後はエリクシル様と同じポーズをとった。そして、ここに集まっている領民たちも二人に倣う。千人以上の人々がここに集い、いつしか自由に大空を飛び回りたい、そのように皆願っているに違いない。
ここであの時の日をふと思い出す。私たちがここに来る前に、陛下に少しだけ教えてもらったときのことを……
『エルフ族だけが与えられる羽でね。エルフ族は飛べることに誇りを持っているんだよ。自分達にか出来ないことだとね』
確かに空を飛ぶことは私たち人間には容易ではない。機械類などを使って空へと舞うことは出来るが、時間やお金、労力などがたくさんかかる。一番近いものといえばスカイダイビングなのだろうが、それは少し違うと思うのだ。上空から地上へと堕ちるだけ………という風に、あくまでも私はそう認識している。
「さぁリリー、私たちも」
「あ、はい」
私たちも椅子に座ってたが、手を組み祈りを捧げる。込める願いはただ1つだけ。
早くこの呪縛から解き放たれますように、と。
「…エピナント国の魔女、ディリング様。私たちの祖先が犯した罪。どうかお許し下さい。我々も誇り高きエピナント国の者であり、領民の1人です。このことを強く自覚し、もう二度と同じ過ちは繰り返さないと、領主王であるこの私、エリクシル・キアラ・エルセレフがこの名に懸けて誓います。どうかっ……どうか、この水晶にかけてしまった呪いをお解き下さいませ」
エリクシル様の強い祈りに水晶玉は……なにも反応をすることはなかった。少し経っても、うんともすんとも変わらない。だが、会場中はあいも変わらず静寂に包まれており、誰一人としてこの空間を壊そうとはしていない。
「どうか、どうかお願いしますっ!」
彼の必死な願いは今回も届かない。そう誰もが思ったとき、
『はぁ~あ。とうとうこの呪い魔法も潮時よねー。ま、今までほったらかしにしてたアタシが悪いんだけどさぁー』
突然の声に、静寂を保っていた空間は一気に崩れ去った。
「えっと……陛下、今なんかすごいことを耳にしてしまったような気がするんですが…?」
「……っああ、そう…だな?」
私たちも突然の声に驚きと、なんだかすごいことを(とてつもなく悪い意味で)聞いてしまったような気がした。
先ほどの声の主は女性のように思われる。少々ソプラノかがった声が印象的だった。
ていうか、さっき何て言ってた?
私の耳が正常であれば、あたしが悪いんだけどね~的なことを言っていたはず。
『ほったらかしにしてたアタシが悪い』とは一体どういう意味なのだろう?
会場中はざわめきながらも、先ほどの声の主を探してる者がちらほらと現れ始めている。
「みんなっ!とりあえず落ち着いてくれ」
エリクシル様が一声かえても静かになる気配はない。いきなり起こった出来事に皆、混乱しているのだ。
「くそっ…!一体なにが起こったっていうんだよ。─さっきの声の主は一体誰なんだ!?頼むから姿を現してくれっ!!」
彼の放った言葉で一時の沈黙が広がった。
『ぷっくくくっ…!!………アーハッハッハッ!! ダメっ!笑いが止まらないわぁー!!』
今度は女性と思わしき声が発したのは、笑い声だった。笑い声、というよりは爆笑しているのだが。
「頼む、姿を表してくれ!この水晶の謎の解き方を知っているのなら教えてくれっ…!」
エリクシル様にとっては藁をもすがる思いだろう。ずっと探し続けていた答がやっと手には入るのだ。
だが、姿はいっこうに表れない。ましてや、ずっと爆笑している。ツボに入る部分があったのかと、頭をひねらざるを得ない。
儀式に参加している領民たちも戸惑いの表情や不安の声が聞こえてくる。
『うーん。どうしよっかなぁ~?』
「お願いしますっ。どうか、私どもにお姿を現しては下さいませんか。それがお嫌ならば、水晶玉の謎の解き方だけでもお教えくださいっ!」
フローラ様がエリクシル様の隣に立って、深く頭を下げている。
「フローラ…」
「私だって、ここの領主妃です。いくらでも頭を下げ続けます」
「あぁ、ありがとう。フローラ」
この光景を見て私も何かしら力になりたい。私は頭で考えるよりも、先に体が動くのだ。私は来賓席の椅子を立ち、腰を深く曲げ、頭を下げた。
「お願いします!!どうか私たちに力を貸してください!」
「…っ!リリー様?!なぜ…」
私はゆっくりと顔を上げて、壇上に立っている2人を見つめた。2人もまた、驚いた顔をしながら私を見つめている。
「フローラ様。私も力になりたいんです。ここで過ごした数日間はとても楽しかったですし、充実しました。フローラ様も知っての通り、私はここに来てまだ日も浅いです。そんな私に気軽に接してくれたのがとても嬉しくて。勿論、フローラ様だけではありません。エリクシル様もカトリーヌもみんな優しくして下さいました。…だから今度は私がお返しをする番です」
そう、それは私の本心だった。フローラ様やエリクシル様たちが優しくして下さったお陰で、とても充実した日々だったのだ。
他国の、それもどこの馬の骨とも分からない者である私のことを、軽蔑せずに気軽に接してくれていた。もちろん、陛下の妻だというこもあるのだろうけど。例え、それでもやっぱり嬉しい、という思いが勝つから最終的には関係ないのかもしれない。
私が思いの丈を2人に伝えると、私の言葉に感化されたのか、会場にいる領民たちも声を上げていた。
「どうかお願いしますっ!」
「私たちにお力をお貸しください!」
「お願いしますっ」
『うぅーん、美しいわねぇー。ふふふっ!……皆の心が一つになってる。まぁ当然と言えば当然かもねぇ。…うん!決めたわ』
しばらくしてから、『いいわ!私の姿を見せてア・ゲ・ル♡』
その言葉を発した直後、夜空にこうこうと輝く光が現れた。
「まぶしっ……」
その光は一瞬にして消えてしまったが、その代わりに美しい女の人が現れた。
紫色のきれいな髪を2つ結びにしており、黒のトンガリ帽子、膝丈まである黒のスカート、そしてほうきの柄の上に足を組んで座っている。
いかにも、ザ・魔女って感じの人だ。
領民の人たちは、
「…すごい!魔女があらわれたのか?」
「美しい…」
「この方は魔女なのか?それとも女神様なのだろうか?」
などと言う人があらわれはじめた。
同性である私から見ても、確かに彼女はとても美しい人だった。誰もが振り向くような美貌を持ち、その中にも少しだけ幼さも残っている。誰しもが彼女に釘付けになっただろう。実際、私もそうだったし。
「…ん?あらあらっ。やっほー!フローラちゃーん。って、どうしたの?そんなに呆けた顔をして」
「……えっ?!なぜ、私のことを?」
「あらあらー?忘れちゃったの?」
「えっと…」
「しょうがないわねぇ。さて問題です、一体私はだぁ~れだっ?」
うふふと笑って困惑しているフローラ様の前に降りてきた。当の本人であるフローラ様は、彼女が誰だなのか答えにたどり着けずにいる。
「じゃあヒントね。この姿に見覚えはあるかしら?」
パチンと指を鳴らした彼女は、姿と形は変えなかったが唯一変わった場所があった。それは、髪型と髪色だ。
彼女はの髪色は空色で髪は肩口のところで切りそえていた。
「「…っ!!」」
フローラ様のみならず、彼女のことを知っている人はみん固唾を飲んだ。
遠目からでも分かるその姿は、ある人にそっくりだったのだ。
「でぃ、ディダ?ディダなの?」
「はいっ、そうですよ。あなた様の元待女のディダ・エンストロームですよー」
うそでしょ……。そう言って、フローラ様は膝から崩れ落ちていったのだった。
ありがとうございました!
次回からは月1更新ではなく、不定期更新になりますのでご了承下さいませm(_ _)m