14 精霊界の困った人々(2)
草むらに腰を下ろして視線を上げる。
空は果てしなく青かった。
この空は、リンツァーから遥か遠い異国に続いているはずなのに、この地に留め置かれる自分達の行動範囲は、何て狭いのだろう、とファーは空を見上げる度に鬱々とした気分に陥ったものだった。
リンツァーでの生活は、緩やかで変化がなく……それはそれは平和で、そして退屈だった。
刺激のない世界でファーは、毎日がつまらないと感じるしかなかったのだ。
そして、思う。ただ生きているだけの人生に、何の意味があるのだろう、と。
当然ながら、自分と同じ、力ある存在の仲間達も、等しく力と暇を持て余していた。
「どうした、ファー。いつも以上に、つまらなさそうな辛気くさい顔をしているね」
不意に背後から声をかけられ、ファーは振り返った。そして相手の姿を認めて、その名を呼ぶ。
「パルミエですか」
今は青年の姿を取っているが、生まれた瞬間から、変化の魔法を体得していたというパルミエは、本来の性別すら不明であった。
パルミエはファーの横に勝手に腰を下ろすと、手すさびのように魔力を行使し始める。
彼が地面に向けて手をかざすと、土が盛り上がり、それがみるみる間に人の形になっていく。いわゆるゴーレムと呼ばれる土くれの生命体だ。……魔力によって魂を与えられたかりそめの生命ではあるが。
そのゴーレムは、己を作り出した創造主であるパルミエに服従のためこうべを垂れる。が。
「……つまらない」
そう一言呟いて、パルミエはもう一度手を振った。すると、そこから放たれた光の魔力球が、あやまたずゴーレムに命中し、その偽りの魂は、粉々に崩れ去る。それと同時に、彼は再び、新しいゴーレムを作るべく、地面に手をかざすのだ。
……その過程を何度も繰り返すパルミエの、あまり良い趣味とは思えぬ行動に、ファーは顔をしかめた。
「それ、面白いですか?」
するとパルミエはくすくすと笑いながら答える。
「面白くはない」
あっさりと否定し、しかし、こう続けた。
「でも、退屈しのぎにはなるかな」
その行動が異常である、という判断能力はファーにもある。しかしその、破壊欲求を満たすくらいしか娯楽がない、というパルミエの言葉に、一瞬納得しそうになる自分が、ファーには恐ろしかったのだ。
☆
そんなファーにとって、唯一退屈を紛らわせてくれるものが、外の世界だった。
精霊である自分たちは、外の人間と契約しない限り、外界で複雑な魔法を使うことが禁じられる。
いや、外に行くこと自体は自由だが、生まれた時から魔法と共に生きてきた自分たちにとって、魔法を使わずに生活することは難しく、だからといって契約に耐えうる、それなりの力を持った契約者を見付けることも困難だ。
結果として、この場所に留まるしかないのである。
だからこそ、外界は憧れの場所だった。
そんな外の世界を観察するのに最も適している場所は、キルシュという精霊の居住区だった。
精霊の中でも特に強大な力を持つ彼の家には巨大な水鏡があり、そこから常時、外界を眺めることができた。
考えることは皆同じで、暇を持てあました精霊たちは、何となくこの家に集まりがちだった。
……家の主人は、大層迷惑げな様子ではあるが。
なお、この水鏡の術を維持している当の本人は、特に外界に興味はない様子だった。
何に対しても無関心な様子の家主に、ファーはかつて、こんなことを戯れに尋ねたことがあった。
「貴方には……何か望みがありますか?」
「……特にないよ」
何があっても顔色一つ変えない、美しい顔をした少年は、淡々とした声でそう答えた。その答えを受けて、パルミエが目を丸くした。
「キミは特に強大な力を持っているのに、何も望みがないなんて、もったいないね」
ワタシがその力を手に入れたら、色々試してみるのになあ、と物騒な言葉を続ける。彼の「色々試す」は得てして破壊の方向に向かいがちなのだ。
しかし、そんなパルミエの言葉にも、キルシュは全く興味がなさげである。ただただ、つまらなそうに本を読み、つまらなそうに呼吸を繰り返している。
そんな、変化のない怠惰な毎日が永遠に続くのだと信じ、同時にうんざりしていた。




