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庭師見習い



そんな毎日が10日ほど続いた。新しい生活環境にも慣れて来た。メーシャは意外と適応力のあるキャラらしい。しかし最近、悩みが2つある。


1つは、本当にこんな事で毒殺回避が出来るのかということだ。引きこもっていないだけましだとは思うが、ロレン様と話すのは食事の時にぽつりぽつりと会話をするだけだし、それ以外は屋敷内で会うことすら滅多に無い。


まだ、10日ほどしか経っていないのでこれからだとは思うが、命かかってるのでなるべく現状を早めに変えたい。

だってさシナリオ補正?みたいなのかかってやっぱり毒殺ルートへ一直線みたいなのは困るじゃん…?だからなるべく好感度上げときたいのよ…。

いや、攻略したいとかは全くないから。殺人鬼攻略とか恐ろしくて無理だから。


もう1つは、この空き時間。

おやつから夕食まで3時間以上あるんだけどやることが全くないの!

引きこもってた頃は空き時間はまったく苦痛に感じなかったんだけど、前世を思い出してから少し、性格が前世寄りになっちゃったみたいで暇に耐えられないのよ。


だって、前世では乙女ゲームあったし、ネットサーフィン出来たし…。

今じゃ、本を読むか、刺繍をするかしか無い。え?復習でもすればいい?私がそんな事をすると思うの??

時間外にまで勉強する元気はありません。


エマは仕事があるからずっと一緒にいてくれる訳では無いし、仲のいい友人なんているわけも無い。


うーん…暇だなぁ。


そう思ってふと窓の外を見てみる。

私の部屋からは庭が良く見えた。

今の季節は春。もう、散り始めの時期て流石に満開とは言い難いが桜が綺麗に咲いていた。

その花びらが地面に落ちて、一面をピンク色に染めている。


「綺麗…」


庭に1本の大きな桜の木があった。ほかの木と比べ物にならないほど大きな桜の木。


そう言えば、お爺様は庭に行ってもいいと言っていた。


どうしてもその桜の木を下から見たくて、私は庭に向かうことにした。


勢いよく走り出そうとした私は思わずドレスの裾を踏んずけて思いっきり転んでしまった。


「いたたた…」


なんでドレスってこんなに動きにくいんだろう…特にエマの選んだものはフリフリとしていて歩きずらいったらない。庭で転びでもしたら大変だと思い、シンプルなワンピースを出て着替えることにした。

別に家用のドレスを必ず着なきゃって訳では無いし、いいよね…?


初めて歩く道に少し緊張しながら外へ出てみると思っていたよりもとても広い庭があった。


色とりどりの花が咲き、噴水を囲むように可愛らしい花壇がある。少し先には温室らしきガラス張りの建物が見える。


植物でてきたアーチいくつかをくぐると、まるで花畑かのようにたくさんの木や花が植えられている場所に出た。


そして、その奥に綺麗な1本の大きな桜の木が見えた。


「うわぁぁ、すごい…綺麗…」


思わず木に駆け寄ってしまう。

下から見上げるのは自分の部屋の窓から見下ろすのとは比べ物にならないほど綺麗だった。


木の幹に手を当ててみる。私の手の何倍も太くて大きな幹。

風が吹く度にその花びらがひらひらと飛んでいる。


「懐かしいな…」


私が前世で引きこもってた頃、お母さんが庭にある桜の木の枝を1本切って持ってきたことがあった。


どうしてそんな酷いことしたのってお母さんに怒ったんだっけ…。


でも、綺麗だったから。って。

どうしても私に見せたいから。って。


きっとお母さんは私に出てきて欲しかったんだと思う。外にはこんなに綺麗なものもあるんだよ。って。一緒に見ようって。


今だから落ち着いて考えられるけど、その頃は何をしても面白くなくて、お母さんにも酷いことを言ったりしてた。


「会いたいな…」


なんで私が死んだかは覚えていないけど、お母さんの顔は覚えてる。会いたい。寂しい。


「っ…あれ…」


視界が潤んできた。綺麗な桜がぼやける。

泣いたってもうお母さんには会えないし、謝ることも出来ないのに。


「っ…うぅ…」


拭っても拭ってもポロポロと涙が零れて止まらない。

しゃがみこんで顔を隠す。

風が春の香りと桜の花びらを載せて、私の頬を撫でる。


「おい、あんたここで何してるんだ?」


そこに声をかけられた。


「えっ…」


驚いて思わずその顔のまま振り返ってしまった。

そこには茶色い短髪で切れ長の目をした少しつり目の青年が怪訝な顔をして立っていた。


「…泣いて…いるのか…?」


思わず彼を見て固まってしまっていたが自分が泣いていたことを思い出して慌てて背を向ける。


「泣いて…ない…。泣いてないもん…。」


嘘だ。顔も見られたし、バレバレの嘘。彼が近づいてくる足音がする。

ふっと、頭に軽く手が乗せられた。

トントンと優しくリズムを刻むように頭を撫でられる。


「…っ…泣いて…ないもん…」


それが優しすぎて余計に涙が出てくる。だって、お母さんが昔私にしてくれていたのにそっくりで、とても温かい。


「あぁ、そうだな」


それだけ言ってまた静かに頭を撫で続けてくれた。


涙も止まり落ち着いてきた頃に恐る恐る顔を上げ、彼の方をちらりと見てみる。膝をつき、こちらを優しげ目で見ていた彼と目が合った。


綺麗。


その言葉がピッタリだと思った。


別にロレン様のようにサラサラで光を受けてキラキラするような金髪ではなく、少し傷んだ焦げ茶色の髪。

肌も日に焼けていて決して白くはない。

茶色い瞳を縁どる切れ長な目が優しく細められているそのさまから目が離せない。

ひらひらと舞う桜の花びらが彼の回りを飛んでいる。


「…綺麗」


思わずぽつりと言葉をこぼしてしまった。


ポカンとした彼が吹き出した。


「あははは、俺が綺麗?あんた面白い趣味してんね。」


その笑い声に我に返ると途端に恥ずかしくなった。綺麗って!私、何言ってるんだろう。いや、まて、私は今7歳だ、これはセーフだ。子供の言うことだ、受け流してくれ。


「ち、違っ…!違わ、ないけど

…!違うの!」


混乱してうまく言葉が出てこない。


「くくっ、はいはい、わかったわかった。」


真っ赤になった私の頭をくしゃりと撫でているが、その口元は笑いを堪えられていない。絶対面白がってる…!


「ふぅ、それで、あんたどうしたの?使用人の誰かの子か?道に迷ったのか?」


彼は私がメーシャだと気が付いていないらしい。きっとワンピースを来ているせいだ。それに、私は引きこもっていたので屋敷の人たちにはほとんどあったことがないため顔を知らない人が多い。

使用人たちは家に子供を置いてこれないときは屋敷に連れてきてもいい事になっているのできっと私もそうだと思っているのだろう。


「あ、私は…」


名乗ろうとしてふと考えた。

彼は私が仕える旦那様の孫だと知ったら態度を変えてしまうだろうか。

こんなふうに親しく接してくれなくなるかもしれない…。

みんな親切にしてくれるけど、お友達のように接してくれる人はまだいない。


「ん?どうした?」


そうは言っても名乗らないわけにもいかないし、嘘の名前を言ったところでどうせすぐにバレてしまうだろうから正直に言うことにした。


「あ、えぇと…私はメーシャ」


メーシャ…?どこかで聞いたことが…。って考え込んでしまっている。


「あっ…まさか、旦那様のお孫さんか?あ、いや、お孫さんですか…?」


コクリと頷く。

彼は顔を青くすると膝をついたまま頭を下げてしまった。


「そうとは知らず、御無礼をお許しください。」


「そ、そんなことっ!」


「いえ、仕える家の方にあのような態度を…」


頭を下げたままの彼に困ってしまう。別に謝って貰うようなことは無いし、前世が一般人だった私に、貴族のプライドだのなんだのはほとんど無いに等しい。


「私は気にしてないので…!」


「しかし…」


彼はとても真面目なのだろう。中々顔を上げない様子を見て、少し思いついてしまった。


「…じゃあ、私の頼みを1つ聞いてくれたらこの事は許すわ。聞いてくれる?」


「…えぇ、わかりました。」


「約束よ?」


「…約束です」


やっと顔を上げて真剣な顔で私の顔を見る。よし、約束を漕ぎ着けたぞ。


「あのね、これからも…さっきのように接して欲しいの」


私の頼みにポカンとする彼。

沈黙が続き、我にかえった彼は慌てて言葉を続ける。


「っ!そんな、俺は庭師の見習いですので、お嬢様にあんな態度をとるわけには…」


「…約束って言ったじゃない。」


口を尖らせてみる。


「それは…そうですけど…」


「さっきの態度より、約束を破る方が失礼だわ」


その私の態度に彼の方が折れた。


「わかりまし…わかった。これでいいか?」


「うん!」


やった!勝った!対等に話してくれる友達をゲットした!!

嬉しくて彼の手を握ってブンブンと上下に降ってみる。握手大事。


「もちろん敬語も無し!お嬢様も無しだからね!」


渋々といった様子で頷く。


「…あぁ、でも流石に呼び方があんたのままじゃやばいで…だろ」


「うーん…そうかしら…」


別に私はあんたで構わないが、そこは譲れないらしいので何か別の呼び方を考えてみる。


「じゃあ普通に名前呼びでメーシャはどう?」


「却下だ。そう呼ぶのは旦那様とお坊ちゃんだけだろう。」


「うーん?メーちゃんとか?」


「却下」


「メエメエ?」


「あんたは羊か!!」


そう突っ込んでハッとなる彼が面白すぎる。2人して悩んでいると、


「お嬢さん…じゃだめか?」


と、彼が訪ねてきた。

お嬢さんかぁ…。うーん…まぁ、様じゃないならいっか。


「じゃあそれでいいよ。ところであなたのお名前はなんて言うの?」


「あぁ、俺はセディ。」


「セディ…。私はあなたのことなんて呼んだらいい?」


「ん?あぁ、セディでかまわない」


セディ。私の初めてのお友達。


「わかった!よろしくね、セディ」


「…あぁ、よろしくな、お嬢さん」


困ったように、そして少し嬉しそうに笑った彼はやっぱりとても綺麗だった。


その後、夕食の鐘がなるまでセディとずっとお話してた。

彼は今、16歳で私よりも9つ上だと言っていた。毎日、朝早くから庭師の見習いとしてのアルさんの下で働いているらしい。

アルさんは親族という訳ではなく、師匠と弟子という関係だと言っていた。


初めて出来たお友達が嬉しくて思わず顔がにやけてしまう。

夕食の時も顔がにやけていたらしく、お爺様にどうかしたのかと聞かれたが、なんとなく秘密にしておきたくて、なんでもありませんと答えてしまった。


ふふっ、だって秘密の関係の方が楽しいし、親密っぽいもん!親友だけの秘密っぽい!!


この日、メーシャの中で、セディが親友枠になった。



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