#30
七峰君に好きな人ができたと聞いて早一ヶ月。いや、それ以上。何もなかった。七峰君の好きな人が誰かもわからないし、私と七峰君の距離が縮まったわけでもない。というか、今まで近すぎたから距離がこれ以上変えられないって事じゃないのかと思ってきた。
「いおり~ん! お~いっ」
声がした方向に振り返ると、そこには――……
「あっ、トキちゃん!」
約束をしていたトキちゃんがいた。何故、トキちゃんと約束をしていたのかって? それは――……
「ごめんごめん。待った?」
「ううん。大丈夫」
トキちゃんは「よかった~」と息を漏らしてニコッと一言。
「今日は楽しもうね! 何せ、クリスマスなんだし!」
……そう。今日はクリスマスなんです。何でトキちゃんとなのかとか、七峰君はどうしたんだとか気になる事はあると思うんだけど、ひとつひとつお伝えします。
まず、七峰君はどうしたのか。私の性格上、自分からクリスマス等に誘える訳なく。私と同じく誘えない七峰君は他の七峰君を狙っている女子に誘われてOKしたらしい。OKしたって事はその子が好きなんじゃないのか、とも思ったが、何か違う。以前、白石さんに向けていた視線とは何か違うんだ。それは、付き合ってないからかもしれないけど。
次に、何故トキちゃんなのか。私は以前からクリスマスの日にここに来たいと思っていたからだ。勿論、最初は麻弥を誘ったのだが、事情とか何とかで行けないらしく、トキちゃんを誘った。べつに、従兄弟と行ってもおかしくないだろうし。トキちゃんも、すんなりOKしてくれた。だから、こうして一緒に来ているという訳だ。
「……そういえば、トキちゃん、白石さんはよかったの?」
「えっ?」
「いや、前気になるって言ってたし……」
気になったから聞いてみたのだが、まずかっただろうか。トキちゃんは、あははと笑って、
「いや、僕も誘ってみたんだけどね。用事があるからって……」
「そっかぁ……」
「でも、初詣一緒に行こうって誘われたよ」
「ホント!?」
そう聞き返すと、トキちゃんは恥ずかしそうに頷いた。それは……脈有りなんじゃ……? にしても、トキちゃんなかなか積極的だな。
「……いおりんも、翼とはよかったの?」
「へっ!?」
な、何で七峰君の名前が……。
「……私、七峰君の事好きって言ったっけ?」
「言ってない。けど、顔に書いてある」
私は反射的に顔を手で覆った。
「……それは、バレバレって事?」
「うーん。そうでもないけど……。僕だけ読めるのかもしれない」
あはは、とトキちゃんは笑う。私も「何それー」とつられて笑った。その次の瞬間、トキちゃんが突然「あっ!」とどこかを指さし叫んだ。
「な……何?」
「あそこ……」
トキちゃんが指さした方向を見る。するとそこには――……
「七峰君……」
「……と、唯川さん?」
一人の女子と歩いている七峰君がいた。
「……唯川さんって?」
「翼の隣にいる人。唯川希衣さん」
「唯川、希衣……!?」
繋がった。前に廊下で噂話をしていた女子達から出てきた『希衣ちゃん』、それは今七峰君の隣にいる唯川さんの事だったんだ。七峰君を誘ったって事は、唯川さんは七峰君の事を狙っている。噂に出てくる程だから、それ程仲良しなんだろう。ヤバい、かも……?
「……行かなくていいの?」
「えっ? な、何が?」
「翼のとこ。行かないと、唯川さんにとられちゃうよ?」
「唯川さんにとられちゃう」。その言葉が私の心に火を点けた。行きたい。七峰君の所に行きたい。
「……ごめん、トキちゃん」
「いいよ。頑張って!」
トキちゃんに背中を押され、私は七峰君のもとへ走った。
「七峰君っ」
声をかけると、七峰君と唯川さんは一斉に私を見る。「なにこいつ?」という目で見てくる唯川さんとはかわって、七峰君は驚きが隠せていない様子だった。
「……い……いおりん、何で……」
「唯川さん」
私が唯川さんの名を口にし、目を見つめると唯川さんはビックリした様子で私を見つめ返した。次の瞬間、私は頭をおもいっきり下げた。
「ごめんなさいっ!」
そう言って七峰君の腕を掴む。唯川さんが「えっ!?」と言うのと同時に私は七峰君の腕を引く。そのまま目的地も考えず走った。誰もいなくなった所で足を止める。そして、七峰君に向き直った。私はゆっくり口を開く。
「……好き」
その言葉を聞いた七峰君の目は丸く大きくなる。
「好き。七峰君の事が好き。七峰君がらしくないって思っても好き」
「え……」
「……でも、答えはわかってるから。忘れて。ごめん、急にこんな事して。唯川さんの所に戻ってあげて」
「じゃあね」と踵を返そうとすると、七峰君が何か呟いた。
「……り。無理だよ。無理だよ、忘れるなんて」
「何でっ……」
「だって……」
七峰君は私の目を見て、
「……好きな子に、好きって言われたんだもん」
言葉もなかった。七峰君が言っているのは、私の事が好きって事……?
「それって……」
「……そう。俺の好きな子はいおりん。俺自分からじゃ告れないから、言ってくれて嬉しかった」
七峰君の顔はみるみる赤くなる。手の甲で口許を覆う姿が愛らしくて、自然と笑みが溢れてくる。
「……よかった。伝えて」
何より、私はそう強く思った。
これにて、完結となります! 読了ありがとうございました!
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