ルル・アメル・プロジェクト
創世記1章、27節
神は御自分にかたどって人を創造された
神にかたどって創造された
男と女にかたどって創造された
金の採掘の傍ら、エンキは地球の生物を取り憑かれたように研究するようになった。
地球とニビルの、環境によって育まれる生態系や、サイクル、病原菌や、種の種類まで際限なく興味は尽きなかった。
中でも、アブズ南方に生息する、腕の長い、二足歩行の1※猿人類の生育に興味を持ち観察するようになっていた。
アヌンナキ達には、自分達が地球に来る前から原生生物がいた事は把握しており、それを大いなる何者かが監視している事も分かっていた。
エンキは助手として、息子のニンギシュジッダを呼びよせた。
ニンギシュジッタはエンキに勝るとも劣らぬ、天才であり、息子たちのなかでも発明者、科学者としての才能は群を抜いていた。
そしてすでに彼もまた地球の生物に興味を抱き着目していた。
「父上、原生生物を遺伝子を操作してある程度進化をさせ、我々の代わりに働かせるというのはいかがでしょう?」
「私もそう考えていた。すでに候補となる生物は存在する。あとは私たちの手で刻印を打ち込むだけだ」
カプセルに入れられた原生生物は、瞳の奥に微かな知性を宿し、目の前のやりとりを恨めしく見つめていた。
エンキは科学に精通しているニンマーをアヌに協力を仰ぎ、呼び寄せ、ニンギシュジッダの発案について話し合った。
話がまとめられ、皆に報告をすると、一同をエンキのラボに集めた。
ガラス張りになったケースには、猿人、恐竜、その他幾つかの生物が入れられ、観察出来るようになっていた。
「どの生物のDNAも、二重に螺旋のような構造をしていて、この生物のコードとも呼べるものが解読出来れば、新たな生物を生み出すことは可能だと考えられます」
ニンギシュジッダはメーを活用して、マイクロスコープのように拡大したDNAを見せた。
エンリルを含めその場にいた多くのアヌンナキ達は、神のみが許された御技ともとれるこの発案を恐れ慄いた。
「そんなこと可能なのですか!?」
「倫理に反する!!!」
様々な意見が飛び交う中、ニンマーは静粛に発言した。
「宇宙の片隅から生命はそれぞれ独自の生態系を作ってきました。長い時間をかけ、一つの生命はさらに次、さらに次へと紡いできたのです。何もないところからは何も産まれません。私たちはただ、きっかけを与えればよいのです。生命が次へと繋がるならそれはまた、進化して私たちに恩恵をもたらすでしょう」
「奴隷労働はとうの昔に禁止されている。それは皆も存じているはずだ。それに自然の摂理に反する。存在の目的が我々の金の採掘の為というのは大いなる存在の意思に反するぞ」
エンリルはそう強く反対の意を提示した。
それに対してニンマーは、
「奴隷ではないし、あくまでも今ある存在に少し手を加えて進化させてあげるだけよ」
と牽制した。だがエンリルは、
「生命は道具とは違う。道具として働くのは他の生き物であってはならない。ましてや創造など、神に成り代わるとでも言うつもりか。これは宇宙の規則に反している」
これに対してニンマーは、
「神は私たちに、知恵と理解を授けていただけました。それは今この時、この星の生物の進化を導く為とも捉えられます」
「我々の知識、探究心を阻むものはなく、導かれるまま、築くままに、我々が得た知識を使う。これからもそうするまでで新たな生命体が創造出来ないようであればそれまでの話しで、もし成功したのならばそれがまた運命。そう考えます」
ニンギシュジッダは答えた。
「運命は確かに大いなる流れであり、始まりから終わりまで我らはそれに抗うことは出来ない。運命か、宿命か。しかし宿命とは己の志を現すもの。流れには抗えなくとも、流れを選ぶことは出来る。我らは慎重に見極めなくてはならない」
話はまとまらず、意見は対立した。
エンリルは、アヌに最終的な判断を仰ぐことにした。
ニビルではその倫理観の無視できない問題として重く受け止め、議論は長く続いた。
労働者を創る事を反対する者も多くいたが、元々はアヌンナキ自身も2※他の文明から同じように創られた存在であったという事実からプロジェクトを進めることにした。
ニビルでのアヌンナキ全体を巻き込んだ論争に終止符が打たれ、星の救済が第一優先と通達が出され、エンキはニンマーを助手に、ニンギシュジッダを科学顧問に任命すると、プロジェクトは開始された。
科学班全体を巻き込んでの、新たなる労働力の確保を目的とした一大プロジェクト、
“ルルアメルプロジェクト”
が始動する。
ルルアメルプロジェクトは、地球の生物を元に、言葉や指示を元に活動出来る、原始的な労働力を創り出すという、倫理や自然の摂理からは禁忌ともとれる新たなる生命体の創造であった。
とは言っても地球の素材を利用し原始的な労働者とはいえ命令通り忠実に業務を遂行する新たな生命体を創る、神の御技にも似たこの所業は生半可なものでは当然なかった。
メーによりアヌンナキと地球の生物のDNAの塩基配列を詳細にトレースし、より実用的な生物を造っていく中、地球上で多く生息していた、現代で恐竜と呼ばれている、大型の爬虫類型の生物と、数々の哺乳類や鳥類、魚類、原生猿人類と様々なパターンの遺伝子を掛け合わせてみることにした。
どのように遺伝子の掛け合わせるか、掛け合わせる量やバランスはいかなるものにするか、どの生物を母体にすればうまくいくか、子宮の活用方法や、異なる生物の精子を、異なる生物の卵子に注入させたりと実験は多岐に及んだ。
プロジェクト開始から7万2千年もの歳月が流れた。
ルル・アメルを創り出す過程で、様々な異形の生物、キメラやミノタウロス、マーメイド、鳥の頭や足を下直立歩行の生物等が造られていった。
だがいくら優れた科学力を有していたとしてもその強引とも言える手法に耐えられる生物は多くなかった。
その多くは、魂という重要な要素が欠けていたため、抜け殻のようであり、多くは役立てられることもなく死に絶えるだけであった。
「しかしこれでは労働力にならん」
エンキはそう漏らし、引き続き作業に没頭した。
その様子を訝しげに観察していたニンマーは、研究で一息つくために、よくハンターと同行して平原を訪れていた。
そこで気付いたのが、様々な動物がつがいで捕獲されていたことだ。
…種が違うものを交配させたり、遺伝子を組み換えたり、品種を改良したりと、エンキが何かを試そうとしているのは確かだ。
ニンマーは考えたが、エンキの考えの先は解き明かせそうもなかった。
それもそのはず、エンキは完成体に近い実験体のDNAを完璧にトレースすることで、捕獲した他の生き物から培養した細胞に、複写し、自動的に、効率よく、クローンを大量生産する計画を考えていた。
そのための構想は着々と練られており、ラボの着工も始まっていた。
この時代の地球はより厚い大気層に覆われており、ニンマーは地球の大気層、降り注ぐ宇宙線の割合、地球上の土、水、微生物、生物のDNAを徹底的に調べた。
彼女は元々、薬の調合や医療にも精通していたが、遺伝子学においても、エンキ、ニンギシュジッダに勝るとも劣らないずば抜けた知識を持っており、優れた博士であった。
彼女のおかげで、環境や自転周期が違う地球にアヌンナキが適応できたと言っても過言ではなく、元々、生命の種の進化、遺伝子の持つ神秘性を解明することに人生を捧げていた。
特にエンリルに裏切られた以降は研究に没頭していたし、容姿も雰囲気も変わり、以前の可憐な乙女な風貌は消え去っていた。
ニンマーは、エンキと違う視点からプロジェクトを進めていた。
彼女は、染色体を融合させるというのではなく、細胞と細胞を融合させて、新しい細胞を作るというものだった。
2つの核と2倍染色体を持つこの新しい細胞を増殖させていくと、また新しい生物が創り出せるのではないかと考えた。
その新しいハイブリッドな遺伝子を移植させればより優れた生物が出来上がるのではと考えた。
そんなニンマーは一向に理想の生物が造り出せず、ラボではいくつもの研究が棚上げになり、試行錯誤する中、ある種の道徳の壁を超えてしまう。
「我々の種族の遺伝子を掛け合わせてみるのはどう? 原生生物同士ではなく、例えばあなたの精子から取り出した細胞とDNAと原生生物の雄の精子とDNAを段階を踏んで構築しなおしてみるの。そして原生生物の雌に受精させてみるとか」
ニンマーはそう提案したが、
「もう試したんです。しかし受精したとしても安定すらしなかった。目が弱かったり、耳が悪かったり、内臓が機能していなかったり、手足が不自由だったりで」
「何かが足りないのか。成長と進化を促す素材。それは海で大地で空気だ。地球の素材で一からやり直して見るのはどうだろうか」
エンキは地球の生物の構成比がの多くが、地球由来の水分、ミネラルで出来ていることを理解していた。水や土には生命の記憶が宿り、種を繁栄させる。
地球の土や水から道具や、使用する薬剤や培養液を作り直し、実験を再開した。
今までの実験で最適だと思われる配合に組み合わせた精子を卵子と受精させ、雌の子宮に注入した。
エンキたちは受胎し、妊娠した雌が入れられたカプセルを観察しながら待ち侘びるように出産の時を待った。
いよいよ時が満ち、新生児を取り出すと、それはそれは美しい男の子だった。
一同は歓喜し、お互いを祝福し合った。
しかしそれも長続きはせず、問題が生じた。
男の子は成長しても言葉を話せなかったのだ。
何かが足りない…。
エンキはその先を実はずっと考えていた。
大地の母、ニンマーをプロジェクトに抜擢したのはこれが目的だった。
しかし過去のいざこざもあり自分から切り出すわけには行かず、ニンマー自身がそれに気付きその提案をする必要があった。
「そうか…このさらに先ね。地球の環境と素材に合わせ、DNAを調整した精子を雌の卵子と結合させる。それを器となる女性の子宮に注入する。ここまではいい。その器が問題なのかも…」
その場に空気が張り詰めたような沈黙が走った。
「さすがだ。私じゃ思いつかなかった」
エンキは内心思惑通りに行ったことに笑みを抑えきれなかった。
これで実験はより先に進む。
そう思うと胸の高まりが抑え切れそうになかった。
「器が問題。つまり我々の中から母体を募らなければならない」
エンキは厳かに言った。
「兄様、一体誰がその役目を負うと言うの? 下手したら化物をお腹に宿すかもしれない。生命の補償だってないのよ?」
「私の妻に相談してみよう」
「正気? ダメよ! 私が創った混合物よ。他の人を危険に晒すなんて出来ないわ。いいわ…。私がやります」
エンキは頭を下げ、ニンマーを抱きしめた。
「すまない…」
こうして時代は30万年前頃、プロジェクト開始から8万年の月日が流れ、ようやく彼らは数えきれないほどの数々の失敗、験を重ねた末、最終段階に入り、ついに彼らは、ニンマーの子宮を使用することで原初の人を作ることに成功する。
1※ オアスペでアスと呼ばれる種族ではないかと思われるがあくまで考察である。95万年前〜65万年前の考古学的な物証は少なく、100万年前〜80万年前の前期更新世、中期更新世以降期は氷河期が訪れ、気候変動も激しかったと推測されている。一説にはホモ・エレクトスともされるが、約50万年前にアフリカを出発してから主に海岸を通って分布域を拡大したと思われる種族であり、20万年前にはネアンデルタール人との種族抗争に敗れ、7万年前には現生人類の祖であるホモ・サピエンスとの生存競争に敗れたとされる。400万年前〜200万年前のアウストラロピテクス(猿人)、180万年前〜ホモ・エレクトス(原人)、ホモ・フロレシエンシス(ホビット)、ホモ・ネアンデルターレンシス(旧人)、ホモ・サピエンス(新人)と様々な種類が作られていくわけだが、オアスペでも様々な争い、淘汰、交配が行われ、アス、イヒン、ドルーク、ヤク、イフアン、オングウィー、そして現代人と滅びては栄え紡いでいく。しかし145万年前にすでに石器を使っていた痕跡が発見されているのもあり真相はまだ謎のままである。
2※ ニビル星は、プレアデス星人によって作られ、移住が行われたとされる。ニビル星人はプレアデス星人の派系だと考えられており、ニビル星人のテクノロジーや特殊能力はプレアデス由来の物。




