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リリィさんは構わずにスタスタと、礼拝堂を進み、一番奥へ。
奥の壁には立派な美しい女神像が架かっています。綺麗な色で塗られているのはそう言う宗教なんだろうね。
「マリアンナ」
「はい、こちらに」
大きな鏡をマリアンナさんが持って来ました。
「レオナさ……レオナ、その仮面を外して鏡を見てくれ」
「わかりました」
仮面を外すと、リリィさんとマリアンナさんが視線を逸らします。一体どういうこと?まあ鏡を見てみようか。
我ながら絶句してしまいました。
茶色だと思っていた髪は、薄く桜色がかった金髪でした。そして透き通るような緑の瞳、スッと通った鼻筋に桜色の小さな唇。
どこかで見たような……って、あの女神像だよ!
鏡の中の私と女神像を何度も見比べる。上の方にあるから少し見づらいけど。違いと言えば、私の髪がぼさぼさショートカットに対して、女神像の方は腰よりも長いというくらい。顔立ちは……輪郭もほとんど同じなんじゃ無いかと言うくらいに酷似。
この国の宗教はこの女神を信仰する宗教だけらしいから、そこそこ信仰心があったら、私の顔を見ただけで五体投地もあり得るかも……神様、何やらかしたんですか?
「その仮面、着けてみるといい」
「はあ」
着けてから鏡を見た。
崩れ落ちた。失意体前屈って言うんだっけ?あんな感じで。
なんで仮面を着けるだけで、髪の色が濃い茶色になって腰まで伸びて、仮面の下、頬のあたりまでなんかアザみたいのが出てくるんですか?ぱっと見、顔の上半分に大きなアザがあるから仮面で隠してます、みたいな自然な感じになってる。これ、容姿を変える魔法の道具とかそう言う感じの物なの?
「女神の姿を体現した少女との邂逅に感謝の祈りを」
リリィさんとマリアンナさんが女神像に祈りを捧げ始めました。
私は……あ、困ったら教会で祈れって、神様が言ってたよね?祈ってみるか。
何もない空間にあのモヤモヤがいます。
「いやあ、やっと話が出来ますね」
「いろいろ積もる話というか、言いたいことが山ほどあるんですけど」
苦情とか苦情とか苦情とか。
「んー、ご期待に添えなくて申し訳ない。あまり長い時間は取れないんだよ」
「とりあえず、言い分だけ聞きましょうか」
「転生先、間違えちゃった♪」
「てへぺろ、でごまかされるとでも?」
「うん、だから追加でいろいろと力を。アイテムボックスとか」
「追加……他には?」
「全属性の魔法レベル最大」
「魔法、使えるんだ」
「もちろん使えますよ」
「知らなかった」
「あ……」
「どうやって使えば?」
「えーと……」
「使い方を伝えるのを忘れていたと?」
「……あはははは」
冷や汗ダラダラって感じが伝わってきた。
「はあ……まあいいです。なんとか生き延びてるので」
「結果オーライですね」
「あなたが言いますか。まあいいです。とりあえず質問が」
「何でしょうか」
「魔王とかどうなったんです?」
「今のところは何も。ただ、準備は進めてる感じですね。でも、もうそれほど時間は残されていないかなと言ったところです」
「一応、先日成人できたので、これから頑張ればなんとか間に合う感じですか?」
「そうですね。一気にいろいろな力が使えるようになってくるので、少しずつ慣らしていってください」
ま、この辺の質問はこんな所か。
「で、私のこの容姿は?」
「……」
「答えてください」
「成長に合わせて変わるように作り替えました」
「それはだいたい想像してました。それはそれとして、なぜあの女神像とそっくりそのままの瓜二つなんです?」
「それは、その……ある程度見目麗しい方がいいかなと思ったんですけどね。人間の見た目というか美的感覚ってよくわからないので、祈りとかそう言うのと一緒に伝わってくるイメージを当てはめたらこうなりました」
「それで女神……?」
「私、現世の人たちには女神という認識をされてるんですよ。神に性別なんて無いのに」
「で、あの仮面」
「目立たないようにすることも必要だろうからと思って」
「私のヴィジョンが持ってた理由は?」
「渡そうと思ったら、方法がそれしか無くて」
なんかもう聞くのが面倒になってきたな。
「私のヴィジョンについては?」
「あなたに力を与えたのは確かなんだけど、どういうヴィジョンになるかはいじってないから、元々だね。いや、生物タイプで良かったよ。物タイプだったら仮面を渡す方法が無くなるところだった」
「アイテムボックス経由は?」
「魔力を持った物は渡せないんだよね」
「はあ……」
「おっと、そろそろ時間が」
「わかりました……あ、私に与えた力の一覧とか、欲しいんだけど」
「はい、これ」
分厚い本を数冊渡された。
「これ、持って帰れるの?」
「アイテムボックスに入るはずだよ。魔道具とかは渡せないけど、これは普通の本だからね。あ、秘密が一杯だから日本語で書かれてる」
「わかった」
「じゃ、頑張って」
「……多分また来ると思います」
「う……」
たっぷり話し込んだが、実際には数秒だったようだ。その辺は神様がいろいろとやってるんだろうけど……何でまたリリィさんとマリアンナさんが五体投地を。って、遠くで教会の人たちも?!
「あ、あの……起きてください」
「すまない、つい」
ついって何だ、ついって。
聞くと、私が祈り始めたら体が金色に輝き始めたのだという。
そりゃ五体投地しますわ!
これ以上ここにいると、次に何が起きるかわからないので、リリィさんに抱っこされて教会を出る。自分で歩けるのに……と思うがそこは何も言わない。リリィさんもスタイル良いから……くっ、何という包容力。思わずこちらからぎゅっと抱きついてしまう。役得役得。
「はうっ」という声が聞こえるが、聞こえないフリ。
この声、男性が聞いたら大変なことになるのは間違いない。聞いたのが私だけで良かった。
マリアンナさんが教会のちょっと偉そうな、立派な服を着た人にまた袋を渡している。「このことは内密に……」とかいう声が聞こえた。何のことかは敢えて言うまい。
「聞きたいことが山ほどある」
馬車の中でそう言われ、マリアンナさんに抱き上げられてリリィさんの執務室へ。逃げたいけど逃げられない。
「何があった?」
「えっと……私にも何が何だか……」
言えるわけ無いでしょ。教会で祈ったら神様と連絡が取れて、その間中光っていたみたいですね、なんて。思わず目をそらす。
「ちゃんとこっちを見て話しなさい」
「はい、すみません」
ちゃんと正面を向くと、リリィさんがこちらをじっと見つめてくる。
こんな美人さんにじっと見つめられたら、男性じゃ無くても色々勘違いすること間違い無し。
でも、なんて答えたらいいのか……あ、そうか。
ちょっと身を乗り出すと、リリィさんもつられて少し距離をつめてくる。
で、唐突に仮面を外し、にっこり微笑む。ちょっと首をかしげて、頬に指を添えたりしながら。
「はうっ」
こうかはばつぐんだ、です。
耳まで真っ赤になってモジモジしています。部屋の隅でマリアンナさんもプルプル震えています。
しばらくニコニコしてから仮面を戻す。話が進まないし。
「……反応を楽しんでないか?」
「まさか」
楽しんでるなんてとんでもない。ただの眼福です。
「はあ……まあ、何が何だかわからない、と言うことなんだな?」
「はい」
「わかった」
マリアンナさんに目配せし、抱っこされて退室。だから歩けるんですけど?
一応、今日の残りの予定を聞いたのですが、特に何も無いとのこと。
読みやすそうな本があったら読みたいと言ったら、子供向けの教本みたいなのを持ってきてくれたので、読書タイム。こういうところから、こっちの世界の常識とか知っておきたいと思いまして。ほら、今後一人で生活する上で必要でしょう?
それにしても、いろいろやらかして欲しいと言われてたはずだけど、一番やらかしてるの、神様じゃん。私まだ何もしてないよ?この先どうするの?




