王都-012 壁や廊下のランプが、部屋の中を照らしていた
侍女達は、サテンの薄い布切れ一枚のガウンをとった。
夜の帳のせいで肌寒い。しかし、中庭の暖気のおかげで涼しくて気持ちがいいとさえ思えた。壁や廊下のランプが、部屋の中を照らしていた。淡い光の中で、サテンの肌は、白く淡く輝いた。真っ黒の黒光りする髪に、白い銀色の肌の輝きに、バウンは一瞬、銀の海を連想して、鳥肌が立った。しかし、ララルーアは、光る肌を見て顔をしかめた。
「決して肌を出すような服は着せないでよ、バウン。服は同じ仕立てで構わないから」
「はい」
と言うバウンの返事に、サテンは不服そうな声を上げた。
「なぜだ? 仕立てるくらい我慢してやっても良い。ゆるく開いた服がいい。だいたい、おまえも必要以上に足も胸も見せているではないか」
「うるさいわ。おまえが女のように身体を見せびらかしていたら、王宮では龍ではなくて、色を売る男が来たと思うでしょう」
「それほど美しく見えるのか? 私の身体は?」
とサテンが皮肉な声でからかった。侍女達は慌てて服を着せつけている。そんな、突っ立ったままのサテンを見ながら、ララルーアはにこりともせずに、
「侍女達の顔を見るがいい」
と言った。侍女達の腕の動きがさらに加速して、ララルーアは冷やかに、
「女をたらす男じゃなくて、子供をたらせる男が必要なのよ」
と言い、ララルーアは侍女達を見て鼻で笑った。
サテンは、侍女達には見向きもしないで、されるがままに着付けをされる。廊下にあふれる日没の淡い光に目をやった。興味がないと言うのが一目でわかった。それからしばらく、バウンが言葉少なく指示を出し、ララルーアも眺めているだけだ。そして、しばらくするとバウンへ、
「わたくしも着替えてくるから、ここをお願い」
と言って出て行った。
化粧師が、サテンの化粧と髪を整えに呼ばれ、髪を整え顔を造った。黒光りする布に黒光りする石の飾りボタンがさりげなく見える。膝下に届く長い上着の裾には黒いレースがわずかにのぞき、タイトな腰は体の線の流れを強調している。
サッシュもなければ、ベルトもないのだが、簡素さゆえに気品があった。足にはピタリとした黒絹のパンツに短い黒の革のブーツで、バックルに金の飾りが映えるだけだ。
しかし、全身を包むその布地の光沢といい、縫い目が全く見えない仕立てといい、曇り一つない革、ボタンの石やバックルの金といい、どれほど良いものを使っているのか、見る者の目を楽しませるほどの質の良さだ。
支度を終えたララルーアが足早に回廊にやってきた。そして、テラスの月明かりの中、シュロを見るともなく見つめているサテンを見て立ち止まる。
サテンには、気品があった。背筋が伸び、滑らかにシュロを見上げたかと思うと、すっと動きを止める。腕が上がる。と思うと軽く指で前髪はじく。たったそれだけの動きが、空気の動きを伴っていて、まるで舞を舞っているかのように見えた。
ララルーアの気配に気づいたのか、サテンは静かに振りかえる。無表情で、馬車の中で見たような暗い裂け目のような瞳が、ララルーアを見た。まなざし一つで、気品が威厳にすり替わる。
昼間、中庭で寛いでいた姿はそこにはなく、まるで、黒い威厳をまとった闇がそこに立っているように見えた。ララルーアは、唾をごくりと飲み込むと、視線をはがしてバウンへ言った。
「参ります。数日向こうに滞在することになるわ。向こうでの手配もなさい」
と言い、そして、やっとサテンへの声が出た。
「さあ、サテン。参りましょう。よくって? おまえは、しゃべらないこと。第五皇子の前に出たら、ひざまずいて。上から見下ろして威嚇するようなことはしないこと。そして、きちんと子供をあやすこと。わかったわね?」
と念を押した。サテンは、上から見下ろすようにララルーアを見て、目を細めた。しかし、低いなめらかな声で、
「わかった」
と答えたのだった。




