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「お互い苦労が絶えませんね」
「しかし、これはこれで一つの産業になるでしょうから」
そうなんだよね。ラガレットでの扱いを見ていても、灯り用の油に使ってる感じだったんだよね。と言うことを伝えたらこれもまた食いつかれた。
「灯りに使うとどうなるんだ?」
「明るくなりますね」
「そうだな……って、それはそうだろう!」
「てへ」
煙があまり出なくて悪臭もしにくいらしいですと答えたら、それは便利そうだな、となった。一応、植物性の灯り用油もあるにはあるのだが、ダンジョン産の木の実……その名も油実というのを絞るそうな。珍しいものではないらしいが、とにかく大きくて重いので、持ち帰ることが少ないために、安定した供給が見込めず、高級な嗜好品のような位置づけになっていて、結局買うのは貴族だけ。そして一個が金貨一枚になるかどうかと言う微妙な額。そして貴族が買う理由も、「貴族が買わなかったらハンターが生活出来なくなるだろ」という、なかなか世知辛い理由があったりする。「このくらいのサイズだ」と教えてもらったのはヤシの実サイズで、重さも十キロくらいあると言うから、ダンジョンの奥で見つけても置いてくるよね。もっとお金になる物を持って帰ってきたいだろうし。
そんなわけで、畑で生産出来る植物で油が作れるとなると、状況が変わるのだ。
「ううむ……どうにか出来るといいのだが……」
私も独占するつもりはないので種を少し分けたのだが、その種を手にじっと見つめるゴツい大男。何の絵を見せられてるんだろうね、私は。
しばらくすると、手早く手紙に何かを書き付けて種を袋に入れてセインさんに渡す。
「至急これをマーティに」
「かしこまりました」
一礼してセインさんが去って行く。
「うまく行くといいですね」
「そうだな……出来れば唐揚げは毎日食いたいし」
「やっぱりそっちが本命ですか」
「当然だろう」
わからなくもないけどね。日本人なんて食べることに対する情熱というか執念は世界トップレベルの民族。魂に染み込んだ食への飽くなき探究心は転生しても失われてはいない。
あとは……毎日唐揚げは健康のためにも良くないと、こっそりセインさんに伝えておこう。
ファーガスさんたちが城へ出掛けると、料理以外にする事がない。
油の濾過はしているが、かなり時間がかかるようになってきているから油を使って何か、と言うのもなかなか出来ないし。
と思っていたのだが、
「それで、今日は何をつくるんでしょうか?」
クラレッグさんがキラキラした目で聞いてくる。その後ろにずらりと並んでいる料理人たちも。
「いえ、その……さすがに今日は何も」
唐揚げがたいそう気に入ったというのは、見ればわかるけど、十日連続唐揚げはやり過ぎ、いや揚げ過ぎです。そりゃ油もなくなりますよ。この屋敷、何だかんだで使用人も含めて三十人近くいるのだから、朝から晩まで唐揚げを山のように作り続けていれば、ね?
「タチアナ」
「何でしょうか?」
「たまには街に出たいのだけれど」
「用意いたしますのでこちらへ」
タチアナと共に私の部屋へ向かうと、背後でクラレッグさんの声が聞こえた。
「料理長!俺も同行します!きっと何か新しいアイデアが浮かんだんですよ!」
「わかった。行ってこい」
浮かんでないし、外出の許可も出さなくていいってば。
もちろん、菜種油を使えば、他にも色々とつくることが出来る。小麦粉がいまいちだけど、天ぷらは作れるだろうし、フライも作れる。コロッケなんかも良さそうだ。他にも色々と作れるだろうけど、その油が少なくなってしまった以上、その路線は断念。となると、他に作れる物?
もちろん、前世では家族のために色々とつくっていた。今でもレシピは覚えている。だけど、こっちには無い物が多い。わかりやすいのが油だったわけだけど、他には例えば大豆製品系かな。大豆はないし、当然味噌や醤油もない。米だってない。私のレパートリーは割と普通の日本の家庭料理だから、米と味噌と醤油がない時点でだいたいアウトなんだよね。
っと待て待て。米も大豆もない、というのは……私の勝手な思い込みの可能性がある。何しろ私の知っている農作物は、私が畑で作れそうな物と村で作られていた物くらい。つまり、米や大豆がこの世界にないと決まったわけではない。豆自体はあるんだよ。地球では見たことも聞いたことも無い大きさと形だけど。もしかしたら大豆もあるかも知れないんだ。いや、大豆がなくても大豆のような性質の品種があればいい。
「タチアナ、探したいのは豆」
「豆ですか?」
「そう、豆。色んな種類の豆があるお店に行きたいの」
「それなら俺が詳しいですよ、お任せ下さい」
結局クラレッグさんが着いてきた。ま、いいか。食材の購入という意味では詳しいだろうから。
結論から言うと、空振りだった。
色々な種類の豆があったのだが、大豆や小豆のような豆はなかった。もちろんフェルナンド王国外にはある可能性があるけどね。ちなみにソラマメみたいなのはあったけど、クラレッグさんの知っているレシピの方が私の知識よりも豊富なので、スルー。
そして小麦も空振り。確か薄力粉とか中力粉って小麦の品種で違っていたと思うのだけれど、見せてもらった小麦粉は中力粉から強力粉の間のものばかり。念のためにと聞いてみたが、「小麦粉はみんなこれですよ」と言う回答。いくつか品種の違いもあるのだけれど、収穫時期が違うだけとの事。パンやクッキーにするには程良い感じだけれど、サクサクふわふわの天ぷらは無理か。
そして最後に油実。取り扱っている店にかろうじて在庫があり、購入してみた。何となくだけどオリーブオイルっぽいが、鑑定によると……若干の毒性があると出た。あくまでも若干で、大量摂取しなければ健康上の問題はないが、出来れば避けたいか。灯り用にするぶんには問題ないと言うのが何ともイヤらしい感じだ。
とりあえず今日のところはここまでにする。時間がそろそろ、ね。
歩きながらクラレッグさんに色々話を聞けたので、明日は他の店に行ってみようと思う。豆や小麦以外にも色々な食材がある。侯爵家では特に使わないような食材も多くあり、それらの中に思いも寄らない食材がきっとあるはずです、とクラレッグさんが力説するので、見て回ろうと思う。思わぬ掘り出し物があればラッキー、と言う程度だけど。
そんなわけで歩いていたら前の方に人だかりが。タチアナが目を飛ばし、クラレッグさんが私を守るように一歩前に出る。ああ、そうか。立場的には私の護衛と言う事になるのね……私に危害を加えられるような人が王都にいるとは思えないけど、そこはそれ、紳士としての立ち回りで、ちょっとだけお嬢様扱いっぽくてキュンときた。
「馬車の横転事故ですね」
「そう」
私も何度か馬車に乗ったけど、基本的に貴族の紋章の着いた馬車にわざわざ近づいてくる馬鹿はいない。だけど、商人や農民が使う荷馬車はそれこそ毎日どこかで接触事故を起こしているらしい。一応は馬車の交通ルールはあるんだけど、結構いい加減らしいのと、荷物を満載した荷馬車がいきなり壊れるなんてのも良くある話、というのをクラレッグさんが教えてくれた。




