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名乗りを上げて思った。
……やばい、やりすぎただろうか……。
お灸を添えただけっていうわりには思いっきりノックアウトしちゃったし。
……。
気にしないことにしよう。
「あー、ゼノ?君だっけ。この倒れてる少年ども、運ぶの任せられるかな」
「え、あ、ハイっ?!」
俺の視線を受けると、慌てて倒れた少年達を担ぐゼノ。
ふむ。
見た感じでは、俺よりも大柄な体、というゼノ。
担がれた少年たちは、そのゼノよりもさらに一回り大きい。
先ほどの戦闘で、こやつらの足さばきや体の動かし、体重移動を見た感じだと(”見切り”ではこういった小技も行える)ゼノの体重はおよそ63キロ。
担がれた方はおよそ75キロといったところか。
おれの体重がおよそ34キロだから、ふむ。
…約二倍か。
男女差であまりにも不平等なこの肉体の差は、きっと種族的な物だろう。
ゆえに、過激な男尊女卑が発生した。
まぁ、細かいことは明日にでもランダに聞くこととしよう。
「さて、お嬢さん。だいじょうぶ…」
「あの!!」
バッ!
声を掛けようとした俺の手を、大きな声を上げて、両手で握ってくる。
「……」
「……」
えーと…?
なんだろうか…。
「わ、わたしを……」
しばらくして、彼女が口を開いた。
その言葉は……。
「わたしを、弟子にしてください!!」
というものだった……。
***
「ふむ、なるほどね」
ゼノ君に後始末などもろもろを任せた後、俺はこの金髪の少女、ローダ・キアーナン――呼び捨てで呼んでくださいと言われたから、今後は呼び捨てになるのだろうな……――の家に招かれた。
その道すがら、理由を聞いたのだが。
「鬼牙族の女の人は、体がすごく弱いんです。事実、わたしのお母さんもそうですし」
「そのようだな。たったの二百メートル走っただけで息が上がるなど信じられん」
前世…俺の前の肉体であれば、十キロ走っても息が上がることなどなかったというのにな。
しかし、”お母さんもそう”だと?
…なるほどな。
混血種、か。
たまに魔界で発生する、簡単に言えば突然変異体である。
突然変異といっても、龍種とは別で、異種族同士が子を産むことによって生まれる存在だ。
基本的には、異種族どうしで子を産んでも、どちらかの種族の子供が生まれる。
しかし、本当に低い確率で、両方の親の特徴…しかも特に優れた部分を併せ持つ子供が生まれることがあるのだ。
これが、混血種。
生まれる確率は先ほど説明した通り、とても低い。
しかし、生まれた子供の潜在能力は非常に高い。
なにせ、親の優れた特徴をすべて併せ持つのだからな。
ちなみに、いまの世でこの混血種を自在に生み出すことができるのは、”色欲”を司るとされている、七大魔王が一人、アスモディウスただ一人であるとされている。
――それはともかく。
「でも、師匠は純血の鬼牙族なのに、男の人を倒して見せました!すごかったです!」
「いや、そこまで褒められてもなぁ…」
仮にもいくつもの戦争を経験している俺と、まだ外の世界を知らない少年とでは、なぁ…?
どちらかといえば、大人げないと思っているところだ。
というか、もはや師匠確定なのか?
まぁ、別に構いはしないのだが。
しかし、師匠と呼ばれるとウェルス達のことを思い出す。
――あいつら、元気にしているかな。
「そ、それで師匠……?その、弟子の話なのですが………」
上目づかいにこちらを見てくるローダ。
「…くく」
その視線に、思わず笑ってしまう。
いや、失礼だとは思うがね。
しかし、そっくりなのだ。
俺が一番最初の弟子になった少女、ウェルスを拾って彼女が俺に弟子入りを志願したときに。
その時にも思ったものだ。
――子供の願い事というのは、そう断れるものではないな、と。
「いいぞ。しかし、なかなかスパルタになる。ついてこられるか?」
「は、はい!ありがとうございます!」
キラキラした目で俺に礼を言うと、そのまま
ひしっ!
抱き付いてきた。
「ぬおっ?!」
胸がっ
「あの、師匠」
しかし、子供らしく胸が当たってるなんてことを気にも留めないローダは。
「ふつつかものですが、よろしくおねがいします!」
なんて、どこで覚えたのかもわからない言葉を言うのであった。
……ローダ。それ、使い方間違っているぞ。
***
「ここが私の家です、師匠!」
話をしながら少し歩くと、ローダの家についた。
俺の家と同じく、竪穴住居である。
ただ、少しアレンジしてあるな。
俺の家よりもずっと小さな家ではあるが、その周囲には柵が。
そして、入口が小さく、家の外壁には木材や石によって補強がされている。
きっと、大柄な男の鬼牙族が出入りしないからだろう。
情報によれば”お父さん”が人間のはずだしな。
「ただいまぁ」
「お邪魔します」
扉を開けて家に入るローダ。
それについて行き、あいさつをしてなかへ。
「あぁ、お帰り………母さん!ローダが友達を連れてきたよ!?」
「まぁ、珍しいこともあるものですね。……あなたは驚きすぎです。変に思われたらどうするんですか」
「あいた?!」ガゴーンっ。
俺を見て驚いた父と、それに対して冷静に突っ込みを入れた母(ガゴーンは、鍋で頭をたたいた音である)。
……おもしろいな家族だな。
にしても、父親の方。
どこかで見たことが……。
「…あいたたた……。ふぅ、まったくひどいことするね、ハニー」
ローダ母に流し目をするローダ父。
「ローダの友達の前だからって、変にかっこつけないでください。むしろかっこ悪いですよ」
「ぐさっ」
倒れるローダ父。
…うむ、やはりおもしろいな。この家族。
というか、完全に尻に敷かれているぞ。
「リリーさんは、友達じゃなくて私の師匠だよ、お父さん」
「……師匠?」
怪訝そうに俺を見るローダ父。
挨拶しておいた方がよさそうだ。
「あー、どうも。リリーといいます」
「あ、ご丁寧にどうも!僕、ローダの父のクーランと申します!意外に思うかもしれないけど、人類種です」
さっと、礼儀正しい挨拶を行うクーラン。
驚くことに、その挨拶の仕方がフェリアル領、宮廷魔法使いの礼儀作法であった。
「(思い出したぞ)」
心のなかでそういう。
こいつ、クーラン。
アリア姫奪還作戦の時、探知の魔法をかけた(かけていた)宮廷魔法使い。
なんでこんなところに……?
「騒がしい人でごめんなさいね。いつまでも玄関に居てもつらいでしょう?こっちにいらしてください」
「あ、どうも」
取り敢えず、今はなかに入ることとしようか。
***
「どうぞ」
「ありがとうございます」
出されたお茶を飲んで、一息つく。
ふむ。
内装が少し、おれの家と違うな。
なんというか……人間より、か。
まぁ、少しではあるのだが。
「よっと…。で、話を聞かせてもらってもいいかな?」
俺の前に座ったクーランが俺に問う。
話、ね。
俺もしたい。
貴重な情報収集ができるかもしれないからな。
「簡単な話ですよ。悪ガキどもがローダいじめてたので助けただけです」
「すごかったんだよ!こう、びしっばしって!」
そこまででもないのだが…。
今のままでは魔王と戦っても瞬殺されるほどには弱いのだし。
…まぁ良いか。
子供くらいには、かっこよくふるまっても。
「クーラン殿は、何故この村に?」
「ど、殿?……あ、あぁ、今から十二年前くらい前のことなんだけどね」
む、いかんな。
殿というべきではなかったか…。
それはともかく、そうして、クーランがこの村に来た理由を語りだした。
十二年前。
一人の勇者が死んだ。
そのかわりに一国の姫が救われたという事実があるものの、強力な戦闘能力を持つ勇者を失ったことで人類の力は衰退した。
そして、一番問題なのは、勇者を選定する”剣”が魔界に放置されたままになっていることだ。
これにより、新たな”不滅の剣”の勇者が生まれることもなくなっている今、この剣の奪還が急務だった。
「デュランダルの奪還ですか。それは成功を?」
「いや、失敗に終わったよ。はは、情けないことにそれで僕は大怪我をしてしまってね」
隠密性、速効性を持たせるために、この作戦は少数で行われた。
人数は10人。
魔法使い二人、雇われた傭兵が三人、王宮騎士団が5人。
この十人で”不滅の剣”のある場所に向かった。
しかし、その途中で大規模な魔物の軍団に遭遇。
何とか撃退しながら後退したものの、その時には残りが四人だった。
結果、残った四人で相談し、生存性を高めるためにバラバラになって、何とか王宮に矛くしようということになり、その場で散開。
散った後に、運悪く魔獣に遭遇して何とか撃退するも、大怪我を負った。
「その時に拾われたのが、タニア……嫁さんでね。いやぁ、あそこで助けてもらえなかったら死んでたよーハハハハハ!」
「笑い事ではありません。あの時はたまたま”成人の義”の途中だったからよいものを……」
成人の義?
なんだ、それは。
俺の疑問に答える者はいないまま、話は進んでいく。
まぁ、鬼牙族恒例の祭りとかなら、いずれ分かるだろう。
「そのあと何故王宮へ戻らなかったのですか?」
「あぁ、実はね。アリア姫…って言って分かるかな?まぁ、昔連れ去られた人類の姫様なんだけどね、あの子を誘拐された責任があって、ぶっちゃけ王宮に居場所がなかったんだよね。ま、もともと王宮は性に合わなかったし、これはもうこのまま一目惚れした嫁さんについて行こうかなって」
「…もう、まったく。しょうがない人ですね。そのせいで私の両親ともいろいろ問題があったじゃないですか」
「うう、お義母さんが厳しかったなぁ……」
なるほど。
そんなことがあったのか。
というか、途中から惚気ではないか……。
ローダ母…タニアも若干照れているし。
仲良きことは良いことであるから、別にダメではないのだが。
しかし、なるほど。
奪還作戦が十二年前か。
……ということは、おれが死んだのはいまから十二、三年前ほどか。
なかなか年月が経っているな…。
いや、そもそも、転生できたことが奇跡なのだ。
年月的な問題は気にしないこととしよう。
むしろ、十数年だったら弟子たちにも会えるかもしれないな。
――俺の身体は前と全く違うが…。
「とと、話を戻そうか。えーと、弟子入り?だよね」
「そう!」
「うーん、そうだなぁ……。ローダは女の子だからなぁ」
クーランは微妙そうである。
ま、そりゃそうだ。
誰だって可愛い娘を、訓練とは言えたたかわせたくはない。
俺もウェルスの時そうだったからな!
「いいじゃないですか。いつもはおとなしいローダがこんなにも積極的なのですよ?」
「いや、しかしなぁ……」
「お願い、お父さん!」
クーランの手を掴んで、おれにやったようにじっと上目づかいで見るローダ。
…決まったな、これは。
「ぐ……。はぁ、仕方ない。リリーさん、どうかこの娘のことをお願いします」
「わたしからもお願いしますね。この娘、ふつつかものですが」
「はい、分かりました」
「やったぁ!ありがとう、お母さん、お父さん!」
――こうして。
今日、ローダという混血種の少女が弟子になった。
超絶体調不良です…。
頭が痛い……。




