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日が落ちる頃には野次馬もすっかりいなくなり、何ごとも無い平和な街の姿を取り戻していたが、リリィさんもエリーゼさんも城に行ったきり帰ってこない。日没前に来た手紙では色々と話が取っ散らかって収拾が付かず、朝までかかりそうとのことだった。そうだろうなぁ……六将とか言ってたし。
と言うわけで、マーガレットさん親子と四人で夕食。せっかく皆が来たのに、レイモンドさんもリリィさんもいないので、子供たちも喜び半分寂しさ半分といった感じ。仕方ないよね、お仕事だもの。そう思っても、子供に理解させるのは難しいのは前世でよく理解している。食事の後は部屋でぼけーっとしていた。いや、色々考えているんだよ。だけど……結論が出ない。うーん、仕方ない。神様に聞いてみよう。
だが、夜中に出ている間に誰かが部屋に入ってきたら面倒だ……よし。
「コール」
ヴィジョンを呼び出して、と。
「ベッドに横になって、私の身代わりに」
コクコク。ストン、バサリ。
私と背格好がほぼ同じだから――ごく一部を除いて――こうやって頭から布団を被ってしまえばバレないだろう。
そっと窓を開けて風魔法で空気を固めた球を二つ外に出すと、その上に飛び乗る。よしよし、問題なく立てる。ちょっとフラつくものの、空気の塊からジェットエンジンみたいに風を噴出してやると、シュッと前へ進む。足の裏にジェットエンジンを仕込んでいるなんてア○ムか、ゼロ○ロツーかしらと、余計なことを考えながら教会を目指す。
夜のとばりの降りた街を歩く人は少なく、まして空を見上げる人もほとんどいないので、人目を気にすること無く進み、すぐに教会の上空へ到着。マップを確認、と。
「んー、結構人がいるんだね」
教会の中までマップ表示出来たのは僥倖だが、礼拝堂の周囲に人が多い。正面の扉から入るのは目立ちそう……お、ここが良いな。
スイーッと風をコントロールしてふわり、と地面に着地。速度は出せないが、ずいぶんと滑らかに動けるようになったと自画自賛しながら通用口をそっと開けて中に滑り込む。よし、人はいない。今のうちに礼拝堂へ。そして、礼拝堂への扉をそっと開けて中へ。中はろうそくの明かりに月の光も差し込んで幻想的な感じ。こんな用事――神様への苦情――でも無ければ、ゆっくりと眺めていたいところだが、時間も惜しいので女神像の前へ。片膝をついて、両手を組み、目を閉じる。
何もない空間にあのモヤモヤが。
「ここに来る間隔短くない?」
「私も出来れば頻繁に来たくないんですけどね」
「ははは……」
「用件はわかってるわよね?」
見えないはずの冷や汗が見えた。
「魔王の配下、だよね」
「ええ。魔王五旗星とかいうのが来たかと思ったら直後に六将よ。どうなってんの?」
「うん、それなんだけど。どうも彼らが従う魔王は別々の魔王らしい」
「やっぱりか」
「え?」
「そんな感じはしてたのよ。魔王って一人じゃ無くて複数いるんじゃないかって」
「それなら話は早いね」
「で、魔王って何人いるの?二人?三人?それとももっと?」
「それはまだ確認中。ここからだとなかなか調べるのも大変でね」
「それは頑張って欲しいわ」
「そうだね……昨日と今日の連中がどこから来たかは教えておこうか」
「え?」
「街の南と南東にあるダンジョン。多分、君の周囲の人ならすぐにわかると思う」
「南と南東のダンジョン?」
「そう、そこの最奥に彼らの世界と繋がる穴が開いているみたいだ。まだ小さいけど、楽観視は出来ないかな。あのレベルの者が通れるとなると厄介だ」
「とりあえずそこをなんとかするのが最優先という事ね、わかったわ。あとは?」
「鋭意調査中。善処します」
それって、日本の政治家が問題を先送りにするときの言い方よね?ま、良いけど。
「そう言えば、私の村を襲ったのってゴブリン……ジェネラルだっけ?すごく強いんじゃないの?」
「そうだね」
「あのタイミングでヴィジョンが使えるようになったのって、あなたが何かやったの?」
「いや、何も」
「……」
「いやいや、信じて欲しいな。君の場合、あの日が十五歳の誕生日。丁度あの時間に生まれたんだ。生物タイプ、それも人間型の場合はだいたい誕生日、生まれた時間になることが多いんだよ」
「なるほど……」
大雑把にしか歳がわからなかったけど、誕生日がはっきりしたのはありがたい。人生で二番目に酷い日だったけど。ってか、アレが十五歳になった日か。あんなイベントがあるくらいならバイクを盗んで夜の学校に行って窓ガラスを割る方がいい。
「ところで、この前ここに来たときのことなんだけど!」
「え?」
「私、光ってたって!」
「ああ、それね」
「どういうことよ?!」
「当然でしょ。仮にも神と交信しているのなら、それなりのことは起きるさ」
「いや、私が光るとか勘弁して欲しいんだけど」
「そう言うと思って」
「思って?」
「ちゃんと調整しておいたよ」
「そう?」
「大丈夫、君が光ったりはしてないよ」
「それなら良いんだけど……とりあえず魔王の件、よろしくね。こっちで何か進展があったらまた来るから」
「うん、こっちも頑張っておくよ」
終了、と。戻ってきて、そっと目を開ける。
「何で、礼拝堂の中の女神像とかまわりの彫像が光り輝いてんのよ!」
あちこちに飾られている偉人・聖人の像や、女神が使わしたとされる聖獣とかも光っている。あの神、光らせないという選択肢は無かったのか。
しばし憤慨していると、マップに反応が。窓から漏れる光に異変を感じたらしく、こちらへ向かってくる人が大勢。マズい。ここにいるのはマズい。
「えーと、どうしよう、どうしよう……あ、そうだ」
アイテムボックスから書き取りの練習用にもらっていた紙とペンを出す。
「南と南東にあるダンジョンを調査せよ、と」
ささっと書いた紙を女神像の下へ無造作に放っておく。これできっと……女神からの啓示のように受け取ってくれると……良いなぁ。
っと、マズい、人が近づいてきている。逃げないと。
慌てて近くのドアから飛び出す。げ、向こうから人が来る。うーんと……こうしよう。
壁の彫刻に手をかけてとトトトトトッと天井付近まで登る。さすが私の身体能力。天井までは五メートルほどあるので、うまく柱や梁に隠れれば見つからずにやり過ごせるだろう。
下を数名の神官が走って行き、礼拝堂を見て騒ぎ出したところで下に降り、入ってきたときと逆の道順で外へ。すぐに風魔法で空へ飛び上がり、大急ぎで屋敷へ戻る。
周囲に誰もいないことを何度も確認して窓から入り、ヴィジョンを戻してベッドの中へ。
ふう、やれやれ。お休みなさい。
翌朝、シーナさんが起こしに来るよりも早く起きて身支度をすると部屋を出て階下へ。パンのいい香りがほんのり漂う中、食堂へ入ると、リリィさんたちが戻ってきていて朝食を摂っていたところだった。
「おはようございます。お帰りなさい」
にこやかに挨拶をしながら自分の席に着くと、すぐにシーナさんがサラダの皿を出してくる。タイミング完璧だね。




