王都-008 カエランラとやらが連れてきた龍が本物
「もし、カエランラとやらが連れてきた龍が本物で、第五皇子が気に入ったら?」
「第五皇子に近づいたりするものですか!」
サテンの問いに、ララルーアが口を挟んだ。すぐ後ろに立っていた。
「あの子供は、嫌な人間には悲鳴を上げるし、気に入らなければ叫び続けるのよ。あんな扱えない子どもったらないわ。誰が近づきたがるものですか」
「懐かせたのではないのか?」
「母親の話をしてやっている時だけ、叫ばないとわかっただけよ。もしかしたら、あれは演技かも知れないけどね。他の王位継承権のある皇子達は、これまで、第二皇子から第四皇子までは、みんな病気で死んだのよ。不自然なほど簡単に、流行病が王宮の中だけで広まって、その皇子達のいる宮だけで重篤患者が出て、いつの間にか死んで行くのよ」
ララルーアの目は暗い笑みを浮かべている。犯人を知っていて、弱みを握れていると言う喜びか、それとも、そんな中、生き伸びた子供が自分たちの駒になっている状況に喜んでいるのか、わからなかったが、あまり明るい笑顔ではなかった。
「だから、あの第五皇子は、賢いのよ。叫んでバカな顔をし続けているおかげで、生き続けているのだから。あの子供が、わたくしの力でほほ笑みだしたら、ずっと孫を気にかけていた王は、わたくしの欲しいものをくださるはずよ。それさえあれば、わたくしの人生に怖いものはなくなるわ。後二年で、必ず手に入れなければならないものよ」
ララルーアはふてぶてしく笑った。テス子爵は下を向いた。好きなだけ権力をふるうララルーアを想像して鼻白んでいた。マゼラッセ男爵は、視線を庭に向けた。男爵の兄嫁だった。今も兄嫁で、マゼラッセ男爵の兄は、領地で狩猟に明け暮れている。その他の一切に興味がないと言うのは、宮廷での常識だ。自分も同じように、狩猟に趣味があればよかったのにと思う。そうすれば、こんな目をらんらんとさせた女に媚を売らずに済む。そう思うと、目を向けられず、自分の腹に視線を落とした。
サテンは、彼らをぐるりと見て、
「なら、私が行っても、叫び続けるかもしれないと言うわけか」
と言って、嫌そうな顔をした。そんな子供の相手をするとは思わなかったのだ。彼の思い描く子供の姿はもっと違っていらしい。ララルーアはあら、と言うように眉をあげると、
「母龍の話をすればいいのよ。龍の生態について語ってやれば、あれは黙って聞いているから。それで、あなたに気を許して人間らしい表情を少しでもするようになれば、わたくしが王を連れてくるから、それでいいのよ。王が見える場所でうなずかせるところまで芸を仕込んでちょうだい。わたくしがいいように話を作って、王に皇子の言葉だと伝えるわ」
と勝手なことを言った。サテンは、空を見上げ、息を吸うと、
「私には母親の記憶がない」
「誰が、あなたの母親の話をしろだなんて言ったの? だ・か・ら、龍の話をしなさい、と言ったのよ。あの子はそれで幸せなのよ。素晴らしいじゃない。龍のおとぎ話を聞いているだけで、幸せな家族の妄想ができるだなんて。なんて、お得な性格かしらね」
「黙って聞いているから、幸せだとは限らないのだがな」
とサテンは言った。ララルーアは、鼻で笑って馬鹿にした。そして、ふと、
「あの子供は綺麗なのよ。あなたは得したと思うようになるわ。じっと眺めているだけで幸せな気持ちになれるほど、あの顔は美しいもの。きっと、あれは王になるわ。あれだけ美しいのだもの。王にして着飾って、あの王玉に座らせたいって、誰もが思うはずだわ」
と夢見るような目で言った。サテンは、不思議なものを見るような顔で見た。愛人で得た権力を盤石のものにしようと、田舎で男を買って皇子に与えようとしている。まやかしの龍の母親の夢を見せて利用しようとしている。なのに、まるで、夢見る乙女のような顔をする。それこそ幸せがそこにあるとでも言いたげな表情だ。
しかし、その乙女のような女が、がらりと変わり、高慢な顔で顎をあげ、サテンを上から目線で見上げると、
「いい? すべての龍の話が素晴らしくなくてはならないわ。宮殿で、素晴らしい話がどんな話なのか、あなたはしばらくここで勉強をなさい。いいわね? 龍の気高さと、知力と、龍であるが故の悲しさを、子供が分かるような言葉で語れるようになるのよ。それが、わたくしがあなたに買い与えたものの代償よ。わかるわね? もしも失敗したなら」
「資金が続かなくなるから、村への投資は消えるだろう、と言いたいのだろう」
「資金がたんまりあったとしても、失敗したら、即中止よ。そして、倍返しで返してもらうわ。よろしいわね?」
ララルーアは猛々しい顔で笑った。サテンは気のない視線を送り、爵位の男達は下を見て、後ろめたさを隠した。




