労働者の反乱
マルドゥクが火星の司令官を務め始めてから傷ついたイギギたちを掌握するのは早かった。
表向きにはもたついているように見せかけ、水面下で着々と準備を始めていた。
各採掘場にスパイを送り込んでは、不穏な噂を吹き込み、反乱の種を各地に撒いて行った。
アヌ一族とは種族の違う、爬虫類族の多くが過酷な採掘に従事させられていた。
彼らは大きく不満を募らせていた。
『どうして奴らばかりおいしい思いばかりする?』
『どうして俺たちはいつも不公平なんだ?』
それは同じ爬虫類族の血を濃く引き継ぐ、さらに、その中でも高貴な血筋のマルドゥクが彼らに、反乱の種となる思想を植え付けるには容易だった。
エンリルとエンキは今後地球上で反乱が起こることを警戒して、対策を講じようとしていた。
2人は地球での長期滞在が、不満の原因だと考えた。
だが明確な解決方法としては、さらに効率よく金を採掘し、一刻も早く任務を終わらせることだと考えた。
地球で暮らしていることが原因で、本来ある体内周期が乱れ、体調不良者が続出していた。
解決策として、ニヌルタの提案により、エデンにバド・ティビラという大規模な金の溶解精錬工場を作り、当初予定していた、火星を中継せず直接ニビルに輸送する計画が施行された。
より無駄なく、金を輸送出来るとし、さらには人員を乗せて人員の入れ替えも出来ると、帰還を求めていたアヌンナキたちは大いに喜びの声をあげた。
しかし物事には障害がつきもので、今度はバド・ティビラに送られてくる金がだんだんと減少してきていることにニヌルタは気がついた。
指揮官のエンヌギを伴い、現地を視察すると、アブズに派遣されたアヌンナキたちの不満が高まっているということだ。
過酷すぎる環境に、労働者たちは不平を言い、娯楽も嗜好品も足りず、ただ永遠と採掘に従事する暮らしに嘆いていた。
ニヌルタはエンキに見たままを報告した。
エンキはエンリルに報告し、エンリルはアヌに報告した。
「不平が出るのは理解出来る。たが星の命運の為にも金は必要だ」
ニビル星からの司令は変わらず金を採掘せよとのことだった。
エンリルは、労働者を仲裁しようと試みるために、アブズに赴いた。
しかし、これを好機とマルドゥクは見逃さなかった。
新しい人員、特に入れ替えが行われた後に入植した若い世代は容易に洗脳できると考えた。
ニビルの大気は見かけ上は修復されており、若い世代は大気の裂けた危機的状況を知らなかったのだ。
実際そんな彼らが過酷な採掘場での任務に素直に応じれるわけがなかった。
採掘しては、金を運搬し、ニビル星への発送準備をする。
終わりのない、永遠とも思える採掘作業を奴隷のようにただひたすら繰り返した。
そして、時限爆弾のように、抑えきれない、溜まりに溜まった鬱憤がついに爆発した。
反乱が起きたのだ。
労働者たちは次々に武器をとり、好戦的な暴徒と化した。
「戦え!!! 武器を取れ!!! 我々を重労働から解放せよ!!!!!!」
先導者は民衆を駆り立て、引き連れ、火を掲げ、エンリルが訪れている邸宅を囲み込んだ。
アブズ炭鉱指揮官のエンヌギが、隙をつかれ、捕まり、人質としてとられていた。
事態に気付いたエンリルの従者はすぐさま主人を起こし、エンキとニヌルタに援軍を頼んだ。
「何事だ!!」
エンリルは、怒りの形相で取り囲む民衆を見回し言い放った。
「一体なんのつもりだ。ことの重要さが分かっているのか? 貴様ら皆反逆罪であるぞ!!」
「我々はもう耐えられない!! 解放を要求する!! 受けないならば戦争だ!!!」
民衆の中から声が上がり、多くの歓声が上がった。
「エンヌギを解放せよ!! 話はまずそこからだ」
敵意を剥き出しにした憎悪に晒されたエンリルは毅然と答えた。
すでに、ニヌルタが率いる軍がさらに民衆を取り囲んでいた。
天磐舟が取り囲み、軍服を着込んだ先鋭兵が銃口を構え、牽制していた。
その圧倒的な物量と質の差に始めから反乱軍に勝ち目などなかった。
エンヌギを解放した反乱軍は、解放せよと要求をした。
そこでエンリルは承諾し、反乱に組した者全てをニビル星に帰還させることにした。
一見、事態は収縮し、解決に向かったと思われた。
しかし新しい一団が来ようと、このままでは同じことが繰り返されるのは目に見えていた。




