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15 舞踏会の小さな魔法(1)

「うーん」


 セレスは唸りながら眉根を寄せて「それ」を睨み付けていた。


 「それ」とは美しく装飾されたカードであり、表には意匠を凝らした書体で「招待状」と書かれてある。

 中に書かれている内容は、開くまでもなく分かる。城で開催されるパーティーへの案内状だろう。以前から定期的に催されていたもので、特別なものではないのだが。


(すっごい憂鬱……)


と心の中でぼやいて、セレスは机の上に突っ伏した。


 そもそも第一王女の時から、旧王妃派と寵姫派の思惑が渦巻くパーティーという場所は気疲れしかしなくて、苦手だったのだ。ゆえに、第一王女という枷から解放され、そういった華々しい席に呼ばれることがなくなり、少しほっとしていたところだったのに。


「パーティーって何、パーティーって。私は元第一王女なんだから、目立つところに顔を出したくないんだけど……」


 そうぼやくと、ソファに寝転んで本を読んでいたキルシュが、ちらりとこちらを見やった。


「ノエルがエスコートするんだろう?」


 その口調は、どこか面白くなさそうな響きを含んでいて、セレスは首を傾げる。かつて婚約者だったカトルカールがエスコートしていた今までは、特に関心がない様子だったのだが。


「……そう言っていたけど」


 答えながら、セレスはその時のことを回想した。







「セレス、お前に話があるんだ」


 研究室からの帰り道、廊下を歩いていると不意にノエルから呼び止められ、開口一番そう告げられた。

 いつになく真面目な表情で、しかも、どこか思いつめたようなノエルの姿に、一体何事かと身構えながらも「いいわよ」と答えて、彼の次なる言葉を待つ。


 しかし、声をかけてきた当の本人は、セレスの顔を見ると、何故か一瞬言葉に詰まった。だが、すぐに意を決したように、


「これを」


と言って、一枚の封筒をセレスに差し出した。その表には、招待状と書いてある。その中身に思い当たるものがあった。


「舞踏会?」


 それは、紳士淑女の社交の場、華やかな世界で、本来セレスが得意とする場所ではない。戸惑いの眼差しを向けると、彼は緊張した面持ちで、こう告げた。


「ああ。そこで少し話したいことがある」


 長い付き合いのノエルは、セレスがこういった場所を苦手としていることを知っているはずだ。それでも敢えて誘うということは、


(何か差し迫った事情があるのかしら)


と推測された。

 ならば断るわけにもいかない。彼のお陰で自分達姉妹は肩身の狭い思いをすることなく、この城で暮らしていけていることを、セレスはしっかり悟っていたし、恩義も感じている。だから、


「分かった」


と一つ頷き、招待状を受け取りながら「パートナーはどうしようか」と考える。


 舞踏会は男女一組での参加が基本だ。婚約者がいた頃には考える必要がなかったが、今のセレスがパートナーを捕まえるのは、なかなかの難題である。

 しかし、それについて頭を悩ませたのはほんの一瞬のことだった。


「俺が迎えに行く」


 緊張した面持ちでノエルにそう告げられ、セレスは少し戸惑いを濃くしながらも、


「そ、そう? じゃあ、当日はよろしくね」


と、その申し出に甘えることにした。







 そんなふうに、ぼんやりと回想にふけっていると、不意にキルシュが声をかけてきた。


「セレスは……」


 しかし彼は、セレスの名を呼んだ後、困惑したように口を閉ざす。そんな彼の煮え切らない態度を不思議に思いながら、セレスは首を傾げ、


「なに?」


と話の続きを促す。しかしキルシュは、しばし何かを考えた後、


「いや、なんでもない」


と首を横に振って、口を閉ざした。

 しかし、どこをどう見ても「何でもない」というような表情ではなく、何かを含んだような面持ちだ。


 普段から、歯に衣を着せぬ物言いのキルシュにしては珍しい態度である。しかし「これ以上詮索無用」」という雰囲気を醸し出しているためセレスは、


「そっか」


と相槌を打ち、敢えてそれを追及しなかった。必要であれば、必ずいつか、彼の方から話してくれるはずだろうと、そう思ったからだ。

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